銑鉄鋳物では、微量不純物がその特性に大きな影響を与えることが知られている。
鋳造工学では、どんな添加物・不純物がどんな影響をもたらすかが古来より研究されてきた。
近年は、自動車の防錆では亜鉛メッキ鋼材が、安全と燃費改善で高強度鋼材が多用され、問題が大きくなってきている。
そこで、総論・入門編として下記論文をご紹介。
各種元素群の添加総量の影響については、国立研究開発法人 科学技術振興機構のHPに掲載の下記が参考に
鋳物用銑鉄中の微量不純物元素の役割について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/imono/53/8/53_466/_pdf
(1981年)鋳物第53巻第8号に掲載
銑鉄鋳物では、鉄が主成分で、それ以外の主要5元素をC, Si, Mn, P, Sとし、それ以外の微量成分では Cu, Ni, Cr, Mo, V, Ti, As, Al, Sn, Sb, Bi, Co, Zn, Pbが挙げられている。
銑鉄鋳物の性質に影響する元素をその影響によって下記にグループ分けし
・黒鉛化促進元素 Cu,Ti,Ni,Al,Sb
・黒鉛化阻害元素 Cr,Mo,V,Sn,Pb
・黒鉛共晶微細化元素 Cu,Cr,Ni,V,Sn,Sb,Al,Ti
・黒鉛粗大化元素 Al,Mo
・パーライト安定化元素 Cu,Cr,As,Ni,Mo,V,Sn,Sb
それぞれのグループの添加量の総量の影響を調査した報告。
中江英雄は、(2005年)下記論文発表。
鋳鉄溶湯に対する不純物元素の影響・歴史と解決法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfeskouen/147/0/147_4/_pdf
古くは銑鉄鋳物は、銑鉄が主原料で鋼屑が副原料だったが、鋼屑の発生量増加と価格低下で1975年ころに使用量が逆転。溶解炉は1970年頃にキュポラから低周波炉へ、さらに1980年頃には高周波炉へ変遷。キュポラ溶解では多量のSが含有のため脱硫が必要に。
鋼屑配合とクロム 電気炉では加炭材の添加量が自由になり鋼屑利用増加したが、Crはチル化元素で問題が大きく、除去も難しい。
加炭材に付随する問題にNがあり、厚肉鋳物でのフィッシャー欠陥の発生が著名で、電気炉では使用する鋼屑と加炭材に依存。
新しい鋼種の登場 自動車産業の防錆対策で亜鉛メッキ鋼板のZnとPb、強度Upのハイテン化でB添加が増加し、その対策や除去方法が必要になってきている
2015年には、木口・清水により下記が報告された
高品質鋳物製造へ向けての不純物除去技術の開発
https://core.ac.uk/download/pdf/59122909.pdf
誘導炉では鋼屑 100%の溶解も可能となり,鋼屑の方が銑鉄よりも安価なことも原因して,鋼屑主体の溶解が普及した.誘導炉の普及により鋼屑配合率の増大が可能となり,これに伴って鋼屑による不純物元素として Cr,Al,Ti などの問題,そして加炭材による N,S の問題が生じた.また,その後,わが国の乗用車にメッキ鋼板が多量に使用されるようになり,鋼板による Zn,Pbが問題になってきた.乗用車の燃費向上の要請から,軽量化を目的として高強度鋼板(ハイテン)の使用が加速し,新たにMn,Bの問題が生じてきた.時代と共に鋳鉄溶解に対する課題は変化し続けている
調査研究結果,以下の結論が得られた.
(1) 鋳放し試料においても一方向凝固試料においても,Mn 含有量に対して S 含有量が多くなると,酸化層が多量に生成される.
(2) S 量が MnS を生成する以上に含有されるほど,多孔質層の生成速度は小さくなる.
(3) 片状黒鉛鋳鉄における多孔質層の生成速度の違いは,黒鉛の大きさによる影響よりもむしろ S による影響のほうが大きい.
(4) S の含有量が増加すると,単位時間あたりに供給される酸素は,鉄基地の酸化に主として消費されるので多孔質層の生成速度が小さくなる.
(5) 不純物元素の除去を目的とした製錬炉の組み合わせなどを考える必要がある.新しい製錬・溶解炉の開発すなわち,真空・バブリング炉,新しい回転炉や,新しい合金添加法の開発(REや微量元素の添加),例えばワイヤーインジェクションなどのプロセス制御が考えられる.