公益社団法人日本鋳造工学会|Japan Foundry Engineering Society

Q&A事例(1)鉄

Q&A事例(1)鉄

球状黒鉛鋳鉄の共晶凝固時,黒鉛はオーステナイトに囲まれて球状に成長すると聞きました.オーステナイト(γ,固体)と黒鉛の界面で黒鉛がγから析出してより大きな球状になるのでしょうか?

 鋳鉄の根幹に関わる重要な質問ですネ.球状黒鉛鋳鉄の生成と成長には賛否両論いろいろな説があります.生成に関しては,雪の結晶と同じでどんなものでも核の元にはなるのですが,最近では硫化物の核がより効果的であるとする説が多くなってきました.冷却速度の大きい発光分光分析用のチルした球状黒鉛鋳鉄の試料などを観察すると,最初の黒鉛はどうも溶湯から直接発生しているように見えます.また,瞬時にオーステナイトに囲まれることもわかります.共晶凝固なのでオーステナイトトと黒鉛が同時に出るのは当たり前ですネ.その後の成長ですが,過去には液体と通じている部分がありこの部分を通して拡散が進み,黒鉛が成長するといった説もありました.細かな計算は省きますが,片状黒鉛の共晶セルの直径を4mm,球状黒鉛鋳鉄の黒鉛の直径を0.06mm,凝固に要する時間を20分,製品肉厚を60mmとすると,片状黒鉛鋳鉄の共晶セルの成長速度は6mm/h,球状黒鉛鋳鉄のセルの成長速度は0.2mm/hとなり,球状黒鉛の成長速度は片状黒鉛の1/30と言う事になるそうです.固体であるオーステナイトを通してのカーボンの拡散がいかに遅いかが分かります.質問に答えると,球状黒鉛鋳鉄はカーボンを固体のオーステナイト層を通して液体部から拡散により吸収し成長することにより,より大きな球状黒鉛となっています.

球状化率80%以上が球状黒鉛鋳鉄と規定されますが、その範囲内で機械的,物理的性質に差があるのでしょうか.

一般に同じ基地組織を有する鋳鉄において黒鉛粒の形状は,引張強さ,伸び,ヤング率等の機械的性質に影響を及ぼすといわれており,球状化率の低下と共に機械的性質も低下する傾向が見られます.鋳鉄では最大荷重近傍において,基地部の最大応力が黒鉛粒の端部ではなく,黒鉛と黒鉛の間の基地部に生じます.黒鉛球状化率が著しく低下した場合,片状黒鉛や粒状の黒鉛が多く存在することで黒鉛と黒鉛の間の基地部の連続性の低下,すなわち有効断面積が低下して,引張強さや伸びが低下します.しかし,球状黒鉛鋳鉄と定義される球状化率80%以上では,この有効断面積の低下の影響は小さく,引張強さや伸びの大きな変化はみられません.ヤング率も同様に球状黒鉛鋳鉄と定義される球状化率80%以上では変化は小さいのですが,球状化率70%以下になると低下の傾向が現れてきます.これは,黒鉛の片状化による弾性応力集中の増大,ひずみの増加の結果と考えられています.回答者の経験では,疲労限度や衝撃値も球状化率が80%以上では,ほとんど変化は見られませんでした.

また,基地組織が延性特性を有するフェライトの鋳鉄に比べて,パーライト基地の場合には,基地部の塑性変形が少ない状態で破断するので,黒鉛の形状の影響が大きくなると言われています.しかし,前述した様に球状化率が80%以上では,機械的性質の変化はあまり現れてこないようです.それ以下の球状化率になると,機械的性質に及ぼす球状化率の影響は基地組織の違いによって低下の程度が異なる結果も報告されていますので注意して下さい.

鋳鉄特有の鋳造欠陥にはどんなものがありますか? どのような機構で発生し,どの程度の大きさになりますか? また,発生しやすい部位を教えて下さい.

日本鋳造工学会編「鋳造欠陥とその対策」では,鋳造欠陥を発生箇所や原因により,A)寸法・形状不良,B)ひけ巣,C)ガス欠陥,D)割れ,E)介在物,F)外観不良,G)中子不良,H)鋳肌不良,I )組織不良,J)破面不良,K)強度不良,L)工業的性質の不足の12種類に分けています.

 鋳鉄鋳物ではA)からL)のすべての鋳造欠陥が見られますが,鋳鉄は黒鉛を多量に含有することで他の鋳造材料と異なり,異常黒鉛やチルの晶出が,鋳造欠陥となります.ここでは,鋳鉄特有の鋳造欠陥としてI )組織不良に関するものについてお答えします.

 チルは一般的に隅角部や薄肉部のように急速に冷却された場所に発生しますが,逆チルは,鋳物の中心部に炭化物が発生する不良です.特に厚肉鋳物ではMn,Cr,Moなどの炭化物を形成しやすい元素が最終凝固部に偏析することにより,逆チルが発生します.

 チャンキー黒鉛は鋳物中心部に発生した少し黒ずんで見える異常黒鉛組織です.チャンキー黒鉛の生成機構については諸説有り明確ではありませんが,過剰なCeやCaやNi,そして過剰なSi添加の場合に発生しています.チャンキー黒鉛の防止には,黒鉛の球状化を阻害するSbの添加が有効とされています.

 ウィドマンステッテン黒鉛は,ひげ状の黒鉛が成長した異常黒鉛です.FC250では鉛が30ppm,FCD600では鉛が50ppmを超えると,この異常黒鉛が鋳物全体(特に大物鋳物)に発生します.

 フラン鋳型に鋳造したFCDの鋳肌付近(1~1.5mm程度)に球状化不良が発生することがあります.これは,フラン鋳型に用いる硬化剤にSが含まれているため,溶湯中のMgと反応して球状化に必要なMgが不足するために発生します.

(『鋳造工学』87巻8号)

球状黒鉛鋳鉄は構造材として何℃まで使用可能でしょうか?球状黒鉛鋳鉄の温度変化に伴う強度について教えて下さい.

 球状黒鉛鋳鉄の温度変化に伴う強度の変化ですが,室温以下の低温では脆化現象を引き起こす事により,引張強さ及び耐力は増加し,伸びは低下します.一方,高温側では約200℃付近までは引張強さは概ね室温と同定度の強度を示しますが,300℃以上になると強度は急激に低下し,500℃以上では室温での引張強さに比べ,半分程度となることが報告されています.

 また,一般に構造材料として用いられている球状黒鉛鋳鉄は,基地組織がフェライトとパーライトの混合組織もしくは単相のものですが,特にパーライトを基地組織とするものは高温になるにつれて,強度低下が顕著に見られます.また伸びは基地組織によらず温度上昇とともに低下していきます.特に400℃付近では室温での伸びに比べ,半分程度となりますが,その後は回復傾向を示します.これは基地組織中のパーライト量が多いほど増加していき,基地組織がパーライト単相のものでは室温での伸び以上になることが報告されています.

 これらのデータから判断すると,球状黒鉛鋳鉄を構造材料として使用するには200℃までと言えるでしょう.(『鋳造工学』87巻9号掲載)

オーステンパ球状黒鉛鋳鉄は強度に優れているそうですが,大型の機械部品にあまり用いられていないのはなぜですか?

 「オーステンパ球状黒鉛鋳鉄」とは,特殊な熱処理で基地組織をベイナイトにすることにより,高靱性を持たせた高級鋳鉄です.一般的に,ADI(Austempered Ductile Iron)と呼んでいます.このADIは,一般的なパーライト系の球状黒鉛鋳鉄に比べて,高強度であるにもかかわらず高い伸びを示すことが知られています.熱処理のパターンとしては,A3またはA1変態点以上の温度(900℃程度)に加熱して基地組織をオーステナイト化した後,マルテンサイト生成温度Msより高い温度(375℃程度)で恒温変態させます.恒温変態には,通常ソルトバスが使われます.大物品の場合,肉厚であったりサイズが大きいために,内部まで十分な冷却速度が得られず,パーライトが析出する問題があります.また,無理に冷却速度を速めると,構造によっては大きな内部応力が溜まり,割れることがあります.ADI特有の水素脆性による割れの問題もあります.コスト的にも,大型のソルトバスが必要な事や,鋳鋼との競合においてADIと鋳鋼のどちらが優位かの課題があります.こう言う訳で,オーステンパ球状黒鉛鋳鉄は,大型の機械部品にあまり用いられないと考えられます.      (『鋳造工学』87巻11号掲載)

回転曲げ疲労試験により得たS-N曲線において,FCD700材で鋳放し材よりも熱処理材の方が傾きが立っているのは何故でしょうか

 FCD700材を熱処理すると引張強さ,硬さが向上する様に静的機械的性質が上昇します.しかし,伸びや絞りといった延性特性は低下します.これはFCD700材の鋳放し材がフェライト組織とパーライト組織の二相組織であるのに対して,熱処理材はパーライト組織の単相になるからです.

 球状黒鉛鋳鉄において基地組織中に存在する球状黒鉛はマトリクスとの接着強度はほとんど無いことから,試験片内部に球状の空孔を含んだ材料と見なせます.また,鋳鉄特有の引け巣なども疲労破壊の起点となることが知られております.そのため,応力を負荷すると,これら黒鉛の周囲や引け巣端部には応力集中が生じます.この応力集中箇所を起点として,疲労亀裂が発生し,その亀裂が進展した後,ある限界の亀裂長さに達すると疲労破壊を生じます.FCD700材の熱処理材はフェライト組織に比べて硬く,静的強度(特に0.2%耐力)が高いパーライト基地であるため,疲労亀裂の発生応力は高くなります.しかし,ひとたび疲労亀裂が発生すると,フェライト組織に比べ,亀裂に対する抵抗(じん性)が小さいため,亀裂進展速度は速く,疲労亀裂はほとんど応力振幅の繰返しを伴うことなく疲労破壊に至ります.一方,鋳放し材はフェライト組織を含むため,疲労亀裂の発生応力が低くても亀裂進展速度はパーライト基地に比べて遅く,亀裂が破断までに達する繰返し数は応力振幅の大きさに依存します.その応力振幅が小さいほど,繰返し数は長くなります.すなわち,両材のS-N線図の傾きは,疲労亀裂が発生してから破断までの繰返し数の差が影響していると言えます.

(『鋳造工学』88巻2号掲載)

残留Mgが低いFCD溶湯を丸棒試験片(例えば、直径φ15,30mm)に鋳込んだとき、球状化率が高い部分と低い部分が図1のように何層ものリング状に分布するのは何故でしょうか?

image002 図1

 

 丸棒試験片にリング状に破面の色が何層も見える現象は,その丸棒試験片を得る条件が関係し,例えば注湯温度や解枠後の冷却条件(基地組織への影響)がばらつくことも一因です.FCDのパーライトとフェライトが混在する組織を前提として考えてみると,破面の外径から白→黒→白(φ15mm)→黒(φ30mm)の破面色を示すのは,白と黒の破面(組織)粗さが異なっていると考えられます.フェライトが多い延性破面では,破面の凹凸が大きくなり,光の反射や屈折が多くなることから黒く見えます.逆にパーライトが多く破面の凹凸が小さいところは,光が反射するので白く見えます.

破面の色は基地組織(パーライト率等)以外に黒鉛球状化率とも関係があり,経験上丸棒破面の平均球状化率が25~50%程度と低い試料(残留Mg量0.020mass%程度)に,このようなリング状破面が現れます.一般的に冷却速度が大きいところは凝固速度も大きくなり1),そのため冷却速度が大きい外周部は,黒鉛粒数が多く,球状化率もよくなります.一方,丸棒径が細いφ15mmでは中心部に堤らの過冷却説2)に類似する過冷球状黒鉛が晶出されやすいため,球状状率も高くなると考えられます.以下の文献も参考にしてください.

1)中江:鋳物,67(1995)284  

2)堤,松川:鋳物,51(1971)342

(『鋳造工学』88巻1号掲載)

鋳鉄を鋳肌のまま使用する場合と表面仕上げを施した場合では,強度にどれほどの差がありますか?

鋳鉄の鋳肌には砂との焼付きによる黒皮酸化層や表面での欠陥(巣や介在物,あるいは異常組織)などが存在します.さらに鋳肌の表面粗さは不均一であり,その凹凸が著しい場合には応力集中による影響を考える必要もあります.引張強さはそれらの要因があっても,粗さの凹凸が極端に大きくない限りはあまり影響しませんが,伸びは大きく低減します.つまり,ねずみ鋳鉄の強度には鋳肌はあまり影響しません.球状黒鉛鋳鉄では鋳肌付き試験片と機械加工試験片の応力-ひずみ線図を比較しますと,弾性域の範囲で両者は大きく相違しませんが,塑性域の範囲では鋳肌の影響を受けて塑性変形能が極端に低下します.たとえば,6号けい砂程度までの粗さ(Rz=250μm以下)では機械加工試験片に対して,鋳肌付き試験片の引張強さは90%以上を確保できますが,伸びは大きく減少して50%程度になることもあります.鋳肌がさらに粗くなれば,両者はさらに低下します.曲げ強さ,衝撃値及び疲労強さは鋳肌の影響がより明確に現れます.一般には後処理としショットブラストが施されますので,その効果もあって鋳鉄の引張強さは鋳肌の影響をあまり受けないと考えて良いです.

(『鋳造工学』87巻10号掲載)

現場的にBa-Ca-Si系二次(注湯流用)接種剤を多めに使用すると,チャンキー黒鉛が生じやすくなるのは何故でしょうか? また,同一鋳物部位においてチャンキー黒鉛が出やすくなるとその部位には引けが小さくなる傾向があるが,それはなぜでしょうか?

ご質問の内容には,鋳物のサイズ,化学組成など具体性が無いので一概に言えませんが,チャンキー黒鉛と言ってよいかどうか分かりません.Ba-Ca-Si系接種剤は、その化学組成からするとFe70Siに比べて溶湯に融け込みづらいものです。更に「多めに使用」しているのでその傾向は助長されます。したがってこの黒鉛は、接種剤が完全に融け込めずに,溶湯中に高Si(高CE)域が出来、その部分に発生した黒鉛とも考えられます.右図に注湯流接種剤の融け込み不良で生じた顕微鏡組織(FCD400相当の15kg程度の鋳物の加工面)を示しました。取鍋接種用接種剤に比べて注湯流接種には、融け込み、添加量など多くの注意点が必要です.取鍋接種で効果のある接種剤が,注湯流接種でも良いとは限りません.

次に、同じ鋳物部品で、チャンキー黒鉛が発生したものの引けが小さくなっているとのことなのですね。これらの関係についての文献は見つかりませんが、接種剤添加量を増やしているのでSi分と黒鉛粒増加により凝固形態が変化したためと考えられます.球状化処理や接種などの炉前での溶湯処理でSi分が増えるとチャンキー黒鉛が発生しやすくなり、内引け巣は,鋳型壁の移動が無ければ晶出黒鉛の量が多くなると小さくなる傾向があります。さらに,鋳造条件(肉厚,化学成分,鋳型など),溶解材料,溶解方法,溶湯処理などによっても発生状況が変わります.

「鋳造工学」第76巻2月号(2004)掲載の「球状黒鉛鋳鉄の異常黒鉛とその対策」を参考にしてください.日本鋳造工学会ホームページ:https://www.jstage.jst.go.jp、巻,号,「チャンキー黒鉛」で文献検索できます.(『鋳造工学』第88巻第3号掲載)

図3                              図3

 

チャンキー黒鉛は,凝固時間が長い厚肉鋳物の最終凝固部に生成されることが一般的に知られている.更に溶湯処理剤(球状化剤や接種剤)を構成するCa,Si,Ce,Niなどの元素がチャンキー黒鉛の生成に影響を与えると報告されている. 一方,数kg~十数kgの小物鋳造現場での経験では、チャンキー黒鉛が出やすい製品において,注湯温度が高いより低い時の方が発生しやすい.これは,厚肉大物球状黒鉛品と真逆になると思われますが何故でしょうか?

注湯温度の影響に関しては,一般的に高温注湯の方がチャンキー黒鉛出やすいことが知られています1).厚肉大物品に於いて低い注湯温度の方が出やすいとの知見は殆どありません.だからと言って,貴殿の質問を否定することも出来ません.

チャンキー黒鉛についてイレギュラーな一例をあげると,自動車用一般肉厚が5~10数mm程度の薄肉筒状小物品だが,高Si組成(3.5%Si以上)のエキゾーストマニホールドでは,悪い条件が重なってくるとチャンキー黒鉛が発生することがあります.その原因の一つに低温注湯が挙げられています.

ここで、なぜ高Si組成の薄肉鋳物でもチャンキー黒鉛が発生し,かつ低温注湯の方が出やすいのか,その理由について以下に考えてみます.

チャンキー黒鉛の生成は球状化剤,接種剤及び配合地金中の微量元素を含めた化学組成的な主要因が存在するほかに厚肉鋳物であること,すなわち凝固速度が遅いことが共通点であると言われています2,3).凝固速度が遅いとは,最終凝固部で黒鉛粒数が減少し,球状黒鉛を囲むオーステナイト層の厚さが増大するので,炭素の拡散速度が低下し,黒鉛化が困難になるため球状黒鉛からチャンキー黒鉛に連続成長すると解説されています2).一方,薄肉鋳物で低温注湯の場合,凝固速度は早いため,黒鉛化すなわち球状黒鉛としての成長が困難になり,鉄セメンタイト共晶凝固してレデブライト組織になるのが普通ですが,高Si組成が故にチル化にならずに球状黒鉛でなくチャンキー黒鉛に成長し得ると考えます.また,低温注湯でチャンキー黒鉛が出た実例にはFe-Si系接種剤による注湯流接種の不均一,すなわちSiの局部的に濃化4)にも影響される一因と考えられます.詳しくはそれらの解説にご参照いただければ幸いに思います.

1) 菅野利猛:鋳造工学,76(2004)130

2)例えば,中江,辛ら:鋳造工学,75(2003)337

3) 津村 治:鋳造工学,76(2004)125  

4)木口昭二:鋳造工学,76(2004)114 

(『鋳造工学』第88巻第4号掲載)

FCD材の疲労試験において,回転曲げと平面曲げの疲労限度はほぼ同じ値でしょうか?もし,異なるのであればどちらの値が高く示し,それはなぜでしょうか?

回転曲げ疲労試験とは,一定の曲げモーメントを作用させた丸棒を回転させ,試験片平行部の表面に繰返し,曲げ応力を負荷させる疲労試験です.また,平面曲げ疲労試験とは,平板試験片に繰返し曲げ応力を負荷する疲労試験のことです.どちらの疲労試験も一般的によく行われますが,試験機の特性から試験片の形状が異なります.回転曲げ疲労試験は平行部を有するもしくは砂時計型の丸棒形状であるのに対して,平面曲げ疲労試験は板材です.

 いずれの試験も引張−圧縮による応力比-1の両振りの疲労試験ですので,平均応力は0であり,負荷応力が応力振幅となり,理論上,疲労限度は等しくなります.しかし,FCDなどの鋳造材では,疲労限度に及ぼす影響因子は,以下の様な要因が考えられますので,実際の試験結果では,疲労限度に違いが見られる場合もあります.

(1)試験片の危険体積の影響

危険体積とは,試験片中の繰り返し最大荷重,最小荷重が負荷される部分のことです.疲労き裂は危険体積中に存在する最大の欠陥(引け巣など)から発生すると言われております.すなわち,危険体積が大きくなれば,寸法の大きい欠陥の存在する確率は高くなり,疲労限度は小さくなることが予想されます.

(2)表面粗さの影響

疲労試験は試験片の表面粗さ,すなわち表面の凹凸が,応力集中により,破壊起点となります.鏡面仕上げにすると疲労限度は向上します.

(3)残留応力の影響

疲労き裂進展のメカニズムは,引張・圧縮応力によるき裂開閉口の繰返しであり,外力以外の残留応力にも影響します.一般にショットピーニングの様な試験片表面に圧縮残留応力を付与して,疲労限度を大幅に向上させる方法が知られていますが,このような表面改質処理をしなくても,試験片加工や熱処理によって残留応力が発生し,それらが疲労限度に影響を及ぼすことがあります.

(『鋳造工学』88巻6号)

片状黒鉛の形状はA型が良い,と言われる理由は?

 片状黒鉛鋳鉄の機械的性質は黒鉛形状と基地組織に大きく影響されており,「A型黒鉛が良い」と言われています.昔は,A型の方が黒鉛の先端が丸いので,応力集中が少なくなるため機械的性質が良くなるといわれた時期もありました.しかし,黒鉛を3次元的に考えれば,この説は正しくないと考えられます.

 まず,パーライトの多い鋳放しの片状黒鉛鋳鉄においては,D型黒鉛の割合が少なくA型黒鉛の割合が多くなるほど,引張強度と伸びがともに高くなります.D型黒鉛の周辺には柔らかいフェライトが生じやすい事と,伸びの低いD型黒鉛から破壊がスタートする事が,その原因と考えられます.

一方,フェライト化焼鈍をしてフェライト基地にした片状黒鉛鋳鉄においては,A型黒鉛が増すにつれて伸びは増すものの,パーライトの時ほど引張強さには大きな変化はありません.詳細は『鋳造工学』第77巻(2005年)12号P836を参考にして下さい.

いずれにしても,A型黒鉛になるほど伸びが高くなることは間違いないことのようです.材料が壊れるか否かは,伸びが0.5~2%程度しかない片状黒鉛鋳鉄においても,伸びが重要な要素となります.また,A型黒鉛になるということは,接種が十分に効いていることを示しており,このことは共晶セルが小さく,共晶セル数が多いことも意味しています.これも,A型黒鉛が良い別の理由と考えられます.

(『鋳造工学』88巻9号掲載)

鋳鉄溶解炉としてキュポラが誘導炉に変わってきていますが,その理由は?

 キュポラが誘導炉に変わってきた理由は企業の操業環境によって違うと思いますが,その代表的なものを紹介したいと思います.

 一つ目は,キュポラはコークスを燃焼させ連続的に溶解,溶湯を作る設備であることです.連続操業の場合には適していますが,生産量の減少に伴い稼働調整(間欠操業)をしようとしても,溶湯は連続的に生成されるため,一時的に溶湯を保持する設備(電気炉)が必要になります.いわゆる<生産変動に応じた操業がしづらい溶解設備>という点です.

 二つ目は,原材料である銑鉄,鋳物用コークスは大半が輸入に依存しており,市場の変動の影響を受けやすく,供給ネックや価格不安定さを抱えるなど<工場経営リスクが高い>という点です.

 最後に,廃棄物(脱硫スラグ)処理という課題です.球状黒鉛鋳鉄を生産する場合には,コークスから混入する代表的な不純物である硫黄を取り除く処理(石灰石などの造滓材を添加)が必要で,この生成する脱硫スラグが廃棄物となり<地球環境課題対応(廃棄物低減)が必要>になるという点です.

 このようにキュポラを用いた溶解は,操業条件に多くの制約があるため,電気誘導炉への移行が進んでいるようです.

 更に,2015年7月,我が国は2030年までに温室効果ガス(CO)を26%削減(2013年比)することを国連に宣言,この目標達成のために製造業は温室効果ガスを40%削減する必要があるとも言われています.このような企業を取り巻く環境変化を受けて,コークスに比べCO排出量が少ない電気誘導炉への転換が加速するのではないでしょうか.

(『鋳造工学』88巻10号)

Fe-C系状態図中の言葉の意味を教えてください.平衡状態図,初晶,共晶,共析,液相線,固相線,A1変態点,A3線,Acm線などイメージがわきません.

一般に平衡状態図とは,横軸に組成(含有量),縦軸に温度を取り,ある組成の溶液や合金などが,ある温度でどのような状態で存在している示す地図と考えると解りやすいでしょう.

そこでFe-C系複平衡状態図は,実線のFe-Fe3C系(準安定系)と点線のFe-C系(安定系)で表されています.炭素鋼では,FeとFe3Cの2相ですが,鋳鉄ではFeとFe3Cと黒鉛の3相になっています.

%e5%9b%b31図1

 0.4mass%C 組成:Xの鉄-炭素合金を,高温均一融液状態(液相)からゆっくり冷却すると,AB線と交差します.この線を液相線と呼び,液体中に固体(固相)が現れる(晶出)始める温度を示しています.また,溶融金属から初めて晶出する結晶(固相,固体)を初晶といいます.さらに温度が低下するに伴って固相が増加し続け,JE線と交差します.この線を固相線と呼び,全てが固体(固相)となる温度を示しています.ここでは全てγ鉄(固相,オーステナイト鉄)になります.さらに温度が低下するとGS線と交差します.この線をA3線と呼び,γ鉄からα鉄(フェライト)が析出(一つの固相から別の固相が現れること)し始める温度を示しています.さらに温度低下に伴いα鉄は増加し続け,PS線の温度(727℃)になったとき,残っているγ鉄は,α鉄(フェライト)とFe3C(セメンタイト)に相変態します.この変態が起こる温度をA1変態点といいます.この反応は,1つの固相から異なる2つの固相が共に析出する(同時に現れる)ので,共析反応といいます.

  1.0mass%C 組成:Yの合金を1000℃のγ鉄からゆっくり冷却すると,ES線と交差します.この線をAcm線と呼び,γ鉄からFe3C(セメンタイト)が析出しはじめる温度を示しています.ちなみにcmはセメンタイト(Cementite)のことです.

  3.5mass%C組成:Zの合金を,高温均一融液状態からゆっくり冷却すると,BC線(液相線)と交差します.この温度で融液からγ鉄が晶出し始めます.さらに温度が低下するとE’温度(1153℃)で,残っている融液からγ鉄と黒鉛(G)が晶出します.この反応は,液相(液体)から2つの固体が共に晶出するので,共晶反応といいます. 

(『鋳造工学』88巻11号)

「炭素当量」の出自は?同じCE値でもC%が高い時とSi%が高い時の溶湯の特性を共晶凝固と共析変態過程及びひけ傾向について教えてください.

炭素当量(Carbon Equivalent:CE )とは鋳鉄中のSi,P量の影響の度合を⊿関数1)で示すC %として表し,これと実際の鋳鉄中のC%との和の値で,次の(1)式で表すことが多くあります.

CE=C%+(Si%+P%)/3.2                     (1)

ここでの⊿関数は,溶融Fe-C合金に添加される第3元素が炭素の溶解度に与える影響,さらには炭素の活量の増加又は減少,つまり炭素を黒鉛あるいはセメンタイトとしての晶出のしやすさを関数化したものです.その詳細は最近出版された図書2)にわかりやすく解説されています.共晶凝固,共析変態過程及びひけ傾向に関して,同じCE値でもC%又はSi%が高い時の影響を考えてみましょう.まず,共晶凝固及びひけ傾向の場合,C% が高ければ高いほど,Cの活量が高くなり黒鉛として晶出しやすく,黒鉛晶出量も多くなると考えられます.よって,ひけが小さくなる傾向になります.

一方, Si%が高くなればなるほど, Cの活量が増加しますが溶湯への溶解度は減ります.そのため,黒鉛の晶出量は減少します.Si%が高すぎる溶湯は,ひけやすくなるという鋳造現場の経験は少なくありません.

共析変態過程の場合,同じCE値でもSi%が高い時,共析変態点は高温側に移動し,かつ変態温度が一定温度ではなく,ある温度範囲にわたって進行します.この共析温度範囲内ではオーステナイト,フェライト及び黒鉛の3相共存になることが特徴です.鋳鉄を熱処理するとき,この点に留意する必要があります.

1) F.Neumann, H.Schenck, W.Patterson:Giesserei Tech.-Wiss.Beih.,23(1958)1

2)例えば,日本鋳造工学会編:新版 鋳鉄の材質(日本鋳造工学会)(2012)10

(『鋳造工学』88巻12号)

鋳鉄を勉強すると出てくる鉄-炭素二元平衡状態図は、どんな時にどのように役立つのか?

状態図と熱力学のエリンガム図及び元素周期律表は、鋳造における3種の神器とも言われているものである.状態図はある化学組成と温度でどのような状態(相または組織)になるかを教えてくれる.

Fe-C状態図(下図)は,他の合金の状態図では見られない特殊な現象がある.それは、点線と実線の2つの状態図が一緒に書き込まれている点である.実線(準安定系)からは凝固時にチルが,点線(安定系)からは黒鉛が出る(晶出)からである.なお、準安定系を実線にした理由は,鋼の状態図が先に作られ,遅れて横軸を炭素当量(CE)とした鋳鉄の状態図が出来たからであろう.

さて、本題に入ろう.Fe-Cの状態図は以下のようなことを判定する場合に役立つ.

  • 鋳物が固まる温度が分かる.例えば, FC300(下図↓)は,約1250℃程度で固まり始め, 1153℃付近ですべて固まる.

② 鋳物の基地組織が予測できる.例えば、730℃以上ではオーステナイト(γ)に、それ以下ではフェライト(α)とセメンタイト(Ce)になる.

③ てこの原理を用いて,高温の液相(液体)から凝固までの固相と液相の割合(この場合γ量と液相),共晶凝固温度(1153℃と1147℃)から共析変態温度(A1:738℃と727℃)直前までは固相(γとGあるいはCe)の割合とγ中の炭素濃度が分る.A1域過時にγが分解・消失しフェライト(α)とGあるいはCeになり室温に至る.各相(組織)の割合や組成(C%)を読み取ることができる.

④熱処理を行う温度の予測ができる.

⑤ 実線の共晶凝固温度と過冷反転温度から、溶湯のチル化傾向を判断することができる.

他にも、状態図には多くの情報が隠れており,有効に活用すれば、健全な鋳物づくりに役立つ.

QA_Fig1

(『鋳造工学』89巻1号掲載)

鋳鉄の溶湯の中から非金属の黒鉛が出現するのはどうしてですか.さらにオーステナイトからも黒鉛が現れるのはなぜですか? 教えてください

確かに不思議な現象ですね.謎解きは,昔習った理科の「溶液の勉強」で溶媒と溶質,飽和溶液と過飽和溶液,溶解と沈殿,溶解度などを思い出そう.

 鋳鉄の溶湯とは,溶媒が液体の鉄で,溶質が主に炭素(C)とけい素(Si)の溶液と考えることもできます.広い意味で2つ以上の金属同士あるいは金属と非金属元素の溶液が固まった物が合金です.鋳鉄は鉄と炭素の合金です.鉄-炭素2元平衡状態図は,あるC%の溶湯が,温度低下に伴いどのような状態で存在しているかを教えてくれます.

 話を質問に戻そう.鋳鉄の溶湯(溶液)を鉄と炭素からなる溶液とすると,高温では飽和溶液に達していませんが,温度低下により飽和し,そして過飽和の状態になると溶質が溶湯中に晶出します.亜共晶組成(CE≦4.3%)の場合には共晶温度になるまで炭素は飽和せず,溶湯中に初めに現れる結晶(初晶)は,オーステナイト(γ鉄)です.過共晶組成(4.3%≦CE)の場合には,液相線温度に達すると溶湯から炭素が吐き出されて初晶の黒鉛(固相)として晶出します.溶湯組成が共晶(CE=4.3%)で温度が共晶温度に達すると,亜共晶,共晶,過共晶いずれの組成でも残液からオーステナイトと黒鉛が同時に晶出し始め共晶凝固終了時には,すべてが固相(オーステナイトと黒鉛)になります.すなわち,溶液から非金属の黒鉛が現われるわけです.

固体には,溶解度の代わりに固溶度があり温度によって変化します.鋳鉄の場合,共晶凝固直後のオーステナイト中に固溶する炭素は,組成(亜共晶,共晶,過共晶)に関係なく約2%※)(共晶温度1145℃)ですが,温度が低下し共析温度(723℃)に達すると,0.8%になります.この間に固溶していた炭素の約1.2%がオーステナイトから吐き出され,黒鉛として主に既存の黒鉛の周囲に析出します.すなわちオーステナイト(固相)から黒鉛(固相)が現れるのです.溶液,溶解度,固溶度と鉄-炭素状態図が謎解きの鍵でした. 

※)鋳鉄の場合この値はCE%なので実際のC%は,Si含有量の1/3を引いた値になります.

(『鋳造工学』89巻2号掲載)

中国からのREが入手困難になり昨年末は騒ぎが大きくなりました.今年に入り一段落ついたようですが,鋳鉄用黒鉛球状化材におけるREの役割について改めて教えて下さい.

REとは

REはRARE EARTH の略.希土類 と訳されています.
希土類元素は,周期表3(A)族であるスカンジウム(Sc),イットリウム(Y)およびランタノイド15元素を合わせた17元素です.ランタノイドにはLa,Ceなどがあります.

REが鋳鉄の黒鉛球状化材に使われた経緯

現在アルカリ土類金属のMg,Caなどが入った球状化材を使った黒鉛球状化処理が一般的に普及しています.球状黒鉛鋳鉄が開発された当初,鋳鉄中のS(硫 黄)やO(酸素)と親和力が強い元素としてMg,Caが単独で使われていましたが,鋳鉄の片状黒鉛の形状とは異なる黒鉛形状を呈した白銑から熱処理で作る 可鍛鋳鉄(今ではあまりなじみがなくなりました)に比べて熱処理時間が短く,延性に優れている点で工業化技術が急速に進み,球状化処理用の合金の開発に伴 う鋳放し球状黒鉛鋳鉄が使途を広めていきました.
REを含むミッシュメタルは鉄鋼では強力な脱酸効果があるということで使用されていました.一方,純Mgを使ったコンバーター法でも球状化処理に併用されていました.なお,REと言ってもCeが全体の約50%,Laは約30%またほかの元素も約20%含まれています.

Mg合金におけるREの役割

通常使われている球状化処理材には45%SiをベースにMg3%から7%,RE1%から2%,Ca2%,Al0.5から1%などが含まれています.
まずメインのMgによって脱酸,脱硫されます.その結果Mgと酸素や硫黄との化合物が黒鉛の核となると言われています.Mg自体は鉄にほとんど溶け込みま せんので蒸発し,時間とともに効果が斬減 (フェーディング)すると言われています.Ca,Alはどちらかというと必然的に含有している元素で意図的な添加によるものではありません.Caは1%か ら2%含まれていますが,Mgの酸化物や硫化物に比して沸点が高いため,反応の激しさを抑えることができます.一方多くなるとノロが増えます.
Alは脱酸材として広く知られていますが上記同様1%から2%含まれ,低めに抑えたものはノロが発生しにくくなります. さてREは酸素,硫黄との反応性(親和力)が高く,添加によって鋳鉄溶湯の脱酸,脱硫が行われます.Mgのフェーディングをカバーして球状化不良を抑制します.また,今般スクラップ材料に含まれている球状化阻害作用を持つ元素を中和する作用もあるとも言われています.

REの役割としては

球状黒鉛鋳鉄を製造するには球状化材にREが含まれたものを使った方が簡易で安定した品質が得られると言えるでしょう.ところが,これは肉厚が30mm以 下の小物中物製品を対象にした話です.大物の200kg,500kg,1トン,10トンの製品になるとREが逆にチャンキー黒鉛の原因になる場合もあり, 鋳造品の肉厚による凝固速度の相違の問題になります.これに関しては別途解説をしていきます.

黒鉛はなぜ球状,CV,片状になるのですか?

鋳鉄中に現れる黒鉛は,六方晶系の結晶構造(六角形)です.片状黒鉛は黒鉛結晶のプリズム面方向(六角形の各辺が連なる方向,a軸方向)に成長した黒鉛で,基底面方向(六角形の面,c軸方向)放射線状に積層した黒鉛が球状黒鉛(六角形の皮を継ぎ合わせたサッカーボールのマトリョーシカ)となります.球状黒鉛の生成機構は,次のような説があります.

(1)核説:球状黒鉛晶出のための有効な異質核が存在する.

(2)過冷説:球状黒鉛の生成が過冷度の増大に起因する.

(3)界面エネルギ-説:球状化元素の添加により黒鉛のプリズム面に吸着するS,Oなどの活性不純物元素が取り除かれるため,黒鉛のプリズム面と溶湯間の界面エネルギーが大となり,黒鉛がエネルギー的に安定な基底面方向に成長し球状黒鉛となる.

(4)吸着説:球状化処理により黒鉛表面にMgなどの活性な元素が吸着し,高温における黒鉛の塑性変形能が増大し溶湯圧により球状化すると考える.

(5)転位説:Mgなどの球状化元素が黒鉛基底面の成長先端に吸着してらせん転位を生じ,これがC軸方向への成長を促進し,球状黒鉛となる.

(6)気泡説:球状化剤のMgなどが溶湯中で気泡を形成し,凝固に際して黒鉛は気泡の表面で生成し,隣の黒鉛と接した後,基底面に向かって成長して球状黒鉛になる.

CV黒鉛は,球状化に失敗した時に球状黒鉛鋳鉄に存在していますが,これらの説やCV黒鉛化機構について,詳しく知りたい方は,下記の文献を参考にして下さい.これまでは,鋳型内に注湯された鋳鉄の凝固過程を直接観察することができなかったので,熱解析、凝固組織の観察などから理論的に推測するに過ぎませんでしたが,最近では,SPring-8の放射光を利用した“時間分解,その場観察X線イメージ”による鋳鉄の凝固現象の研究が進んできています.近い将来,鋳鉄の凝固の“その場観察”により黒鉛の生成の様子が明らかにされることでしょう.

<参考文献>日本鋳造工学会編:鋳造工学便覧(丸善)(2002)237,鋳造工学,79(2007)605,鋳物,56(1984)329 

球状黒鉛鋳鉄の回転曲げ疲労試験と軸荷重疲労試験の試験結果に差がみられました.その理由について教えてください.

回転曲げ疲労試験とは,一定の曲げモーメントを作用させた丸棒を回転させ,試験片平行部の表面に繰返し応力を負荷させる疲労試験です.また,軸荷重疲労試験とは,試験部の断面上のどの点においても単軸の引張圧縮状態になる様に繰返し負荷をかける疲労試験のことです.

さて,球状黒鉛鋳鉄の疲労試験を行うと,回転曲げ疲労試験に比べて軸荷重疲労試験の疲労限度は低下します.これは主として荷重方式の違いによる危険体積の変化が影響しています.危険体積とは,試験片中の繰り返し最大荷重,最小荷重が負荷される部分のことです.疲労き裂は危険体積中に存在する最大の欠陥から発生すると言われております.この場合,球状黒鉛鋳鉄の破壊起点となる欠陥は,引け巣や集合黒鉛,球状化されてない黒鉛が知られております.試験片平行部を有した試験片を用いた場合,回転曲げ疲労試験における危険体積は,平行部の表面近傍であるのに対して,軸荷重疲労試験では平行部全体が危険体積となります.この影響は破壊起点の箇所にも現れます.回転曲げ疲労試験では破壊起点は試験片表面もしくは近傍に存在するのに対し,軸荷重疲労試験は表面および表面近傍だけでなく平行部内部の欠陥も破壊起点となることがあります.

すなわち,軸荷重疲労試験における危険体積は,回転曲げ疲労試験に比べて大きくなるため,結果として大きな欠陥が破壊起点となる可能性が高くなります.そのため,疲労限度に差が生じたと言えます.しかし,基地組織の違いにより疲労限度に差が生じる場合と生じない場合があります.一般に基地組織が軟らかい(例えばフェライト地など)場合,試験法の違いによる影響が現れにくく,硬くて靱性に乏しい(例えばパーライト地など)場合は,存在する欠陥寸法が小さくても,試験法の違いにより疲労限度に差が生じます.

鉄-炭素2元平衡状態図は常温で基地組織はフェライトなのに,なぜパーライトが出るのですか?

確かに熱力学平衡状態では,室温でフェライトと黒鉛になります.しかし質問にあるように,実際の鋳鉄鋳物ではねずみ鋳鉄に代表されるようにフェライトとセメンタイトの層状組織であるパーライトが基地組織中に生成します.パーライトが出るということはセメンタイトが出るということであり,平衡状態ではないセメンタイトが生成する要因は2つあります.

一つ目は化学的な要因です.黒鉛はセメンタイトよりも熱力学的に安定なのですが,その差は僅かであり,セメンタイトも生成しやすいのです.Fe-C二元系の共析温度で比較してみると黒鉛共析が安定になる温度は740℃以下に対してセメンタイト共析が安定になる温度は727℃以下であり,その差は13℃しかありません.

二つ目は核生成・成長の要因です.共析変態における黒鉛は基地組織中からはほとんど核生成せずに凝固中に生成した既存の黒鉛が成長し,共析変態が進行することが知られています.しかし,平衡量になるまで黒鉛が成長するには,基地組織中の炭素が黒鉛に向かって拡散移動する必要があり,それに時間を要します.その前に鋳物が冷えて,セメンタイトが安定になる温度にまで冷却されるとパーライトが生成します.

パーライトを出したくない場合はセメンタイト共析温度以上,黒鉛共析温度以下で十分な時間保持すれば,黒鉛とフェライトの組織となります.基地をフェライトにしたい場合は,このような熱処理が施されます.反対にパーライトを出したい場合は,冷却速度を速くするかマンガン量を増加させるなどオーステナイト安定化元素を利用することで,黒鉛共析とセメンタイト共析の熱力学的安定性の差を小さくすることが有効となります.球状黒鉛鋳鉄においては,銅を添加してもパーライトが出やすくなるのが有名ですが,このメカニズムは少し複雑で,黒鉛と基地との間に銅の薄い層が存在するために基地と黒鉛間の炭素の拡散速度が非常に小さくなるためだと考えられております(ZOU Ying他:鋳造工学, 83(2011)7, 378-383).

チャンキー黒鉛をなくす方法についてお教えください.

もちろん黒鉛粒数を増せばチャンキーはなくなるのですが, 実際の大物製品ではそれほど黒鉛粒数を増すことは出来ないので, 現実的にはSb(アンチモン)を使ってチャンキー黒鉛を止めている会社が多いようです.
RE(レアース)のない溶湯をつくる方法や冷やし金を多様することにより, チャンキー黒鉛を防止している会社もあります. ヨーロッパなどでは, Sbの変わりにPb, Bi などを使うこともあるようですが, Pbは球状黒鉛の周りにトゲ状の黒鉛を発生させますし, Biでは整列状黒鉛などが発生します.
鋳造工学会誌の76巻2号P125に津村氏が, Sb/RE>0.7でチャンキー黒鉛がなくなることを示しています. REの50%がCe(セリウム)だと考えると, Sb/Ce>1.5でチャンキー黒鉛は防止できることになります. 海外の人などと話すとSb/Ce=2とも言います. 球状化剤から入るCe量とスクラップから入るSb量(ダライ粉や電磁鋼板にSbが含まれます)を加味して, Sb/Ce>1~2になるようにSbを添加します.
Sb/Ce比は, 製品の肉厚・重量等によって変わります. ただしSb量は好ましくは20-50ppmの範囲にする必要があるため, あらかじめ球状化剤中のRE量をSbがこの範囲に入るように調整する必要があります. Sbが50ppmを越えるようになるとSbによる部分的なパーライトや星状の片状黒鉛が出るようになります.
CuやSnを使う場合は, これらの元素がSbと類似の働きをしますので, Sb量は下げられると考えられますが, CuとSnの効果が不明なので, どの程度下げられるかはわかりません.

黒鉛球状化率とは何物なのでしょうか? 球状黒鉛鋳鉄品のJIS G 5502に示されている測定法と評価基準の一つなのですが,物理的にどんな意味合いがあるのでしょうか?教えてください.

鋳鉄とは,片状黒鉛,CV黒鉛,球状黒鉛などの黒鉛(非金属)が鋼の中に3次元に分散している自然に出来た複合材料です.そしてどの形状の黒鉛が存在するかにより,機械的性質(引張強さ伸びなど)や物理的性質(熱伝導度,ヤング率,減衰能など)が異なります.

特に球状黒鉛鋳鉄の機械的性質(引張強さと伸びなどの規格値)は,球状の黒鉛が顕微鏡観察(100倍,腐食なし)で平均80%以上なければ得られません. したがって,黒鉛球状化率は物性値ではありませんが,引張強さと伸びを保証する重要な評価基準の一つ,必要条件なのです.黒鉛球状化率が80%以上あるこ とを前提に,球状黒鉛鋳鉄の種類(FCD400,450,500,600,700,800)が存在する事も事実です.

QQさんへ:黒鉛球状化率と伸びや引張強さをグラフ化(横軸に黒鉛球状化率,縦軸に機械的性質)してみよう.

鋳鉄は,生産性の良い金型をあまり使わないのはなぜですか?

鉄には非鉄や鋼とは異なり,チル化という問題があります.これが,金型をあまり用いない最大の原因です.

鋳鉄は,ジキルとハイド氏のように黒鉛が出るタイ プ(片状黒鉛や球状黒鉛鋳鉄)とチルと言って黒鉛が析出しない硬くて脆いタイプの2面性を有した困った材料です.冷却速度に合った黒鉛核生成能力と成分に しないと,ハイド氏のようにチルになってしまいます.その他の問題としては,溶解温度がアルミニウム合金や銅合金より高いという問題もあります.温度が高 いので,金型が長持ちしなかったり,溶湯と金型がくっ付いたりすることになります.

しかしながら,鋳鉄の金型鋳造が全く行われていない訳ではありません.昭和51(1976)年11月には,「鋳鉄の金型鋳造」という本が日本鋳物協会(現 在の鋳造工学会)から出版されています.その本によれば,1965年における各国の鋳鉄生産量における金型鋳造の比率は,ソ連9.5%,東ドイツ 5.8%,アメリカ3%,西ドイツ1%となっています.

当時のショット回数は,500-5000回程度だったようです.また,鋳造工学会への「鋳鉄の金型 鋳造」に関する研究論文は34件出されています.どなたかが、生産性の良い鋳鉄の金型鋳造を開発すれば,鋳鉄の世界もダイカストのようになるのかもしれま せん.

球状黒鉛鋳鉄の引張試験用供試材は,JISG5502では,「鋳込みの終わり近くに鋳造する」と記載されています.しかし,実際の鋳込みは,製品等により時間がばらついて,結果として安定的な試験結果が出ません.そうならないようにするためには,(フェイディングを見越して)予めMgを高めにする等の工夫をした方がよいのでしょうか? また弊社では,ほとんどの場合(客先立ち会い等含めて),試験片は球状化処理直後に採取していますが,それは厳密には正しくないやりかたでしょうか?

球状化処理後,注湯までに長時間経過した鋳鉄溶湯では,球状化不良やチルの発生などの問題が生じます.

良好な球状黒鉛鋳鉄を得るための溶湯処理条件は,球 状化剤の粒度や添加量,溶湯の量,処理温度などの諸条件により変動しますが,標準的な効果の持続性(フェイディングが起こらない時間)は,10分程度と言 われています.そこで,10分以内に全ての鋳型に注湯し,最後の鋳型に注湯するのにあわせて,引張試験採取用鋳型に注湯するのがよいでしょう.

鋳込み終わり近くの溶湯を鋳造するのは,同じ取鍋から先に鋳込まれた試験片の材質の方が,終わり近くの溶湯から鋳込まれた引張試験片の材質より悪くならな いと考えているからです.鋳込みまでの時間が異なれば,引張試験結果もわずかに異なりますが,この場合安定的した試験結果を得ることが目的ではなく,同じ 取鍋から鋳込まれた鋳造品が,定められた基準以上であることを保証する意味もあります.

また,過剰なMg添加は,チルを誘発するので,最終鋳込みでのフェイディングを見越して,はじめからMg量を多くすることは,決して良い方法とはいえません.

なお,現実には,引張試験片として球状化処理直後の溶湯を鋳込んで採取したものを評価している鋳物工場も数多くあります.ただし,この場合も,数々の経験と実証の上で,客先と話し合って両者で取り決めて自社の責任で行っているものです.  球状化処理後,注湯終了までの時間経過にともなう残留Mg量の減少については,あらかじめ調査を行い,フェイディング時間をよく管理することが大切です.

片状黒鉛鋳鉄の引張りと圧縮の機械的特性は,どう違いますか?また,疲労試験において圧縮成分を含む試験を行った場合(応力比R<0),注意するべき点はありますか?

引張強さは鋳鉄の材質を表わす目安となっていることはご存じかと思います. JIS G 5501ではねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)の引張強さは,100〜350MPaとなっています.

圧縮試験は引張試験ほど頻繁には行われませんが,延性金属の 塑性加工性の判定や鋳鉄,コンクリートの様に脆い材料では行われることがあります.通常,引張応力はき裂を開口し,圧縮応力はき裂を押しつぶし閉口させる 作用があり,延性にやや乏しい材料においては,圧縮破壊応力は引張破壊応力よりも大きくなります.片状黒鉛鋳鉄では圧縮強さは引張強さの3〜4倍に達し, 引張強さの低い鋳鉄ほど,その比が大きくなるようです.

応力比R>0で行う疲労試験(引張-引張)を片振り試験というのに対し,応力比R<0で試験を行う疲労試験(引張-圧縮)を両振り試験と呼びます.両振り 試験ではR=-1(最大引張応力と圧縮最大応力が等しい)で行われることが多く,回転曲げ疲労試験がよく知られています.

丸棒や板で疲労試験片を作製し, 軸方向に繰り返し荷重を負荷し,疲労試験を行う報告もありますが,負荷する応力や試験片の断面積,ヤング率,試験片の長さによっては,「坐屈 (Buckling)」と言って,ある荷重で急に変形の模様が変化し大きなたわみを生じてしまう場合があり,注意が必要です.

鋳鉄の溶湯処理で,フラックス処理・接種処理・球状化処理は同時にやらないのは何故ですか?

それぞれの処理に以下のような役割があり,同時処理ではそれぞれの効果が十分に発揮できないからです.また,処理効果は経時変化により減衰していく(フェーディングする)ものです.処理時間の経過で質が変化するという点では,鋳鉄溶湯は生ものといえるかも知れません.

フラックス処理は,あまり聞かないものですが,元湯の性状を一定にするための処理と考えられます.元湯S%の調整には脱硫処理や加硫処理で溶湯中のS% を,脱酸処理では溶存酸素量をある量以下に低減させます.窒素ガスが悪さをするときは,Zr,Al,Ti(片状黒鉛鋳鉄のみ)など窒素と仲の良い元素を含 有する合金を添加します.これらは,接種処理や球状化処理の前に行われます.

片状黒鉛鋳鉄の接種処理は,一定性状にした溶湯の黒鉛化(溶湯から黒鉛を晶出させる)を促進させると共に共晶セル数を増加させA型黒鉛を得るための処理です.

球状黒鉛鋳鉄では,溶湯中で球状黒鉛が作られる環境を作る球状化処理後に接種を行い,黒鉛化を促進させて黒鉛粒数を急増させます.これにより引け傾向やチ ル化傾向が低下し健全な鋳物を造ることが出来ます.

このような順序は,電気炉熔解の原料投入順序や料理の味付けの基本「さしすせそ」にも通じるでしょう.先人の経験の積重ねや実験・研究結果に基づく現状 では最良の知恵です.しかし,環境が新しくなれば,変わる事もあります.常に新たな発想とその実証を怠らずに良い製品を作ってください.

鋳鉄のインモールド法とコンバータ法を比較すると製品の特性に差がでますか?

【コンバーター法】 は,コンバータの底部の一角に孔の開けられた黒鉛製の仕切り板で囲まれた反応室を設置し,コンバータを水平状に倒した状態で,反応室にMgを装入して蓋を します. その後,反応室を下にして垂直に起こすことで,溶湯とMgが接触し反応するものです.反応状況のコントロールは仕切り板の孔のサイズで調整されます.

一方,【インモールド法】 は,鋳型内に球状化剤を入れる反応室を設け,脱硫した溶湯を注入すると反応し,その後鋳型の製品部分に入るものです. 鋳型内での反応であるため,これに使用される合金は4~6%Mg合金が使用されます.

両者の球状化処理方法の違いによる製品の特性の差は,インモールド法は,コンバータ法に比べ,Mg処理と同時に接種されるので,フェーデイングが起こり ません.したがって,薄肉鋳物でもチルが出にくく,黒鉛粒数も多くなり,安定した鋳物が得られます

同時に引け巣も発生しにくい.しかし,鋳型内に反応室 を設けるだけに,コスト上不利である.また,ドロス巻き込み欠陥発生リスクが高くなり,フィルターの活用が欠かせません.一方,コンバータ法は,高S溶湯 処理も可能で,歩留りもよく,コスト面で有利です

品質面において,清浄な溶湯が得られ易く,インモールド法とは違った特性を示します.

鋳鉄の引張り試験を行ったとき、明瞭な降伏(弾性限)が認められないのはなぜですか?

金属の塑性変形は,特定の結晶面を原子がすべることによって起こります.

すべりは転位が動くことによって生じます.転位が何らかの理由により固着さ れて,すべりが困難なとき明瞭な降伏点が認められます.たとえば,軟鋼の場合,炭素や窒素などの小さな原子は鉄の原子間に入り力学的に安定な状態を作りま す.

これをコットレル雰囲気といいます.このため,転位をすべり始めさせるためには大きなせん断応力が必要となります.この時の応力が上降伏点となりま す.一度すべりが進行したあとはコットレル雰囲気による原子の拘束が解かれているために転位は小さなせん断力で移動することができます.この時に下降伏点 を生じます.

FCやFCDのような鋳鉄ではマトリクス中に黒鉛を含有しています.降伏点近傍の応力状態では,黒鉛片縁部での降伏の進行,き裂やボイドの発生, 内部での微小損傷が進行しています.特にFCでは低応力域から局部的な降伏,塑性変形,部分的な破壊が同時多発的に連続して発生しています.

これらの応力 ‐ひずみ曲線へ及ぼす影響が転位の固着による変化に比較して非常に大きいため,全体としての明瞭な降伏開始点が現れません.

鋳鉄の引け巣試験をしたいと思っていますが、試験片の形状について教えてください.

一般に,「鋳鉄ではひけ巣は発生しない」としていますが,実際にはひけ巣が問題となることがあり,これに関する研究報告も数多く発表されています.

引け性の実験には,アルミニウム系では円錐形の試験片を用いたりしているようですが,鋳鉄では使いにくいと思います.これまでの報告で,球形,立 方体など形状を工夫したり,押湯寸法を変えたりした例がありますが,得られた数値(ひけ面積,体積,比重など)が何を意味しているか,実際の鋳物との関係 をどう考えればよいかなど,はっきりした結論を得た例は少ないようです.

ひけ性の実験をされるのであれば,何を調べたいか目的をはっきりさせることが大切です.ひけ巣の発生する要因として,鋳造方案,溶湯の化学成分, 鋳型の強度などが挙げられ,これらおのおのについての報告も数多くあります.これらをよく調べて,場合によっては自分で独自の形を考案することも必要かも しれません.

データを検討するときには思い込みや偏見は禁物ですが,自分の考えに沿って,はっきりとした結果を得られるように実験方法を考えることも大切 なことと思います.幸い,鋳造技術者であればほぼ思い通りの形を作ることが可能ですから,この特権を十二分に生かしてください.

球状黒鉛鋳鉄の黒鉛はどうして球状になるのですか?

これまでのところ球状黒鉛鋳鉄の黒鉛がどのようにして球状になるのかについて統一された理論にまでには確立されていません.

(i)核説(ii)過冷 説(iii)表面エネルギー説(iv)吸着説(v)転位説(vi)気泡説など,いくつかの学説が提唱されていますが,製造現場で球状黒鉛鋳鉄製品を鋳造し てきた回答者が理解している考え方を紹介します.

鋳鉄は鉄と炭素,シリコンを基本に硫黄,燐など鉄源から含まれる元素や多種の合金元素から構成されている.原材料を溶かす,鋳造するといった鋳造工 程を物理現象として捕らえるには,溶融と凝固という固体と液体との相の移り変わりを考えることになる.更に球状黒鉛鋳鉄に関しては材料を溶かして,凝固さ せるまでに球状化処理を行う.

純Mgを直接溶湯に添加する方法や合金化されたMgなどを添加することによって黒鉛を片状から球状に変化させることが出来る.しかしその過程を説 明するには,溶湯から黒鉛が生成するという液相から固相が晶出する現象と溶湯が段々と凝固していく時間を追って変化する固相と液相の割合の変化を考える.

鋳鉄溶湯から黒鉛が晶出してくるというのは凝固の過程で液体の鉄に溶け込んでいられない炭素が純物質に近い黒鉛になるということである.更に球状 になるというのには溶湯という液体中では異物質の黒鉛に対してあらゆる方角から力がかかる.よって黒鉛は表面積の最も小さな球状になると考えられる.また 最初に炭素が液体から出て来るにはきっかけが必要なはずである.

液体に溶け込んでいない不純物や高融点物質があれば,液体とその物質との界面には原子レベ ルのわずかな空隙ができそこを起点に炭素が凝集を開始して成長すると考えられる.もちろん成長しようとすると上記のような液体からの力が働き球状になる.

また凝固中に出来た空隙も上記同様に球体となりやすく,温度低下とともに溶けきれなくなった炭素が黒鉛として晶出する.またそれに伴い周囲に分子同士の摩 擦熱を発するので冷却時の過冷を打ち消すように潜熱の放出が起こる.球状黒鉛鋳鉄の判定を熱分析で行えるのはこれに基づいている.

因みに,凝固中に黒鉛が丸くになって生成してくるのか,途中から丸くなるのかをその場で観察して見極める最先端の研究が現在も行われています.

長時間保持された溶湯でつくられる鋳物は,化学組成が同じでも「チルが出やすい」,「引けが出やすい」のはなぜですか?

この問題を理解するためにはFe-C系平衡状態図を理解する必要があります.

すなわち,Fe-C系状態図で黒鉛共晶温度Tec,白銑(チル)共晶温 度Tezはそれぞれ1154℃,1148℃といわれています.両者間の温度差⊿Tcはわずか6℃しかありません.したがって,鋳鉄が共晶凝固時,黒鉛の晶 出の容易さにより共晶温度が変化し,黒鉛の晶出が困難であるほど大きな過冷温度(過冷度増大)が必要となります.凝固速度が速くなることにより黒鉛凝固 (成長)に支配される溶湯中のCの拡散距離は次第に短くなり,間に合わなくなる場合には黒鉛共晶凝固から白銑(チル)凝固に変ってしまいます.

そして,黒鉛共晶凝固の場合,黒鉛が晶出することにより体積が膨張します.一方,白銑(チル)凝固の場合は体積が減少します.

次に,溶湯を高温で長時間保持すると何が起きているかを考えると,凝固時に黒鉛化不足が起きます.

黒鉛化不足となった溶湯は仮に化学組成(例え ば,C,Siの黒鉛化元素)が全く同じであっても,黒鉛核物質の減少により凝固時より大きな過冷温度が必要となることが考えられます.

つまり,同じ化学組 成で長時間保持しなかった溶湯に比較して過冷温度が大きくなるため,よりチル凝固になる危険性(傾向)が増大します.その結果,チル化凝固傾向の強い溶湯 (黒鉛化不足溶湯)は鋳物の最終凝固部位(押し湯の補給が困難または不十分な場所)には体積の減少により引けてしまいます.

したがって,長時間の溶湯保持はできる限り避けなければなりませんが,万が一長時間保持となってしまった場合には,加炭や有効な接種を行うことを お勧めします.

しかし,保持前の元の溶湯状態(例えば共晶温度)に100%戻ることはできなくなるという実験報告があることを参考までに付け加えておきま す.

ひけ巣は,どうして厚肉部や交差部の中心付近に出るのですか? その対処法は?

まずひけ巣が発生するメカニズムを考えます.鋳型に充填された溶湯は,温度の低下とともに液体収縮を起こします.

冷却が進んで凝固が始まると固体収 縮が起こりますので,足りない分の体積は液体側から補給することになります.凝固が進むにつれて液体側からの補給量が増加していきますが,凝固が終わりに 近づくと液体の残分が足りなくなるため補給ができなくなり,足りない分は空間となります.この空間がひけ巣です.ひけ巣はこのように発生するため,ひけ巣 は最終凝固部に発生します.

厚肉部や交差部の中心にひけ巣が発生しやすいのは,これらの部分が最終凝固部だからです.逆に,ひけ巣が発生するのは最終凝固 部ですので,厚肉部や交差部でなくとも,最終凝固部であればひけ巣が発生する可能性があります.

ひけ巣をなくすためには,最終凝固部を製品外に移動させればよいので,押し湯や冷やし金を利用し,最終凝固部を押し湯などの製品外に移動させる方 法が効果的です.また,注湯温度を下げて液体収縮分を減らすことも効果的です.

鋳鉄の場合には,凝固時に黒鉛が晶出して体積膨張を起こすため,この体積膨 張を上手に利用することでひけ巣をなくすことも可能です.

電気誘導炉で溶かされた湯は原材料の成分に近いですが,キュポラの場合はC,P,Sなどが増えるのはなぜですか?

一般的に「誘導炉」には低周波,高周波という分け方と,るつぼ型,溝(チャンネル)型という分類があります.どちらにしても,容器の中に材料を入れて加熱 (厳密にはジュール熱,自己発熱)するもので,コップの中に水と塩を入れて温めるようなもので,砂糖を入れない限り甘くはなりません.

一方,キュポラは,簡単にいえば筒の中に材料とコークスを入れて風を送り,コークスを燃やしながら材料を加熱溶解します.溶けた材料はコークスの間を通過 しながら底にたまっていきます.高温で炭素と触れるので,鉄は加炭され,同時にコークス中の硫黄,燐なども入ってきます.溶鉱炉から出る銑鉄と似たような ものです.また,送風によって,燃えやすい(酸化しやすい)シリコンや亜鉛などは蒸発したり,スラグになって排出されたりして低下します.その程度は,温 度,炉形,送風量,コークス比など様々な要因によって変化します.

 以上はごく一般的なことで,実際には炉の耐火物や雰囲気,スラグとの反応などで,るつぼ炉でも配合量からの計算と成分が異なることがあります.ま た誘導炉でもキュポラに似た構造のものがあり,このような炉では加炭されます.素形材センター発行の『鋳鉄の生産技術』*などをご覧ください.

*『新版 鋳鉄の生産技術』
発行:財団法人素形材センター
判型:A5判 625頁
価格:5250円(税込)
平成24年10月発行

ブローホール対策の一環として冷し金の適切な清掃や使用回数の設定/管理等が必要だと思いますが,なかなか情報がありません.冷し金の適切なメンテナンスについて教えてください.

確かに,“誰も聞かない,言わない”で,教科書的情報はありませんね.まず,冷やし金によるブローホールの発生原因から考えてはいかがでしょうか?

①冷やし金部位は溶湯が急冷されるために,溶湯表面の酸化被膜と共に空気も巻き込んで凝固してしまう場合,

②脱酸が不十分で凝固表面で発生するガスが急冷で表層に取り込まれる場合,

③湿気による水分が冷やし金表面にあり,水蒸気や分解,溶解したHが凝固時にガスとして捕獲される場合

④冷やし金表面の鉄酸化物が還元滓化し酸素が溶湯に取り込まれ,凝固表面で脱炭,リミングアクションとなり,急冷凝固で表層に取り込まれる場合

等が考えられます.

①は鋳込み方案も問題,② は製錬も問題,③ は鋳型にセット後の鋳型管理の問題もあるでしょう.④ は冷やし金そのものの管理の問題となるでしょう.

これらから,まず,溶湯に接する部分のサビは除去しておくこと,(ショット,グラインダ等での手入れ)鋳型にセット後の結露を防ぐこと(鋳型の熱 風乾燥等)が挙げられます.

海外のメーカで,溶湯側表面に被膜剥離できる塗料をぬっておき, 型被せ時に除去するというところもありました.回数はこれら の要因と冷却能としての,厚み,面積,重量,形状等の許容範囲から酸化ロスによる減量等を評価して使えるだけ使うと決めれば,と思います.

FCD450の黒鉛球状化率の算出で困っています。画像解析処理を使わず球状化率を算出する方法を教えてください.

超音波の伝播速度(音速)や共振周波数,打音試験などの非破壊試験があります.

測定条件と精度の関係から現場で普及しているのが音速法です.音速 (V )は,伝播媒体となる鋳鉄品のヤング率(E ),密度(ρ)からV ∝ √(E/ρ)・・・①で求めることができます.だからといって,これらの物性値を個々の鋳鉄で求める必要はありません.速度ですから伝播距離(L)と伝播 時間(T)からV=L/Tの式で計算できます.

音速測定が出来ても「音速と黒鉛球状化率との関係」が分からない.以下に双方の関係を説明します.

鋳鉄の名称に黒鉛形状が載っているのは,内在す る黒鉛形状がそれぞれの鋳鉄の機械的物理的性質を決定しているからです.ヤング率もその一つで片状<CV<球状の順に増加します.これらの鋳鉄の密度は, 約7, 000kg/m3(7.0g/cc)で大差なく,公式①から黒鉛形状と音速の関係が見えてきます.実際の黒鉛形状と音速の実測値より回帰式を作れば,音速 で黒鉛形状を推定できるようになります.

鋳放し球状黒鉛鋳鉄(球状化率80%以上)の音速は,5600~5700m/s,CV,片状黒鉛はそれぞれ 5200~5450m/s,4000m/s台の範囲です.詳細は6月開催のUT講習会に参加ください.

電気誘導炉で鉄原に銑鉄を使用するとひけ傾向が緩和されるのはどうしてですか? 銑鉄が白銑組織の場合と黒鉛が晶出している場合とでは違うのですか?

難しい質問です.銑鉄を使用すると,ひけ傾向がどう変わったか,ということを定量的に示した文献をあまり見たことがありませんが,現場的にはありそうな話です.

日本では,鋳鉄製造時には一般的に鋼屑を使用しますが,いろいろな事情から銑鉄を使うこともあります.鋼屑を使用すると加炭が必要ですが,銑鉄で は通常加炭は必要ありません.ひけ傾向が炭素量と関係がある(凝固時の膨張量は黒鉛量に対応する,とされている)とすれば,鋼屑の場合,加炭量が不足する ことがあると,ひけが出やすくなる,というのかもしれません.

炭素量のほかに,微量成分も鋼屑と銑鉄で異なることがあるのに加えて,加炭材に随伴する元素 もあるので,これらの影響でさらに差が大きくなるとも考えられます.加えて接種も当然黒鉛量に影響します.それならば,すべての成分,工程を同じにすれ ば,ひけ傾向は同じか? ということになりますが,可能でしょうか?

銑鉄の組織も高炉からの出銑時の状況等で種々変わりますが,ごく大ざっぱにいえば,白銑組織よりも黒鉛化している方が,再溶解して鋳物を鋳造して も黒鉛化しやすい成分になっているはずです.

黒鉛が大ければ凝固収縮はすくない,つまりひけ傾向を緩和する銑鉄となるでしょう.

なぜセメンタイト(Fe3C)をチルと呼ぶのですか? パーライトはフェライトとセメンタイトの積層組織と聞きましたが,このセメンタイトもチルなのでしょうか.

チル組織中のセメンタイトとパーライト中のセメンタイトを理解するには,Fe-C系状態図での安定系,準安定系状態図を見ていただく必要があります.図1にFe-C系状態図(炭素10wt%まで,標準状態)を示します. 

図1  図1 Fe-C系状態図

この図で,チル組織のセメンタイトは,溶融状態から1146℃で準安定状態を表す実直線の,E-C-Fでの共晶反応によって現れます.冷却速度が十分大きいとき,

L(液体)→γ(fcc)+FeC(斜方晶)

の準安定凝固が起こるのです.γ(オーステナイト)とFeCの共晶組織をレデブライト(ledeburite)といいますがこの組織は硬くて脆く,鋳鉄の破面に現れると白く見えるので,これをチル組織といいます.

 パーライト中のセメンタイトは,図1中の723℃のP-S-K線での共析反応によって現れます.冷却速度が十分大きいとき,

 γ(fcc)→α(bcc)+FeC(斜方晶)

のように,固相から2つの固相が同時に出てくるのです.この組織をパーライトといい,フェライト(α)とセメンタイト(FeC)が層状に重なった組織になります.これは十分な靱性があります.このようにFeCは状態図上の炭素量6.67%の縦の線上の化合物であり,結晶の種類としては同じものです.しかし,その生まれ方は異なっており,溶湯から凝固によって晶出したものがチル組織となります.

 さて,ここまでは2種のFeCが,生まれは違うが結晶は同じだとしました.しかし,最新の研究では,図2に示したように1),パーライト中のセメンタイトは一体の結晶ではなく,数十ナノメートルの微結晶から構成されていることが判ってきました.

図2図2 パーライト中のセメンタイトの微細構造

すなわち,固相から析出したパーライト中のセメンタイトは,その結晶が不完全であることが判ります.パーライトを熱処理することによって,この結晶が構造を変えていることが明らかになりつつあり,この意味では2種のFeCが同じものではないことになります.

1)山口浩司:SEIテクニカルレビュー175(2009)57

熱処理すると鋳物の機械的・物理的性質が大きく変わると教わりましたが、アルミ合金や銅合金の鋳物では少なく鋳鉄だけ大きいのはどうして?

鋳鉄は室温ではフェライトとパーライトと黒鉛からなる組織ですが,これを熱処理して室温からゆっくり加熱するとオーステナイトと黒鉛の組織になります.こ の状態から冷却すると,共析反応によってオーステナイトがフェライトと黒鉛になります.その後,Fe3Cが析出しパーライト組織になります.

鋳鉄の熱処理 では,焼なましでは炉冷,焼ならしでは空冷,焼入れでは油冷または水冷処理を行うので,この熱処理の過程でオーステナイトからの冷却速度によって,基地組 織中のフェライトとパーライトの割合が大きく異なってきます.球状黒鉛鋳鉄の強度は基地組織に依存するので,熱処理によりフェライトとパーライトの割合が 変化すると機械的性質も大きく変わることになります.

例えば,球状黒鉛鋳鉄では,鋳放しで引張強さが450~500MPa,伸びが10~12%である材料 に,焼きなましを行うことによって強度はやや低下しますが,伸びは15~20%に上昇します.

また,焼ならしを行うと,引張強さは600~700MPa, 伸びは3~8%程度となります.そして,焼入れ・焼戻し処理を行うと引張強さは800~900MPa,伸びは2~3%程度になるようです.

鋳鉄の坩堝型誘導炉(3倍周波~500Hz)の500kg~2トンの炉材としてシリカ質のドライスタンプ材が使われているようですが,天然シリカと溶融シリカの違い,硼酸の添加量について教えてください

一般的に,誘導炉用酸性スタンプ材には天然シリカと電融シリカがあります.

天然シリカ材は天然シリカ:100%,電融シリカ材は天然シリ カ:50~80%・電融シリカ:20%~50%で形成され,両材質ともに硼酸0~数%を含みます.この硼酸ですが,シリカ自体は粒度と密度(充填状態)に よって差はあるものの,概ね1000~1200℃以上までは焼結(強度発現)をしないので,1000℃以下でも強度を発現させるためのバインダーとして添 加します.

硼酸量を変えることで強度の調整が可能ですが,天然シリカと電融シリカでも強度発現性が異なり,一般には天然シリカの方が焼結し易い性質を持っ ています.参考として表1に一例をご紹介します.

表1 ホウ酸量α%における天然・電融シリカ材圧縮強度一例

※)電融シリカ30~40%含有品

強度発現性以外にも,天然シリカは電融シリカに対して安価ですが,熱による構造変化(体積 変化)を起こし易い性質があります.このため,適用操業として天然シリカ材は温度変化の小さい低周波炉・連続操業,電融シリカは温度変化の大きい高周波 炉・急速溶解,間欠操業(全出湯)となります.

接種するとチルが消えるのはどうしてですか? さらにCrなどが高いとチルやひけ巣が出やすいのはなぜでしょうか?

鋳鉄は,二種類の共晶凝固の形態をとることが知られています.一つが鉄-黒鉛系で,もう一つが鉄−セメンタイト系です.

普通鋳鉄の場合,黒鉛系の共 晶温度の方がセメンタイト系より高いのですが,その差はあまり大きくなく,凝固時に少し過冷すると,セメンタイト共晶の温度に達しセメンタイトが晶出しま す.チルとは鋳鉄の凝固時に晶出するセメンタイトのことで,冷却速度の大きい薄肉部などによく現れます.

セメンタイトが晶出した鋳鉄は,硬く脆いので,セメンタイトを晶出させないように接種します.接種の効果としては,核生成の促進があり,共晶セル と呼ばれるオーステナイトと黒鉛からなる成長単位の数が増えます.接種により,あまり過冷することなく凝固しますので,セメンタイトが晶出しにくくなり結 果としてチルが消えます.

またクロム(Cr)が鋳鉄中に入ると鉄−セメンタイト系共晶温度が高くなり,鉄-黒鉛系共晶温度が低くなります.従いまして,ゆっくりとした冷却 の場合でもセメンタイト共晶の温度に達し,セメンタイトが晶出します.セメンタイトやクロム炭化物は,黒鉛に比べると密度が数倍大きいので,凝固時の収縮 が大きくなり,ひけ巣が出やすくなります.逆に言うと,他の金属材料に比べて黒鉛の晶出する鋳鉄はひけ巣が出にくい特殊な材料であるとも言えます.

超音波伝播速度を測定すると鋳鉄の黒鉛球状化率がわかるのはなぜですか? 球状化率は%で音速はm/sですよね?

超音波の伝播速度(音速)や共振周波数,打音試験などの非破壊試験が有ります.

この中で普及しているのが音速法です.音速(V )は,伝播媒体となる鋳鉄品のヤング率(E ),密度(ρ)からV ∝ √(E/ρ)・・・①で求めることができます.だからといって,これらの物性値を個々の鋳鉄で求める必要はありません.速度ですから伝播距離(L)と伝播 時間(T)からV=L/Tの式で計算できます.

音速測定が出来ても「音速と黒鉛球状化率との関係」が分からない.以下に双方の関係を説明します.

片状黒鉛-,CV黒鉛-,球状黒鉛鋳鉄など鋳鉄の名称に黒鉛形状が冠されているのは,内在する黒鉛形状がそれぞれの鋳鉄の機械的物理的性質を決定してい るからです.

ヤング率もその一つで片状黒鉛鋳鉄<CV黒鉛鋳鉄<球状黒鉛鋳鉄の順に増加します.これらの鋳鉄の密度は,約7, 000kg/m3(7.0g/cc) で殆ど差がなく,公式①から黒鉛形状で音速が変化することが理解できます.これまでに同じ製造履歴を有する黒鉛形状の異なる(フェーディングさせた)鋳鉄 の黒鉛形状(黒鉛球状化率,形状係数など)と音速の関係が調べられ,これらの間には非常に高い正の相関関係が存在していろとの研究報告が幾つもあります.

国内の報告では,日本鋳物協会,研究報告47(1987)が参考になるでしょう.

球状黒鉛鋳鉄用Y型供試材(Yブロック)の平行部から切り出した試験片の 機械的性質(引張強さ,伸びや疲労強度)は,切り出す位置で差が出ますか?

鋳鉄の機械的・物理的性質は,黒鉛形状と基地組織に依存しています.球状

黒鉛鋳鉄品の機械的性質は,JIS規格(JISG5502)のY型供試材の平行部であれば,JIS規格(引張強さ,伸び,衝撃値)の範囲ではどの位置から切出してもほぼ同等な特性が得られるでしょう.

とはいえ,「平行部の下部(底付近)では伸びが大きく,上部(押湯側)では引張強さが大きいという傾向がある.」という報告もあります.一度試してみてはいかがですか.

回答者は,Y型供試材の顕微鏡組織は,下部と上部で差があることを経験しています.下部は凝固が速く,そのため黒鉛粒数が多くなり,結果としてフェ ライト基地が多くなります.

一方,上部は凝固が遅いために黒鉛粒数が少なく粒径が大きくなり,含有元素の偏析も強くなっています.すなわちセル境界 は,MnやPなどの元素が強く偏析し相対的にパーライトが増えることになります.いわゆる鋳造という金属加工法に由来する肉厚感度です.このような顕微鏡 組織の違いは,JISの引張強さ(破断強度),耐力,伸び(破断伸び)には,はっきりした影響を及ぼさないが,疲労特性においては多少影響を及ぼすようで す.

一般に疲労強度は静的強度よりも内部の顕微鏡組織や微細な内部きず(ざく巣や点状巣のような)の影響を強く受けことが知られています.するとY型 供試材の上部は,最終凝固部に近いため微細な内びけ巣や微細な点状巣が存在する危険性があります.

さらに,凝固が遅いので黒鉛形状は崩れ粒径が大きくなる 傾向があります.これらは疲労き裂の発生個所のひとつとなるので上部から切出された試験片は疲労強度が低下する可能性があります.

チルと引け巣との関係を教えてください

引け巣もチル(遊離セメンタイト)も凝固完了までに発生します.チルが出ると引け巣が出やすくなります.「どうしてか?」を以下に説明します.

鋳鉄の溶湯は,溶媒が鉄で溶質が炭素の溶液です.溶液の温度が低下すると溶質の溶解度が下がり溶質が過飽和になり晶出 します.即ち,鋳鉄の溶湯から炭素が吐き出され,非金属の黒鉛(炭素の結晶)として晶出します.結果,高温の鉄(固体)であるオーステナイト中に黒鉛が3 次元に分散した鋳鉄(複合材料)が出来上がります.

溶湯の化学組成により初晶は異なりますが,共晶温度で共晶組成になった残湯の炭素濃度は同じ (CE=4.3%)です.この残湯がFe-G(安定)系あるいはFe-FeC(準安定)系で共晶凝固するのです.共晶凝固開始時の溶湯の炭素濃度は飽和状態にあるのですが,過冷や接種によるサイト(異質核,異質液体,ガスなど)やSi%のゆらぎ(濃淡)などにより過飽和になり,安定系では黒鉛,準安定系ではFeCがオーステナイト(CE≒2.0%)とともに同時進行で晶出し,凝固完了になります.

凝固は外側から始まり,それが容器になります.この容器の中にはまだ溶湯(液体)が残っています.液体は,温度が下が ると体積が減少します(液体収縮:1.5%/100℃).さらに,高温での鉄であるオーステナイトの晶出は,約3.5%収縮(溶鉄の凝固時のそれと同一と みなされるので)します.

一方,炭素は晶出して黒鉛になると,膨張して約3.4倍(ρFeG,溶鉄の密度:ρFe=7.66g/cc,黒鉛は:ρG=2.26g/cc)になります.引け巣は容器内に残った液体・凝固収縮量と膨張量の差と考えられます.鋳鉄以外のほとんどの金属やその合金は収縮だけで凝固します.従って,鋳鉄品は鋳鋼に比べ引け巣が少ないものとなります.

ところで,チルはセメンタイト(Fe3C)とよばれる鉄と炭素の化合物(炭化物)です.前述の炭素が黒鉛として晶出せずに,FeCとして凝固してしまうと,その分膨張が少なくなります.結果として引け巣が大きくなります.

以上,参考にして下さい.

詳しくは,張博ほか共編,川野ほか共著『球状黒鉛鋳鉄:基礎,理論,応用』の押湯無し方案の項をご覧ください.
(この本は絶版ですが、下記URLをクリックし,図書館で探してください.)

http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001613095-00

なぜ鋳鉄は鋼に比べ,錆が進行しにくいのでしょうか?

鉄は水に接すると鉄イオン(Fe2+)となります.そして,水中の水酸化イオン(OH)と反応すると水酸 化第一鉄(Fe(OH)2)ができ,さらに酸化が進行すると水酸化第二鉄(Fe(OH)3)が出来ます.これがいわゆる赤錆と呼ばれるもので,この赤錆は 鉄表面には密着せず鉄を保護する力はありません.

鋼の場合,錆が進行するとどんどん剥がれ,酸化膜が腐食の防止の役割を果たしません.これに対して鋳鉄の 場合,鉄と黒鉛が存在し,この黒鉛は全く錆びず鉄分だけが腐食されます.この黒鉛を含む腐食層は,黒鉛そのものの機械的な固定効果(アンカー効果)がある ため剥がれにくくなり,腐食も進みにくくなり,結果的に腐食を防止する効果があるようです.

また,鋳鉄には2%程度のSiが含有するので,錆び層の安定化 効果により保護層(Fe-C-Siの混合層)が形成されるのです.腐食に対する基本的な性質は,鋳鉄も鋼も大きな差はありませんが,実環境中では鋳鉄の方 が良好な耐久性を示すことが多くあります.フランスでは,ルイ14世によって建役されたヴェルサイユの街と宮故に水を送るために1644年に約24kmに 渡って敷設された鋳鉄管は,百年以上もの長い間,錆にもまけず現役の水道管としての使命を果たしています.

参考文献として日本鋳造工学会編:鋳造工学便覧 (丸善)(2002)250,中村幸吉著:鋳鉄の科学(日本鋳物工業会)(2005)48があります.

鋳鉄の成長とはどういう現象でしょうか.何故発生するのでしょうか.

鋳鉄に加熱・冷却を繰り返すと鋳鉄寸法が少しずつ大きくなる現象を鋳鉄の成長(生長)と云います.

片状黒鉛鋳鉄の寸法変化の方が大きいですが,球状黒鉛で も起こります.鋳鉄を加熱した後に元の温度に戻しても鋳物寸法は元に戻ることはなく,不可逆的な現象として知られています.特にA1温度(共析変態温度) 以上に加熱されると成長量は大きくなりますが,A1変態以下の温度でも成長が起こります.

一般にパーライトがフェライトと黒鉛になるとセメンタイトの密度 よりも黒鉛の密度の方が小さいので鋳鉄の寸法は大きくなりますが,鋳鉄の成長はこの現象とは異なり,相変態がない場合でも起こります.

成長の理由については,「酸化説」,「き裂説」,「ガス説」,「黒鉛不可逆移動説」などが提案されており,長岡金吾による「黒鉛不可逆移動説」が最も支 持されております.この説によると,鋳鉄中の黒鉛は加熱によって減少するが,黒鉛はポーラスになる(長岡ら:鋳物 49(1977) p.742-746)ことで黒鉛サイズにほとんど変化は無く,そして冷却によって黒鉛は増加するがポーラスになった部分を埋めることなく既存の黒鉛が粗大 化するかマトリックス中の別の場所に析出すると説明されております.

成長に影響する因子としては加熱・冷却の温度と速度,組成,雰囲気,黒鉛組織が知られています.成長によって鋳物の寸法は変化すると同時に強度が低下し てしまうので,あまり歓迎されない現象ではありますが,黒鉛がポーラスになるので減衰能が向上するという良い所もあります(相馬ら:鋳物 55(1983) p.199-205).

共晶時のチル(共晶セメンタイト)とパーライトを構成するセメンタイトは同じものなのですか?

同じと思って良いと思います.

図は,鉄セメンタイト系状態図を模式的に表した物です.オーステナイトが冷却されていくと,フェライトとセメンタイトの2相に変化します.この時は,すべて固体なので,炭素原子も拡散しにくい状態になっており,細かい層状の組織が得られます.これがパーライトです.

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チルの場合は,液体から2種類の固体に変化します.重量で炭素が 4.3%入った溶湯が冷却されると,オーステナイトとセメンタイトが出現します.この共晶組織をレデブライトと呼びます.温度も高く炭素が拡散しやすい状 態なので,セメンタイトが大きく出現し,脆い材料となってしまいます.

材料特性に与える影響は大きく異なりますが,状態図上では,共晶 変態で現れるセメンタイトも共析変態で現れるセメンタイトも温度が違うだけで,同じエリアに含まれています.すなわち,同じ物と言って構いません.ただ し,オーステナイトと平衡するセメンタイトとフェライトと平衡するセメンタイトの組成が若干異なることなど指定されていますので,完全に同じとまでは言え ないようです.

セメンタイトについて詳しく知りたい方は,下記の文献等をご参考に.

梅本,土谷:鉄と鋼,vol.68,(2002) 117

球状黒鉛鋳鉄のヤング率は何GPaですかと聞かれました.これはどんな時に必要で,その値も教えて下さい.

球状黒鉛鋳鉄のヤング率(縦弾性係数)は片状黒鉛鋳鉄の80〜130GPaに比べて大きい値であり,140〜170GPaの範囲にあると言われてい ます.

一般に鋼のヤング率は200〜210GPaなので,球状黒鉛鋳鉄は鋼の約70~80%と言えます.鋳鉄ではヤング率は,基地組織や強度よりも黒鉛の 形状及び分布状態の違いに大きく影響を受けると言われております.

そのため、黒鉛球状化率が低下すると黒鉛縁の応力集中やひずみが増加することでヤング率 が低下すると言われております.ヤング率は組織的には不敏感な性質であり,熱処理によって組織や強度など変化させても,ほとんど変わることはありません.

ヤング率の測定方法は様々な方法があり,静的もしくは動的に求める方法が知られています.測定方法により,原理,測定温度範囲,試験片寸法等異な るため,適切な方法を選定する必要があります.

静的試験(機械的試験法)には,引張試験,圧縮試験やねじり試験があり,ヤング率は応力−ひずみ線図の傾き から算出されます.しかし,試験片の品質や加工精度の影響が大きく,測定結果には若干の誤差が含まれます.

一方,動的試験では静的試験に比べて小型試験片 や脆性材料の測定も可能です.動的試験の代表的な測定方法として,振子法,共振法,超音波パルス法があります.共振法は試験片に機械的または電気的に強制 振動を与えて共振周波数(固有振動数)を計測し,この共振周波数からヤング率を計算する測定法です.

また,超音波パルス法は縦波用振動子及び横波用振動子 を用いて約1〜20MHzの超音波パルスを試験片に伝播させ,試験片内を伝播する縦波及び横波の伝播速度からヤング率及び剛性率を計算する方法です.

ヤング率は材料の外力に対する変形量の計算には不可欠なものです.例えば,負荷されている応力とヤング率から伸びやひずみを算出することができま すし,梁の撓みを求めたり,柱の座屈荷重を求めたりする時にも用いられます.

構造用部材として用いられる場合,ヤング率は安全な設計を行うための重要な値 の1つであると言えます.

FC200をある一定も応力で引張り続けた場合,徐々に亀裂が進展する ことはありますか? また,繰り返し疲労は起こりますか?

まず,FC200をある一定応力で引張続けた場合ですが,応力値が引張強さの60%以下等の応力範囲ならば,そのようなことは常温では起こらない.というのが一般的了解です.

次に,繰り返し疲労は起こりますか? ということですが,これについては,質問の意味が良くわかりません.「一定荷重(応力)を加えた上に,さら に繰り返し荷重を負荷する」という意味であれば,一定条件を満たせば( 修正Goodman線図など)疲労亀 裂が生じ,進展することになります.

「静的な応力の下で,繰返し応力による疲労と同様の現象が生じうるか?」という意味であれば,高応力下でそのような現 象が生じる可能性があるかもしれません.理由として,FC200くらいですと,引張強さの80%程度以上ではすでに局部的な微小亀裂(部分破壊)が多数生 じているからです.95%くらいでは,顕微鏡で明瞭に確認できるような大きさ の亀裂になっています.

したがって,荷重(応力)の継続によって,少しずつ亀裂が進展するということが起こりえると考えます. ただ,そのメカニズムは確定的ではありません.

鋳鉄にはどのような種類が存在して,どのように使い分けをしているのでしょうか?(質問者:LICCA)

 鋳鉄の分類は,鋼に対する広義的な場合の鋳鉄という分類のほか,狭い意味で鋳鉄と呼ぶ場合は可鍛鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄などに対して,単にねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)を指すことが多いです.表1に古い図書に載っている分類例を示します.表1に示すように,鋳鉄の名称は実に多種多様であって,同じ名称を人によって異なって使用することがあるので注意しなければなりません.また,最近の著書2)には黒鉛組織,基地組織,その鋳鉄の特徴を加味した鋳鉄の分類法があり,興味のある方はそちらの図書を参照されることを勧めます.

 さて,鋳鉄はどのように使い分けをしているかとのお話になると,まずは強度や鋳造性,経済性(コスト)などによって使い分けされています.鋳鉄の使用が圧倒的に多い自動車の例でいうと,足回り部品の中の,サスペンション部品,駆動(ハブ,デフ,キャリア)およびシャシ部品(各種ブラケット,ビーム,サポート)では高強度・高靱性のダクタイル鋳鉄が多く使われています.また,同じ足回り部品でブレーキロータやドラムなど,エンジン部品でシリンダーヘッドとブロックなどでは一定の強度特性の他,熱伝導性や減衰性,耐摩耗性,そして良好な鋳造性および切削性を兼ね備えている片状黒鉛鋳鉄が用いられています.さらに,用途によって機能および経済性から上記両鋳鉄材の中間特性を有するCV黒鉛鋳鉄が使われる場合もあります。詳細な写真付実例は図書2)を参照ください .

1) 鋳鉄の材質 :(社)日本鋳物工業会編,コロナ社(1962)2

2) 新版「鋳鉄の材質」公益社団法人 日本鋳造工学会編,(2012)6,180

表1 鋳鉄の分類と名称
表1

 

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