1500度で溶解した銑鉄鋳物の溶湯を鋳型に注湯するとき、設計された部分以外の型と型の合わせ目にできた隙間に流れ込んだ部分をバリとよび、不要あるいは邪魔な部分として除去必要。
ところがバリは極めて薄く硬い。肉厚が厚く徐冷された母材とは異なる組織になっています。

徐冷された母材はねずみ鋳鉄で、地がパーライト(ほぼ純鉄のα鉄とセメンタイトが極めて薄い層状)に、黒鉛が発達した木の葉状に晶出・析出した組織で硬度はHvで230程度で機械加工ができます。
一方、急冷されたバリは(白鋳鉄?)、炭素は硬くて脆いセメンタイト(Fe3C)として晶出または析出し、硬度がHvで800以上で、加工の刃は歯が立たない。


(バリ部分の厚みは極めて薄く、1500度の溶湯は常温の砂型で急冷され黒鉛として晶出する時間がなくセメンタイトが大量に発生しチル(=急冷)組織となる)

溶融状態から凝固までの時間が短く,急冷によってチル組織となりカタサ,耐摩耗性も高くなっているものと考えられる.図3に鋳物バリのモデルとして作製した試料(FC-20, α=5°,10°,15°,20°,30°)のカタサをマイクロビッカースカタサ計によって測定した結果を示す.

出典:鋳物バリの特徴とその除去の自動化 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1970/20/6/20_6_270/_pdf


ねずみ鋳鉄の金属組織写真(徐冷部分)

白鋳鉄の組織(急冷部分)

鋳鉄の組織と性質 草川隆次
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1954/14/8/14_8_15/_pdf
より引用

 

銑鉄鋳物の溶湯のゆっくりした冷却過程と発生する結晶や析出するものの解説を日本鋳造工学会のHPを以下に引用紹介します。冷却速度が異なると結晶や析出組織に大きな違いを生み出すことを利用するのが「熱処理」です。

フェライト基地を腐食すると結晶粒界がはっきり見えますが,パーライト基地では粒界が見えづらいのはなぜですか? パーライトは、隣接するセルが融合しているのですか?

Q&A事例 https://jfs.or.jp/q_a/qa_tetsu/#hfaq-post-13657
片状黒鉛鋳鉄の凝固過程では,共晶凝固が完了するとオーステナイトと黒鉛の混在組織となり,やがて共析変態温度に達するとオーステナイトはパーライトに変態し,常温では片状黒鉛とパーライト基地で構成された組織になります.初晶オーステナイトと共晶セル中のオーステナイトは,どちらも共析変態温度に達するとパーライトに変態するので,結晶粒界がはっきり見えなくなります.

 

Fe-C系平衡状態図と片状黒鉛鋳鉄の凝固過程(模式図)

 

参考文献:中江秀雄監修:鋳物技術者と機械設計技術者のための新版鋳鉄の材質,日本鋳造工学会(2014)P15