新年のご挨拶 “挑戦した人だけにチャンスがある”
“New Year Greetings”
公益社団法人日本鋳造工学会会長 清水一道
明けましておめでとうございます.旧年中は格別のご愛顧を賜り厚く御礼申し上げます.
2023年の年頭にあたり,日頃から(公社)日本鋳造工学会の活動にご理解とご協力をいただいております皆様に御礼を申し上げます.
現状,コロナ禍は世界の経済などに悪影響を及ぼしておりますが,一方でリモートワークなど技術の変革を促進していると思われます.コロナが落ち着いた状況になったとしても,世の中は以前の状態に戻らないと予測されています.これは,コロナ禍が長引いている中,新しい顧客の嗜好や行動が相次いで現れ,「ニューノーマルな生活」に慣れてきたためと思われます.日本鋳造工学会も,「Afterコロナ」へ「新しい風」をふかせ,その風に乗り次のステージへ進む中で,ハイブリッド方式での学会の開催,オンラインでの会議,講演会など,コロナ前とは異なる形式にも慣れてきました.
経済状況は,2020年下半期から2021年にかけて,業況は大企業製造業を中心に回復傾向にありましたが,2022年に入り減少に転じております.事業に大きな影響を及ぼす社会情勢変化として,昨年度と比較すると原材料価格の高騰や半導体・材料不足などが目立っていますが,ウクライナ情勢の緊迫の影響から,もともと上昇傾向にあった原油価格の高騰に伴って広範なインフレが予想されてきておりました.原油価格の高騰は生産コストの増加に直結し,素材系業種においてその打撃は大きいものです.これら生産コストの増加分がスムーズな価格転嫁に繋がっていないため,製造業の売上高は増加したものの,利益率が押し下げられたことが業績の重しとなったと考えられます.実際,2022年の鋳物生産量は,統計がでている9月時点までで,鉄系鋳物が約260万トン,非鉄系鋳物が約96万トンとなっており,2021年の同月までの統計と比較すると,鉄系鋳物で前年比110%,非鉄系鋳物で前年比300%と増加傾向にあります.
2023年度は,コロナ禍による経済社会活動の制限はほぼ解消される見込みであり,内需を中心に景気の緩やかな回復が続きますが,物価上昇,コスト増加に対する懸念は払拭されません.ウクライナ情勢が長期化することへの不安に加え,日本の場合は急速な円安が進んでおり,生産拠点を海外に移転させていることから輸出を増やしにくくなっているうえ,工業製品の輸入浸透度が高まっているので円安のデメリットが増し,経済回復のテンポは鈍化するのではないでしょうか.
アフターコロナの次のステージを迎えた日本鋳造工学会は,2022年に90周年を迎えました.5月に開催された第179回全国講演大会は,愛知県の大同大学を会場にハイブリッドで開催し,技術講習会等を含め700名以上の参加となりました.9月に開催した第180回全国講演大会は,広島県の広島大学を会場にこれもハイブリッド方式での開催となり,技術講習会合わせて,700名以上の参加があり,盛況のうちに終わりました.今年5月の第181回全国大会は,大阪府の近畿大学を会場にハイブリッドにて開催する予定です.多くの皆さんが対面にてお集まりいただき,参加者同士の距離を縮めコミュニケーションをとっていただければ幸いです.
第3期長期ビジョンのロードマップ策定では,90周年を迎えた本学会を永続させるために,産学官連携し,5年,10年先を見据えた取組を進めようとしています.支部との懇話を進め,学会の今後へ向けて2030年までに国際社会の共通目標であるSDGsを達成するため基礎研究の推進や,鋳造に関する技術伝承の推進と若手人材の育成,情報発信による学会の知名度向上を今後の戦略課題として位置づけました.
人材育成事業においては,2021年に開講し,毎回150名を超える参加者があり好評であった理事の方々による「鋳造の基礎講座」の第二弾として,2022年10月から各研究部会の部会長による鋳造分野における最新動向を解説していただく「オンライン講座」を開催し,モノづくりに必要な知識を,若手・中堅研究者へ向けて発信しています.また,学生向けの「鋳造方案勉強会」も学校では教えてくれない基礎を学び実際の技術者の仕事を体験し,さらに3DモデリングやCAE解析を利用することで,最新のDXの潮流を先取りした若手育成に供与できる取り組みとして大きく評価されています.そして,会員のユーザービリティの向上を目指し,会員向けホームページの拡充,マイページによる情報発信などにも努め,いつでもどこでも気軽に学ぶことができる「オンデマンド講座」の開設も進めています.若手人材の育成がままならない,鋳物の素晴らしさが知られていない,技術・技能の繋がりが切れてしまうなど,支部から挙げられた課題を取り込み,動画コンテンツの開設を進めていきます.
情報発信による学会の知名度向上の取り組みにおいては,一流講師陣による大学・高専・高校向けの特別講義(出前授業)を実施し,多くの教育現場において無くなりつつある鋳造実習などに代わり,若者が鋳物を知る機会を与え,ものづくりの熱い思いを伝える取り組みを実施します.
基礎研究においては,SDGsを達成するため新たな「カーボンニュートラル特別研究部会」を設置しました.鋳物における製品価格の10%は電力コストといわれており,製造における溶解工程は鋳物工場の全消費エネルギーの60%以上を占め,誘導炉のほかコークスをエネルギー源とするキュポラの採用も多くあります.CO₂排出量の削減に向けては,それぞれの鋳物工場における実態について,全体量だけでなく工程別に調査を行う必要があります.「カーボンニュートラル特別研究部会」では,モデル工場における消費エネルギー実態調査をはじめ,材料のリサイクル(素材の成分調整,サプライチェーン構築),省エネルギー対策(排熱回収・ガス利用,低コスト溶解設備の開発),新エネルギー供給設備等に関する基礎研究(アンモニア,水素利用)も進めていき,5年先の新エネルギーの利用を目指していきます.
最後に,90周年行事として, 3月に記念式典・講演会を開催するのに合わせ,90周年記念誌の発刊を予定しております.学会のあゆみや,これまで発刊した学会誌からの記事,開催された国際学会の報告,会員数や論文数の推移,各賞受賞者データ,10年後の日本鋳造工学会また鋳造業界の姿についての座談会などの掲載を検討しております.式典会場に参加の皆様に配布する予定ですので,ぜひ足をお運びください.
日本鋳造工学会は,鋳造に関する学問,技術の進歩・向上と,それに伴う鋳造業界の発展を目的として,ものづくり基盤産業の発展に寄与してまいりました.これからは,更に利便性の高い次世代のサービスを届けることで,90年以上続く学会として日本経済の持続的な成長と社会課題解決に対して,最大限の貢献を果たしていくことを目標として取り組んでまいります.挑戦なくしてチャンスはやってきません.“挑戦した人だけにチャンスがある”をキャッチフレーズに,本年も皆様とともに多くの挑戦をし,チャンスをつかんでいきたいと思っております.今後とも学会活動へのご協力をお願いします.
2023年1月