南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について
 国立研究開発法人海洋研究開発機構が、結果を公表した。
  詳細は、機構公表サイト(上記)に掲載されている。

 結果まとめ
  深海底の泥には、環境汚染物質がない重レアアースが豊富に含まれていた。今後産業化を目指す。
  以下に、記事となぜ重レアアースが豊富に含まれているのかを解説する。

 

国産レアアース産業化へ…南鳥島沖、回収した泥で確認

2026年07月28日 日刊工業新聞掲載の記事を引用紹介する。

国産レアアース産業化へ…南鳥島沖、回収した泥で確認

海洋研究開発機構は南鳥島(東京都小笠原村)沖の海域の深海6000メートルから回収した泥にレアアース(希土類)を確認した。地球深部探査船「ちきゅう」で1―2月に採鉱システム接続試験を実施。回収した泥に含まれていたレアアースは、総量の約54%が原子量が重くハイテク製品に必要な中重レアアースだった。今後、本格的な採鉱試験などを通じて国産レアアースの産業化を検討する。

ちきゅうの既存設備と内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)で開発した採鉱装置を試験。石油・天然ガスの掘削方式に独自技術を加えた「閉鎖型循環方式」を開発し、深海約6000メートルの環境下で作動することを確認した。同手法で回収したレアアース泥は海水を除去した重量が約50トン。うち取得できたレアアースの総量は非公表だが、半分以上はイットリウムやガドリニウムといった中重レアアースだった。

また環境モニタリングシステムの運用試験を行い、設置型無人探査機「江戸っ子1号COEDO」などで懸濁物の発生状況などを観測。今回の採鉱で生じる鉱物由来の環境汚染リスクは低いことが分かった。

石井正一SIPプログラムディレクター(日本CCS調査顧問)は「開発したシステムの作動や現場運用といった技術の獲得につながった。今後の試験を通じて、産業化に向けて取り組みたい」とする。今後、2027年2月から南鳥島の海域で約1カ月間にわたる本格的な採鉱試験を実施予定。28年3月までに、国内における国産レアアースの産業化に向けて評価する。

日刊工業新聞 2026年07月27日

 

Gemini 深海の泥にレアアースが濃縮されている理由を解説して

深海の赤色粘土(洋上遠洋堆積物)にレアアース(REE: Rare Earth Elements)およびイットリウム(Y)が高濃度で濃縮される現象は、「海水からの吸着・捕獲(スカベンジング)」「豊富な供給源」「極めて遅い堆積速度による『希釈』の抑制」という3つの要素が組み合わさることで引き起こされます。

特に近年の研究で、深海泥中におけるレアアースの主たる「容器(ホスト鉱物)」は、魚類の骨や歯の化石(生物起源アパタイト)であることが明示されています。

1. レアアースを捕獲・濃縮する2つの主要キャリア

海水中に微量(pM∼nM レベル)で存在するレアアースイオン(主に 3価の REE3+)は、堆積過程で特定の成分に強く吸着・取り込まれます。

魚骨片化石(アパタイト)の集積とレアアース濃度の相関. 出典: Chiba Institute of Technology Ocean Resources Research Center for …

① 生物起源アパタイト(魚の骨や歯)

レアアース泥の中で最も強烈にREEを濃縮しているのが、魚類やウミガメなどの骨片化石(ヒドロキシアパタイト: Ca10​(PO4​)6​(OH)2​)です。

  • イオン置換メカニズム: 生物の死後、海底に沈んだ骨片のアパタイト結晶格子内にある Ca2+ イオンのサイトへ、イオン半径の近い REE3+(および電荷補償として Na+ や SiO44−​ など)が置換吸着します。
  • 極めて高い保持力: 骨片単体でのREE濃度は数千 〜 20,000 ppm(数%)に達することもあり、泥全体としての高濃度化(400 〜 8,000 ppm超)を牽引します。

② 鉄・マンガン水酸化物(微小粒子)

海水中の鉄イオンやマンガンイオンが酸化されて生じる水酸化物粒子(FeO(OH), MnO2​ 等)は、極めて広い比表面積と負の表面電荷を持ちます。これが海水中の炭酸錯体(例: REE(CO3​)2−​)や自由イオンとして浮遊する REE3+ を強力に表面吸着(スカベンジ)します。

2. 地球化学的供給源(どこから来るか)

海水中のレアアース供給には、大きく2つのルートが存在します。

  1. 海底熱水活動(中央海嶺・海底火山) 海洋プレートの広がる中央海嶺周辺では、玄武岩と高温の熱水が反応し、岩石中のREEが海水中に大量に浸出・供給されます。
  2. 陸域からの供給(風送塵・河川) 風(偏西風など)によって運ばれるエアロゾル(黄砂など)や河川水を通じて海水中に溶解した大陸物質由来のREE。

3. なぜ「深海の泥」でだけ極端に濃縮するのか?

海中のいたる所にレアアースや魚の骨が存在するにもかかわらず、太平洋やインド洋の特定の深海底(水深 4,000 〜 6,000 m)に集中するのには地質学的な必然性があります。

海洋循環の活発化と魚類増加に伴うレアアース泥の生成プロセス. 出典: Kobe University

A. 極度に遅い堆積速度(「希釈」の防止)

陸に近い浅海や大陸棚では、河川から流出する泥や砂(珪砂や粘土鉱物など)が急速に積もります(1,000年あたり数cm〜数m)。 一方、陸から遠く離れた太平洋中央部の遠洋深海底では、大陸からの砕屑物がほとんど届かず、堆積速度が 1,000年でわずか数mm以下という極度の静穏環境にあります。

陸源物質の供給量が非常に少ないため、海水からREEを吸着した魚骨片や鉄・マンガン粒子が希釈されずにそのまま濃密に蓄積することができます。

B. CCD(炭酸塩補償深度)以下の水深

水深 4,500 m より深い海域は「CCD(Carbonate Compensation Depth)」を超えており、海水中の炭酸カルシウム(プランクトンの殻など)が水圧とCO₂濃度によって完全に溶解します。 これにより、生物起源炭酸塩(プランクトン殻)という無駄な体積が消失し、難溶性のアパタイト(骨片)や赤色粘土だけが海底に残存・濃縮されます。

C. 好気的(酸化性)な底層環境

深層循環(南極湧昇流など)によって酸素に富んだ底層水が供給される環境では、鉄やマンガンが還元溶解せず、酸化物(固相)として海底に安定して存在し続けます。これにより、一旦吸着されたレアアースが再溶出することなく固定化されます。

濃縮プロセスのまとめ

段階 プロセス 作用
1. 供給 熱水活動や陸域エアロゾル 海水中に多量の REE3+ が溶解
2. スカベンジング 魚骨(アパタイト)および鉄マンガン粒子への吸着 イオン置換・表面吸着により、海水から固相へ移動
3. 沈降・沈殿 CCD以下の深海底(水深 4,000m〜)へ沈降 炭酸塩成分が溶解消失し、アパタイト等の密度が向上
4. 濃縮・固定 超低速堆積 + 酸化環境 陸源デトライタスによる希釈を防ぎ、数百万年規模で泥中に蓄積

このように、「海洋生物の営み(アパタイト生成)」「地球内部・大気からの元素供給」「深海底特有の物理化学環境(CCD・酸化状態・極低堆積速度)」が重なり合った結果として、深海の泥の中に高濃度のレアアース層が形成されています。

 

従来方式との環境汚染問題の違いは?

中国を中心に行われてきた陸上でのレアアース採掘・製錬と、近年注目を集める深海レアアース泥の採掘・精錬では、環境汚染の機序や放射能問題のリスク構造が大きく異なります。

最大の相違点は、「放射性物質(トリウム・ウラン)の含有の有無」「製錬に必要な薬品・プロセスの違い」です。

陸上採掘(中国モデル)と深海泥採掘の環境・放射能リスク比較

評価項目 陸上採掘(中国の従来型モデル) 深海レアアース泥(日本等の開発モデル)
主たる対象鉱石 バストネサイト、モナザイト、イオン吸着型鉱床 生物起源アパタイトを含む赤色粘土

放射能リスク

(トリウム・ウラン)

極めて高い

・モナザイト等に放射性トリウムやウランが同伴・濃縮

 

・大量の放射性鉱スラッジが発生

極めて低い(ほぼ皆無)

・遠洋性堆積物中の放射性トリウムやウラン濃度は極めて低い

 

・鉱石自体が放射性廃棄物化しない

強酸・薬品の使用

極めて多い

・鉱石分解に高温濃硫酸やフッ化水素を使用

 

・イオン吸着型では硫酸アンモニウムを大量地中注入

大幅に少工程・マイルド

・希硫酸(または希塩酸)で室温・短時間で浸出可能

 

・アパタイトが選択的に溶けるため余分な薬品が不要

主要な環境破壊

・強酸・重金属による地下水・河川汚染

・アンモニウム塩による土壌酸化・崩壊

 

・放射性廃棄物集積場の漏出リスク

・揚泥に伴う濁り(濁水)の拡散

・海底生態系(底生生物コミュニティ)の攪乱

 

・揚泥水の返送処理時の海洋環境への影響

廃水・残渣処理 放射性フッ化物・硫酸塩を含んだ有害液性廃水 薬品不使用の泥成分(洗浄・中和後海底返送)+酸性溶離液

1. 陸上採掘(中国モデル)の環境・放射能問題

中国におけるレアアース生産(特に白雲鄂博(バイワンオボ)鉱床や南部のイオン吸着型鉱床)では、深刻な環境被害が長年問題視されてきました。

① 放射性物質(トリウム )の同伴問題

  • モナザイト等の鉱物: 陸上のレアアース鉱物(特にモナザイトやバストネサイト)は、化学的性質が酷似した放射性元素トリウムやウランを数%レベルで結晶構造中に含みます
  • 放射性スラッジの集積: 精錬・抽出工程でレアアースとトリウムを分離しますが、取り除かれた高濃度のトリウムを含む廃棄鉱渣(スラッジ)や強酸性廃水が巨大な集積池(テーリングダム)に溜め込まれます。これが漏出したり風化飛散したりすることで、周辺地域の放射線量上昇や地下水汚染を引き起こします。

② 激しい薬品使用と土壌・水質汚染

  • イオン吸着型鉱床の原位置浸出(In-situ Leaching): 南部の中重レアアース鉱床では、山体に直接「硫酸アンモニウム溶液」を注入してレアアースを洗い流し回収する手法が用いられてきました。これにより地下水が広範囲にアンモニウムイオンや重金属で汚染され、地盤沈下や土砂崩れを頻発させました。

2. 深海レアアース泥の優位性と特有の課題

一方で、南鳥島沖などで研究が進む深海レアアース泥は、地球化学的な成り立ちの違いから陸上鉱床の欠点を大きくクリアしています。

① 放射能問題がほぼ存在しない

深海の赤色粘土は、陸上の莫大なペグマタイトやカーボンタイト岩体と異なり、トリウムやウランを選択的に濃縮する地質プロセスを経ていません。ホスト鉱物が「魚の骨(生物起源アパタイト)」であるため、自然放射性物質の含有量は一般的な陸上の土壌レベルと変わらず、処理工程で放射性廃棄物が発生しません。

② 抽出・浸出プロセスが極めて容易(低環境負荷)

  • 希酸で溶ける: 陸上鉱石(バストネサイト等)は非常に頑丈な難溶性結晶のため、高温の濃硫酸などで焼成分解(焙焼)する必要があります。
  • アパタイトの溶解性: 深海泥のレアアースは骨の成分(アパタイト)に吸着・固溶しているため、常温の希硫酸(数%程度)と数分接触させるだけで90%以上のレアアースが容易に溶出します。さらに、泥の主成分である鉄やアルミは溶け出さず、レアアースだけを選択的に抽出できるため、薬品使用量・エネルギー消費量が劇的に少なくなります。

③ 深海泥特有の懸念点(海上・海洋環境リスク)

放射能や化学薬品汚染のリスクが極めて低い反面、深海開発ならではの「物理的環境影響」が議論の対象となります。

  • 濁度の拡散: 海底からパイプで泥を引き揚げる際(揚泥)、またはレアアース抽出後の不要な泥を海に戻す際に、海水が濁って光や栄養塩のバランスが変わり、海洋生物に影響を与える可能性。
  • 底生生物への影響: 掘削エリアの海底に生息する固着性生物や微小生物の棲息域を物理的に破壊・撹乱する懸念。

まとめ

中国などの陸上採掘は「放射性廃棄物処理」「強力な強酸処理・土壌汚染」という化学的・放射能的リスクが最大の問題です。

それに対し、深海レアアース泥は「無放射能」「希酸抽出による低エネルギー・薬品削減」という決定的なプロセス上の強みを持ちます。今後の実用化に向けた課題は、化学的汚染の防止ではなく、「海底の物理的生態系攪乱をいかに最小限に抑えるか(泥の回収・返送技術)」という機械・土木工学的な環境保全策へとシフトしています。