地球温暖化でゼロカーボンを目指すためには必要とされる原発を考えるとき、放射線とその恐怖感の問題を考えないわけにはいかない。そこで、この問題をまとめて解説した講演をご紹介します。
2011年10月24日(東日本大震災の年)に、福島の放射線恐怖に関してガン専門医でもある東大医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授(当時)が、放射線と人体影響について1時間ほど解説した講演の動画。
https://www.youtube.com/watch?v=zsp69QImZbc
<要約 講演内容をまとめたものです 文責 藤原愼二>
- ガンの原因の3分の2は生活習慣、特に喫煙は放射線では1000-2000mSVに相当する。残りの3分の1は、いろいろな原因があるが運良ければ発見して対処できる。
- 広島では、爆発翌日以降に広島市に入った人は、むしろ長寿のデータあり(検診無料の影響考えられるが、広島市在住者の認識と一致)
- 高線量研究者は、低線量放射線の近年(1990年代以降)30年で急速に発展したことを知らない人が多い。
- 放射線のリスクを低線量まで直線とするのは哲学で、根拠はない。
- 放射線医学分野では、100mSv以下領域では、20mSv以下では健康影響はないと考える人が多いが、人体実験できないためデータはない。
- ラットの被ばく実験では、毎日1mGy(ミリグレイ)で400mGyまでは非照射との寿命差はなかったとのデータがある。
※Gr(グレイ)は「1kg当たり平均1ジュールのエネルギーを吸収する被ばく線量」
Sv(シーベルト)は人体に対する影響の尺度で、ほぼGyと同等とも。 - チェルノブイリ原発事故では、当初事故を隠蔽したソ連政府が後に出した避難指示に従った人の寿命は7年短くなったが、現地にとどまった人の寿命は変化なし。
低線量恐怖で行った強制避難が、逆に住民の幸せと健康を奪った結果となったことには、国連も反省している。
※避難したことで、ストレスが増加し飲酒増加や生活環境変化への対応困難が原因と。 - 福島の放射線量は、医学的には人体に影響するレベルではない。
youtube動画の概要紹介文
Presented by globis.jp (http://globis.jp)
2011年3月11日の東日本大震災から、徐々に収束の方向に向かいだした福島原発事故。
しかし事故直後に飛散した放射性物質は、人々に不安を与え続けている。
住民の避難が必要となった福島県の対象地域はもちろんのこと、他県においても高い線量が確認されたり、食品から国の基準値を超えた放射性物質が見つかったりと、健康への影響が懸念されている。
私たちは日々の生活の中で、何に気をつければよいのか、放射線治療に携わる東大医学部付属病院・中川恵一氏が説く。
(肩書は2011年10月24日登壇当時のもの)。
第1部 講演:約1時間6分
中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授 緩和ケア診療部 部長)
- 現状では、放射線被ばくによる人体の影響は起こらないと考えてよい
- 放射線被ばくの問題は、がんの問題である
- 我々は原発事故に関係なく、普通に生きているだけで自然被ばくする
- 生活習慣と放射線被ばく、発がんリスクの関係
- バカにできない日本での医療被ばく
- 放射性物質の拡散には風向きと雨が重要
- 広島長崎では、実は平均寿命が延びている
- 内部被ばくと外部被ばくの関係
第2部 対談:(次の質疑応答含め約30分)
第3部 質疑応答
- 被ばくは学説的には遺伝しないということか
- 被災地で食べ物を選ぶ時、あまり採らないほうがよいものは
- 中川先生の活動は、臨床医として、また現代日本人の死生観への問題提起なのか
- 100mSvは現実的には気にしなくてよい量か。核種の違いは気にしなくてよいか
- 福島産の魚介類、水、米、野菜は使わないほうがよいのか
- 先進国で日本だけがんの死亡率が増えている理由は
- 医療被ばくに関して、気をつけるべきことは
- 内部被ばくは溜まって積算されていくものか
医学・生物学補足
人の約60兆個の細胞は、毎日約150分の1が計画的細胞死(アポトーシス)を起こし、細胞膜が維持されたまま分かれてマクロファージが食べて消化再生、平均すると約2か月で入れ替わっている。
一方、やけど・放射線・感染などでの計画外細胞死はネクローシスといい、細胞膜に穴があいて死ぬ。ネクローシスが起こると炎症が起こる。これは細胞内のタンパク分解酵素やその他のタンパク質がネクローシスに伴って放出されるためである。
活性酸素と酸化ストレス(厚労省解説サイトより部分引用)
活性酸素は、細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰な産生は細胞を傷害し、がん、心血管疾患ならびに生活習慣病など様々な疾患をもたらす要因となります。そのため生体内には、活性酸素の傷害から生体を防御する抗酸化防御機構が備わっていますが、活性酸素の産生が抗酸化防御機構を上回った状態を酸化ストレスといいます。
活性酸素とは
活性酸素とは、呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部が、活性化された状態。ヒトを含めた哺乳類では、取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化。活性酸素は、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞傷害をもたらします。
活性酸素の役割と作用
活性酸素は、過剰な産生あるいは酸化ストレスによる老化、がん、生活習慣病発症との関連が注目されがちですが、白血球から産生される活性酸素(スーパーオキシド・過酸化水素など)は、体内の免疫機能や感染防御の重要な役割を担います。また細胞間のシグナル伝達、排卵、受精、細胞の分化・アポトーシスなどの生理活性物質としても利用されています。したがって、活性酸素を消去すれば良いという安易な考え方は禁物です。
抗酸化能力とは
活性酸素が、生体内で常に産生されるにも関わらず、我々が体内の恒常性を維持できるのは活性酸素から自己を防御する抗酸化防御機構が備わっているからです。抗酸化防御機構は、活性酸素の産生を抑制したり、生じたダメージの修復・再生を促す働きを有しています。
生体が有する抗酸化防御機構には、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの内因性の抗酸化酵素に加え、ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド類、カテキン類など外因性の抗酸化物質もあります。実際には、活性酸素の産生と抗酸化防御機構が複雑に作用し合いながら生体内の活性酸素の産生と抗酸化防御機構の状態が決まります。
酸化ストレスを予防する生活習慣
活性酸素の産生が過剰になり、抗酸化防御機構のバランスが崩れた状態を酸化ストレスといいます。通常、我々の生体内では活性酸素の産生と抗酸化防御機構のバランスが取れていますが、紫外線、放射線、大気汚染、たばこ、薬剤ならびに酸化された物質の摂取などにより酸化ストレスが引き起こされます。また、過度な運動やストレスも活性酸素の産生を促し、酸化ストレスを引き起こす要因となります。したがって、日ごろからバランスの取れた食事、適度な運動習慣ならびに十分な睡眠により抗酸化防御機構を良好に保つことが酸化ストレスを防止するためにも重要となります。
低線量放射線の人体影響:わからないことがわからない
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/54/8/54_521/_pdf
(概要)日本原子力学会誌, Vol. 54, No. 8(2012) の東北大学 加齢医学研究所 福本 学 東北大学 加齢医学研究所 病態臓器構築研究分野 教授の投稿。
低線量放射線の人体影響を発がんで評価しようとすると低線量では影響がほとんど不明確なほど小さくなり、、発がんに影響する因子が放射線だけでなく、喫煙・加齢・ストレスなど因子多すぎ、さらに低線量放射線にはホメオスタシー効果(良い効果)があるという人もおり、人体実験ができず、それに短期的影響と晩発影響も考慮必要なうえに、そもそもの個人DNAの既発変異の影響もあり、影響するのかしないのかが解らない領域ということを率直に吐露。
(文責 藤原愼二)