公益社団法人日本鋳造工学会|Japan Foundry Engineering Society

第90巻シリーズ「鉄瓶のできるまで」

第90巻シリーズ「鉄瓶のできるまで」

Vol. 90 No. 1「C’s 鋳物」

平成29年度Castings of the Year賞受賞作
株式会社マツバラ

 

 

 


Vol. 90 No. 2「IH炊飯ジャー用南部鉄器内釜」

平成29年度Castings of the Year賞受賞作
株式会社水沢鋳工所

 

 

 

 


Vol. 90 No. 3「rassenペーパーナイフ」

平成29年度Castings of the Year賞受賞作
有限会社香川ダイカスト工業所

 

 

 

 

 

 

 

*No.1~No.3は平成29年度Castings of the Year賞受賞作の紹介です.「鉄瓶のできるまで」シリーズは下のNo.4(90巻4号)から始まります.

 


Vol. 90 No. 4「型挽」

岩手県の鋳物の歴史は古く,平安時代にまでさかのぼります.現在,いわゆる「南部鉄器」と呼ばれているものは,奥州市水沢区で作られているものと盛岡市で作られているものがあり,その歴史は少し異なります.近年では,茶道具などの伝統工芸品や,実用的な調理器具としてその良さが見直されてきており,国内だけでなく,海外でも人気が高まっています.

南部鉄器の代表的な製品に南部鉄瓶があります.南部鉄瓶は伝統的な手作りの製品で,焼型を用いて作られ,その製造工程は多岐にわたっています.ここですべてを紹介するのは大変ですが,今月号からの表紙は,主な工程のほんの一部を紹介していきます.

今月の表紙は,型挽です.鉄瓶のデザインが決まったら,木型を作ります.鉄瓶は基本的には軸対象なので,その断面の半分の木型を作製し,回転させることで砂型の形状を作ります.木型は,昔はその名の通り木の板で作っていましたが,現在では鉄板などの金属でできていて,素焼きの型に鋳物砂と粘土と水を混ぜて木型を回転させながら型を作っていきます.まず,荒い砂から始めて徐々に細かい砂で鋳型を作り,最後は,絹真土(まね)と呼ばれる細かい砂で鋳型表面を仕上げます.

今回の取材では,田山鐵瓶工房の田山和康様はじめ田山鐵瓶工房の皆様,盛岡手づくり村の虎山工房の皆様,田中鉉工房の皆様に多大なるご協力をいただきました.ここに感謝の意を表します.

 


Vol. 90 No. 5「紋様押し」

挽型が完全に乾く前に型表面に紋様をつけます.あられ,亀甲,松,桜などの紋様をヘラやアラレ押し棒を使って押していきます.ちょっとした力加減で紋様の出かたが変わるので,集中力と根気のいる作業です.紋様押しの道具は職人さんが使いやすいように工夫をして,作っています(右下写真).

 


Vol. 90 No. 6「型焼き」

紋様が押された鋳型を完全に乾燥させた後,約1,300℃の炭火で型焼きを行います.炭火に送風機で空気を送ることにより,火力を増して温度を上げます.鋳型の形状や大きさによって,焼く温度や時間が微妙に異なります.焼いた直後の型は真っ赤になっています(右の写真).

 


Vol. 90 No. 7「中子作り」

主型の製作に使用した木型より,鉄瓶の肉厚分小さな木型を用いて作った型で中子を作ります.中子も上型と下型に分けて中空に作り,組み合わせます.左の写真は出来上がった中子です.中子と主型の間の空間が鉄瓶の肉厚(約2mm)になります.鉄瓶を鋳込むときには,底の部分を上にして鋳込むので,中子が浮いてこないように主型に固定する工夫がされています.

 

 


Vol. 90 No. 8「鋳型組立(入れ込み)」

完成した鋳型は,鋳込む前に300~400℃に加熱して,水分を除去します.加熱が終了し鋳型の温度が下がったら,溶湯の湯流れ性向上と焼き付き防止のため,灯油の油煙を用いて,油煙かけを行います.油煙かけによって,型焼きでできた細かい焼割れなどの傷が埋まります.油煙かけが終わった本体の胴型に中子を収めます.中子は注ぎ口の中子と密着するようにし,肉厚が均一になるように胴型下部の幅木にしっかりと固定されます.注湯した時に中子が持ち上がらないように,胴型と中子は左の写真のように固定されます.胴型の上に尻型をしっかり置いて,鋳型組立が完成します.

 

 


Vol. 90 No. 9「鋳込み」

一般に鋳鉄の溶解にはキュポラや電気炉が用いられますが,溶解量が少ない場合には,甑(こしき)が用いられます(右下写真).この炉は3段に分割されており,炉の中間には余り湯を戻す口が付いています.

組み立てられた鋳型の湯口は鉄瓶の尻部の中央で,尻型の中央部の周囲をすり鉢状に削り,湯溜まりとしています.鋳型に乗り板を斜めにかけ,片方の乗り板に湯くみを持った1人が乗り,反対側の乗り板にもう一人が同時に乗って,溶湯の圧力による鋳型の持ち上がりを防ぎながら鋳込みます.鋳型内の溶湯が固まり,湯口部の溶湯がまだ固まっていない頃を見計らって乗り板を外し,左の写真のように湯口部の溶湯を湯くみに返します.この湯返しにより,鉄瓶本体の方案歩留まりはほぼ100%となっています.また,湯くみの溶湯は甑に戻します.

 

 


Vol. 90 No. 10「型開け」

注湯後,溶湯が凝固し,鋳型が十分冷えてから尻型をはずします.次に胴型のたがをはずし,実型製作時に入れておいた筋目に沿って型を二つに割り,本体中子が付いたまま取り出します.蓋の型開けも本体同様に行い,つまみの鋳型が付いたまま取り出します.表紙の写真は,胴型を二つに割った瞬間です.また,右の写真は,中子が付いたままの鉄瓶本体と蓋です.

この後,残っている型や中子を崩して取り除き,鋳ばりをたがねや砥石で取ります.

 

 


Vol. 90 No. 11「釜焼き」

鋳造された鉄瓶の表面を金ブラシできれいにした後,鉄瓶本体と蓋を炭火で800~1000℃程度の温度で20分間ほど焼きます.これにより表面に酸化鉄(Fe3O4)の被膜が作られます.この処理を「釜焼き」といいます.外部の被膜は次の研磨の工程で落とされますが,内部の被膜は製品になっても保たれ,防錆被膜となります.表左の写真は,釜焼きが終わった直後の鉄瓶です.

釜焼きが終わった直後の鉄瓶は高温で焼かれたため口がひずんでいます.そこで,鉄瓶を炭火から取り出して,熱いうちにひずみ直しを口にはめてひずみを修正します(右の写真).

 

 


Vol. 90 No. 12「着色」

鉄瓶内部に付いた酸化被膜をとらないように注意しながら,鉄瓶外部の表面を金ブラシで研磨し,酸化被膜を取り除きます.研磨仕上げが終わった鉄瓶を炭火で400℃程度に加熱し,下塗りとして漆を塗ります.黒系の着色をするときには黒漆(生漆に鉄粉を混ぜたもの)を,茶系の着色をするときには生漆と紅柄(べんがら)(酸化鉄)を練り合わせたものを使います.下塗りの終わった鉄瓶を100℃程度に加熱して,仕上げ塗りをします.仕上げ塗りには,「鉄漿液(酢酸鉄溶液)」や「おはぐろ(茶汁に鉄漿液を混ぜたもの)」を使います.黒系に着色する場合にはおはぐろを,茶系に着色する場合には鉄奨液を塗ります.

 

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