生物への放射線影響は、照射により発生した活性酸素による影響がメインで、生物は活性酸素を無毒化する機能により生命を維持しており放射線の影響レベルよりはるかに大きな生体代謝活動による活性酸素量があることから、低線量放射線の生物影響はほとんど考えられないことが推定されている。
岡山大学三朝温泉のラドン温泉研究成果で、低線量放射線が活性酸素を中和化する抗酸化物質産生が活性化され健康には有効と報告されている。

放射線医学や生物研究で、疫学的調査や実験室的には低線量率では生物影響は少ないことが解っているが実証データが少なかった。

低線量率の放射能の生物影響では、人間の場合は屋外にいる時間が短いこと、空間放射線は建物の壁などでほとんど遮蔽されてしまうことから、人への影響は少ない。
一方、野外生物では常時空間放射線の影響を受ける。
本研究は、屋外生物での影響を福島で調査することで実証的に遺伝影響を調査した貴重な報告。

報告の一部を下記、引用紹介します。
大学のプレスリリース論文のPDFはこちら
https://www.fukushima-u.ac.jp/news/Files/2023/04/jyumoku_20230326.pdf

福島県内の低線量放射線被ばくは樹木次世代の新規突然変異を増やしていない
野外に生育する樹木を対象とした世界初の実証研究

2023年4月7日

福島大学
環境放射能研究所
森林総合研究所

ポイント

  • 遺伝的リスクとなるDNAの突然変異を野外に生育する樹木において検出する方法を開発しました。
  • スギとサクラ(「ソメイヨシノ」)を対象に福島県内の帰還困難区域に生育する個体を含む母樹から種子や実生を収集し、次世代で生じた新規突然変異を縮約ゲノム解析で評価しました。
  • 新規突然変異の数には、種子の採取地や枝といった個々の環境の影響を受ける傾向が見られました。
  • 空間線量率や放射性セシウムの蓄積量といった放射線被ばくに関連した影響は見られませんでした。
  • 放射線だけでなく様々な環境要因が樹木の次世代に及ぼす遺伝的影響評価を可能にする成果です。

 

概要

森林研究・整備機構森林総合研究所の上野真義チーム長ならびに福島大学共生システム理工学類の兼子伸吾准教授を中心とする研究グループは、遺伝的リスクとなるDNAの「突然変異注1)」を迅速に検出する方法を開発しました。その手法により福島第一原子力発電所事故に由来する低線量放射線被ばく注2)は、樹木の次世代において新規突然変異を増やしていないことを示しました。次世代に受け継がれる突然変異と低線量放射線被ばくの関係について世界で初めて野外に生育する樹木で実証した研究となります。
本研究成果が「Environment International」誌に発表されることになりましたので、ご報告いたします。

写真1.左スギの雌花と雄花の写真。右サクラ(「ソメイヨシノ」)の花の写真。
写真1:スギの雌花と雄花、サクラ(「ソメイヨシノ」)の花。日本全国に植樹されていること、人工的な種子の採取法が確立されていること、遺伝的データが蓄積されていること等から研究対象に適していた。

 

研究成果

分析の結果、スギにおいても、サクラにおいても、突然変異の有無には、種子を採取した場所や枝といった個々の環境の影響を受ける傾向が見られましたが、空間線量率や放射性セシウムの蓄積量といった放射線被ばくに関連した影響は見られませんでした(表)。例えばスギにおいて推定された突然変異の検出頻度は、最も空間線量率が高いS3調査地においては100万塩基当たり0.31か所でしたが、最も空間線量率が低かった喜多方市の調査地においては100万塩基当たり7.47か所でした(表)。スギにおいては突然変異率が生育地や枝ごとに異なることが明らかになりましたが、帰還困難区域内においてのみ突然変異の数が増えることはありませんでした。サクラにおいては、空間線量率が調査当時3.18μGy/hの環境に生育している母樹から得られた種子では、合計1億800万塩基について調べたにも関わらず、新規の突然変異は確認されませんでした。

 

本研究の意義

帰還困難区域における「突然変異が生じていない」というデータは、放射線被ばくのリスクについて説明する際の貴重な基礎データになります。放射線は、少しでも被ばくすれば確実に悪影響があると感じている市民はまだまだ多くいると思われます。これは確率的影響の理解が難しいとともに、放射線の照射実験等は、変化が生じた事例について報告することが多いことも関係するかもしれません。したがって、これまであまり公表されてこなかった「変化がない」というデータは、放射線の影響に対する不安の払しょく、福島県産の農水産物に対する風評被害対策に有効な基礎データとして活用が期待されます。