溶融鉄合金の表面張力と粘度
1994年時点で、数多いデータをまとめて概要を報告したもの。長い論文なので、一部のみ引用でご紹介。
論文は下記サイトからPDFでダウンロードできます。
残念ながら、工業的に最も重要な溶融鉄の表面張力のデータが乏しいと。

 田 中 敏 宏* 原 茂太**
まてりあ materia Japan 1996受理 J-Stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1994/36/1/36_1_47/_pdf/-char/ja
大阪大学助教授;工学部 材料開発工学科(〒565吹田市山田丘2-1)
** 大阪大教授:工学部材料開発工学科
Surface Tension and Viscosity of Liquid Iron Alloys;
Toshihiro Tanaka, Shigeta Hara (Department of Materials Science and Processing,
Faculty of Engineering, Osaka University, Suita)
Kevwords: surface tension, viscosity, liquid iron, iron alloys databases
1996年8月20日 受理

1.はじめに

 本稿では、データのばらつきが特に大きいことが以前から指摘されている溶融鉄合金の表面張力と粘度について、最近の報告値の文献情報とその内容の概観ならびに問題点を特にデータベース構築を考えた立場からの一考察として述べたい。

ここでは,溶融純鉄の表面張力の温度依存性を明確に式で述べた報告だけを取り上げて同表に示した.

(2)溶融2元系鉄合金の表面張力溶融2元系鉄合金の表面張力については1987年にKeeneによる詳細なデータ集”Reviewofdataforthesurfacetensionofironanditsbinaryalloys”(14)が報告されている.また,日本鉄鋼協会から出版されている”HandbookofPhysico-chemicalPropertiesatHighTemperatures”(23)にもいくつかの系について結果がまとめられている.

 表2に示した2元系合金の中で,報告数が多いが,データのぼらつきの大きい系として,Fe-C系,Fe-Cr系,Fe-O系が挙げられる.これらの系の報告値をそれぞれ図2(14)(17)(26),図3(14)(28)(29),図4(14)(17)(37)-(42)に示す.Fe-C系については,炭素濃度の増加とともに,表面張力の値が増加するもの,減少するもの,またほぼ一定とみなしてよいとするデータなど様々であり,鉄合金の中で最も基本かつ重要と考えられる合金系であるにもかかわらず,いまだ明確な結論は得られていない.

中略

4.おわりに

 本稿では,溶融鉄合金の表面張力と粘度について,主として文献情報を中心に報告例の収録を行い,特にデータのばらつきが大きく,今後さらなるデータの蓄積を必要とする合金系について考察を加えた.材料物理化学の一分野として,熱力学量についてはデータベースの構築が進んでおり,表面張力や粘度などの融体物性値に関しても,データベース化の進むことが望まれている.その際,実験値の蓄積のみならず,理論的取扱いによるデータの評価や,物理的意味を明確にした推算式の構築も併せて必要であると考えられるため,本稿では上記物性値に関する推算モデルに関しても報告例の収録を行った.

 データベースに関しては情報処理分野の華やかさに目を奪われがちであるが,地味な作業である物性値の測定,蓄積がデータベースの根幹であるという認識が忘れられないよう注意すべきである.現状の物性値の蓄積状況を認識し,系統的なデータの蓄積,評価の必要性に対する理解が進み,それに対する関心が高まることを望んでいる.その際,本稿が議論の叩き台となり,また具体的作業の一助となれば幸いである.最後になりましたが貴重なデータをご提供いただきました東海大学教授神保至先生に感謝申し上げます.