新年のご挨拶 「一途一心」
“New Year Greetings”
公益社団法人日本鋳造工学会会長 清水一道
新年明けましておめでとうございます.旧年中は格別のご愛顧を賜り厚く御礼申し上げます.
2022年の年頭にあたり,日頃から(公社)日本鋳造工学会の活動にご理解とご協力をいただいております皆様に御礼を申し上げます.
全世界に蔓延した新型コロナウイルスの影響は,日本において変異株による第5波まで波のように押し寄せ,緊急事態宣言の延長など,経済に打撃を与え続けました.しかし,ワクチン接種が開始され2021年末では約1億人と,人口の80%を突破しようとしており,新型コロナとの戦いは終息を迎えているように思えます.年末に発生した新たな変異株が第6波として蔓延しないことを願うばかりです.
世界をみると,国や地域によるばらつきを伴いつつも,総じてコロナ危機による落ち込みから回復を続けています.欧米先進国では,ワクチン接種完了者比率が人口の6割を超えつつあり,防疫と経済活動の両立が進んでいる一方で,経済の回復ペースは減速しています.米欧日中ともに,輸入の20~30%をワクチン接種者比率50%未満の国に依存しているため,新興国の感染拡大によるサプライチェーンを通じた供給制約が起こり,それが部品・原材料不足の深刻化,資源価格の上昇につながっています.また,中国の電力不足による生産減速なども背景にあると思われます.
半導体以外の部品不足は,22年前半には解消に向かう可能性が高いものの,デジタル需要増を背景とする半導体不足は,短期的な解消は見込みにくく,供給制約解消には時間を要する見込みです.海外の需給が逼迫しているほか,国内でも半導体は既に稼働率がコロナ危機前のピークを上回っており,生産余力は少なく,生産能力の急速な拡大は難しいとみられ,半導体不足感の解消は23年以降と予測されています.日系乗用車メーカーのグローバル生産は,全社が前年実績を上回り,前年同期比30.0%増となりましたが,コロナ禍前の2019年の実績と比較すると13%のマイナスで,世界的な半導体不足などが回復に水を差していることが分かります.
2021年の鋳物生産量は,現時点統計がでている9月までで,鉄系鋳物が約236万トン,非鉄系鋳物が約32万トンとなっており,2020年の同月までの統計と比較すると,鉄系鋳物で前年比121%,非鉄系鋳物で前年比114%と増加傾向にあります.コロナ前の2019年と比較すると,鉄系鋳物では94%と回復しておりますが,非鉄系鋳物では85%と伸びが低く,2022年にはコロナ禍前の生産量へ回復に転じることを望みます.
2020年のコロナ当初,大きく制限された学会活動は,2021年「新しい風」による転換を迎えました.5月に開催された第177回全国講演大会は緊急事態宣言下で,奇しくもオンライン開催となりました.オンライン開催にも関わらず,技術講習会等を含め500名以上の参加となりました.11月に開催された第178回全国講演大会は,小職の地元である北海道室蘭市で開催されました.申し込み段階では緊急事態宣言(10月1日解除)下であったため,オンラインと現地参加のハイブリッド方式での開催となりました.技術講習会合わせて600名以上の参加があり,うち現地参加が約150名,あとはオンラインでの参加でした.また,第178回全国講演大会と同会場で開催されたSPCI-XIIに関しても,海外からの入国が制限されていたことから,全国講演大会同様にハイブリリッド方式での開催となり,70名の方々に参加いただきました.コロナ禍の中,多くの方々にご参加いただき,大変ありがとうございました.次回第179回全国講演大会は,愛知県名古屋市にて今回同様にハイブリットでの開催を予定しております.なるべく多くの皆さんが対面にてお集まりいただき,参加者同士の距離を縮めコミュニケーションをとっていただければ幸いです.
コロナ禍における新しい風の1つとして,2021年は人材育成に力をいれました.コロナ禍においても若い人の人材育成が必要との観点から,入社間もない人々に向けて「鋳造の基礎講座」をオンラインにて無料で開催いたしました.7月まで月に1回(全6回),1日4時間のオンライン講義に多くの方々が参加くださいました.
また,鋳造に関する基礎的な学習とともにデジタル技術を実際に体験できる機会として「鋳造方案勉強会」を開催しました.「鋳造」はものづくりに欠かせない基盤技術ですが,型という中の見えない箱の中で起こる現象であるがゆえに未解の課題も多く,この分野の技術者を目指す学生を対象に,基礎的な金属学的知識に加えて,デジタル技術を習得する場を設けました.全国から118名の学生がオンラインで参加し,鋳造方案設計ソフトウェア(AnyDesign)と,鋳造CAEソフトウェア(AnyCasting)という最新のソフトウェアを使用しながら,大学の授業ではなかなか経験することができない貴重な体験を得ることが出来ました.
これまで進めてきた理系応援プロジェクトは,東海支部を中心に豊田工業高等専門学校を会場として,機械科女子による女子中学生向けの「鋳造マグネット」製作として開催されました.小職もこれまで,北海道地区にて「ものづくり教室」を多く開催してきました.将来の鋳造業を担う若い人材を得るためには,小学生・中学生の頃から「ものづくり」に親しんでもらい,将来の選択肢の1つとして肌で感じてもらうことが重要です.今後も「理系学生応援プロジェクト」として,多くの地域で開催していただければ幸いです.
学生へむけて鋳造の魅力を発信するための目玉として,2021年はSNSやYouTubeをはじめとしたメディアで人気を誇る専門家インフルエンサーを起用しました.ユーチューバーの「市岡元気」さんは,科学系という特定領域の専門知識を持ち合わせ,登録者数約45万人とYouTubeなどのメディアでも発信力が強い方で,㈱木村鋳造所の協力のもとに鋳物の製造工程を伝えられる動画を作成,公開しました.動画には,これまでの総再生回数85億回という日本のトップ5になる人気ユーチューバーの「はじめしゃちょー」さんも参加いただき,再生回数31万回と多くの方々に視聴いただきました.今後も,このような発信を継続し,多くの方々が鋳物に興味をもっていただければ幸いです.
2022年以降,With/Afterコロナの時代としていかなければなりません.緊急に取り組まなければならない「緊急対応」のステージは過ぎ,今後コロナ禍でも事業を継続する「withコロナ」,そしてコロナ禍があっても最適な事業モデルに作り変えていく「Afterコロナ」へ「新しい風」をふかせ,その風にのり「次のステージ」である未来へ向かって羽ばたく必要があります.
そこで「次のステージ」は,【一途一心(いちずいっしん)】であると思います.一途一心とはひたすら,ひたむきということで,一つ事に命を懸けること,ともいえます.あらゆる道,あらゆる事業を完成させる上で,欠かすことのできない心的態度であり,物事の成就はこのコア(核)なくしてはあり得ません.
では,いかにすればいつまでも進歩向上していくことができるのでしょうか.どういう取り組みをすればよいのでしょうか.まず,第一に絶えず精神を仕事に打ち込んでいき,純一無雑(じゅんいつむざつ)の工夫をする…近代的にいうと,全力を挙げて仕事に打ち込んでいくことが大切と考えます.
鋳造業界としての次のステージへのハードルとしては,SDGsやカーボンニュートラルに関わるCO2削減による溶解熱源(電力,コークス)への影響,大手製鉄業の電炉化・海外需要による原料(スクラップ鉄,鉱石等)の高騰,多くの工場で現場を支える力になっている外国人技能実習生の入国問題など決して低いものではありません.本会だけでは対応出来ない課題もあることから,産学官連携し解決へ向けて邁進していかなければなりません.
日本鋳造工学会は,本年創立90周年を迎えます.これまで,鋳造に関する学問,技術の進歩・向上と,それに伴う鋳造業界の発展を目的として,ものづくり基盤産業の発展に寄与してまいりました.これからは,更に利便性の高い次世代のサービスを皆様に届けることで,日本経済の持続的な成長と社会課題解決に対して,最大限の貢献を果たしていくことを目標として取り組んでまいります.今後とも学会への皆様のご協力をお願いします.
2022年1月