日本製鉄のサイエンス解説資料の中に、鉄の起源という 動画・PDFで構成された資料があります。
宇宙のビッグバンから現在までを概観し、なぜ地球に鉄が多いのかを解説。
アインシュタインが発見したエネルギー=質量。ビッグバンの最初3分間で陽子・中性子・ヘリウム・電磁波などの混沌とした世界ができ、さらに38万年後に原子核や原子ができて宇宙が晴れあがって見通しがよくなった。できた物質が集まって恒星ができると内部では核融合反応が起こり、核融合で軽くなった分のエネルギーを放出しさらに高温高圧となって核融合反応が進む。太陽よりはるかに大きな恒星の内部では原子の中で陽子と中性子が最も軽い鉄元素までができる。
さらにいろいろな物質が集まり、その原子核が重力に持ちこたえられなくなると大爆発し超新星となる。核融合するためにはエネルギーが必要な鉄より重い元素も大爆発のエネルギーで生成される。
超新星爆発で飛び散った多様な元素のちりが、再び重力で集まってできた太陽系などの宇宙。
太陽系ができたとき、太陽の重力で引き寄せられた重いちりが集まってできた太陽に近い地球では、鉄が約30%と最も多い元素になった。
鉄より原子番号の小さい原子は、核融合するとエネルギーを放出しより大きな原子番号の原子へ。鉄より大きな原子番号の原子は核分裂するとエネルギーを放出してより小さな原子番号の原子へ。なので、鉄は一番安定な原子だと。
資料はPDFなので、ブラウザで読めるように部分引用紹介します。
日本製鉄 ものつくりの原点
https://www.nipponsteel.com/company/science/index.html
にある下記の資料の内容部分紹介です。
モノづくりの原点 科学の世界VOL.15 鉄の起源(動画やPDF)
動画 https://www.nipponsteel.com/company/nssmc/science/15.html
PDF https://www.nipponsteel.com/company/nssmc/science/pdf/V15.pdf
星の誕生と消滅
137 億年前に起きた「ビッグバン」と呼ばれる大爆発で生まれた宇宙は、星の誕生と消滅を繰り返し、進化してきた。鉄の星「地球」が誕生したのは46 億年前つまり、ビッグバンから90 億年後だ。
鉄の起源 宇宙の創造から生物の進化まで
約46億年前に地球を形成した鉄。人類文明の進歩に欠かせない素材であるとともに、生物の進化や人間の生命に不可欠な金属だ。鉄は、宇宙の誕生と同時に始まった核融合の最終の姿で、構造的に最も安定した元素と言われる。鉄は地球重量の約30%を占め、その可採埋蔵量は約2,320億トンと、他の金属と比べて格段に多い。
今号では、鉄の誕生、鉄鉱石の形成過程、そして生物の生い立ちと進化に不可欠な「鉄の役割」を探り、新日鉄の“モノづくりの原点”となる「鉄の起源」に迫る。
宇宙が生んだ究極の作品「鉄」
鉄の起源は宇宙の誕生まで遡る。宇宙は、137億年前に起きた「ビッグバン」と呼ばれる大爆発で生まれたと考えられている。
ビッグバンにより、それまでの物質が何もない状態から、原子を構成する陽子や中性子が生まれ、それが結び付いてヘリウムの原子核(陽子2、中性子2)ができた。この時は、陽子、ヘリウム、電子、電磁波などが飛び回っている混沌とした世界だった。
ここまでは、ビッグバン後、わずか3分間の出来事だったと言われる。その後38万年あまりが経過して、宇宙の温度が約3,000℃に下がると、原子核に電子が引きつけられて水素やヘリウムの原子ができた。電子の動きが制限されるようになったため、宇宙が“晴れ上がり”見通しが良くなったのである。
しばらくの間、エネルギー的に安定したこれら2つの基本的元素が、宇宙空間を漂っていた。やがて「ダークマター」と呼ばれる物質の「揺らぎ」に引き寄せられて徐々に集まりガス状の雲となり「恒星」をつくった(図1)。
そして、その引力で原子同士が押し付けられ、温度上昇によるエネルギーを生み出し、新たに陽子、中性子の結合が進み、水素、ヘリウム以外の元素が次々と生み出された。これが「核融合」(熱核反応)と呼ばれる現象だ(図2)。
反応を起こすたびに熱が発生し、その熱と圧力でさらに反応が進み、やがてこの反応は「鉄」で終わった。核融合が起こると、陽子や中性子の数が増えるため原子の総重量は増す。そして結合による熱エネルギーが放出され、陽子や中性子1つひとつの重さが徐々に軽くなる(※融合前の総質量より融合後の総質量は軽くなりその差分の質量がエネルギーとして放出される 図3参照 =>アインシュタインの特殊相対性理論)。
鉄の原子核を構成する陽子や中性子は、数ある元素の中では最も軽い。このことからも、恒星の中で起きている核融合が鉄で終わったことがうかがえる(第1世代の終焉)(図3)。鉄は、様々な原子の中で、陽子や中性子の質量が最も軽く結合力が強い。鉄より原子番号が小さい原子は核融合するとエネルギーを放出してより安定な鉄へ、鉄より原子番号の大きな原子はエネルギーを放出して核分裂する。鉄より陽子が少なくても多くても結合力が弱まる。鉄が全元素の中で最も安定している。まさに“鉄のスクラム”といえる。
鉄は、宇宙という“錬金術師”の“究極の作品”だ。
鉄の星「地球」誕生
鉄は、核融合の最後に誕生する。しかし、実際には太陽ぐらいの大きさでは、核融合が進んでも炭素(陽子6個、中性子6個)や酸素(陽子8個、中性子8個)までの元素しかできない。鉄ができるのは、太陽の約8倍から30倍の大きさの恒星の場合だ。これらの恒星の中心部では、宇宙の時間としては比較的速い3,000万年程度の時間を経て、コンパクトでそれ以上反応が進まない鉄が生まれて、核融合が終わる。
しかし、鉄まで核融合が進んだ恒星は、そこで変化が止まるわけではない。さらに外からさまざまな原子が引き寄せられ、恒星の中心部では、これまで安定的に存在していた鉄の原子核が崩壊してしまう。
さらに温度・圧力が高まると、陽子は電子と衝突して中性子に変化し、このときに「ニュートリノ」を放出する。大量に放出されたニュートリノの一部が、外側に存在する原子にぶつかり、大爆発を起こす。これが「超新星爆発」だ。
その巨大な超新星爆発により、鉄をはじめとする核融合の産物は、星屑の塵となって宇宙に飛び散り、漂うことになる。
超新星爆発では、もう一つの核反応が起こっている。現在私たちが目にすることができる原子番号の順番で鉄以降の元素、すなわちニッケルからウランまでは、この超新星爆発で誕生した(第2世代)。爆発のエネルギーをもらって生まれたこれらの原子の陽子や中性子は鉄よりも重くなる(図3)。この第2世代の元素も、爆発のエネルギーで飛ばされ、宇宙に漂う。
このようにしてさまざまな元素が誕生した。その生い立ちから、宇宙での存在量は、ビッグバンで生まれた基本的元素である水素とヘリウムが最も多い。しかし、第1世代の元素は放っておくと核融合が進み、最終的に鉄に収斂されるため、宇宙での鉄の存在量は特異的に多い(図4)。
また、第2世代の元素は、超新星爆発が起こらないと生成しないため、存在量も少なく、さらに核分裂や、恒星の中での核反応により鉄に収斂する方向にある。
宇宙に漂っている水素やヘリウム、その他の元素が集積して新たに誕生した太陽では、中心部の温度が上がり水素が燃えて、光り輝きながらヘリウムに再び核融合する反応が始まった。太陽に吸収されなかった塵は、太陽の赤道面に円盤状に集まり、それが集積して多くの惑星が誕生した。その1つが「地球」だ。
約46億年前に誕生した地球は、太陽に近いために比較的重い元素が集まって形成されたので、存在量の多い鉄がその構成の主体となっている。誕生間もない頃は高温で、部分的には溶融状態だった。そのため物質の移動が容易に進み、重力によって「中心核」「マントル」「地殻」の3つの層から成る構造ができ上がった(図5)。
地球は、鉄、ケイ素・マグネシウムの酸化物から成り立ち、最も量が多いのが鉄で、総重量の34.6%を占める。このように地球は鉄の塊だ。
なぜ重い鉄が地表にあるのか?
地球の誕生当時、大気には酸素がなく、二酸化炭素や塩酸、亜硫酸ガス、窒素が充満していた。大地には酸性雨が降り注ぎ、地表の鉄分が溶けて海に入っていった。当時は海中にも酸素がなかったため、嫌気性(酸素を嫌う)細菌などの生物が海中で誕生したが、約27億年前になると「シアノバクテリア」(藻類に近い細菌)が生まれ、光合成によって海中に酸素を出し始めた。
その酸素は鉄と結合し、固体の酸化鉄となって沈殿して堆積し「鉄鉱床」を形成した。そして約15億年前に、その鉄鉱床が海底の隆起によって地上に現れ、いわゆる鉄鉱石の鉱山ができあがった(図5)。
現在、露天掘りが可能な鉄鉱石は、かつて海底に沈んでいた証拠として層状になっている(写真 1)。北南米、インド、オーストラリア、アフリカに広く分布する古い地層の堆積鉄鉱床は、その当時生まれたものだ。
現在、鉄の可採埋蔵量は2,320億トンで、他の金属に比べて桁違いに多い(図6)。しかし、我々が利用している鉄は地表のものだけで、地球に存在する総量のごくわずかにすぎない。海底にも鉄鉱石は無尽蔵にある。また、鉄は重たいため地球ができる過程で沈み、中心核(コア)にいくほど量が多くなるが、地表でも鉄は酸素、珪素、アルミについで多く存在している。
ではなぜ重い鉄が地表にあるのだろう。それは、鉄元素は他の多くの元素と共存する「親和力」を持ち、珪素や硫黄などと結び付き軽い化合物として地表にも多く浮き上がったからである(図7)。鉄鉱石ができる過程は、地表で珪素から成る砂などと混在する鉄分が海中に流れ、その後の酸化によって凝縮されたプロセスだ。
生きる「エネルギー」を生み出す鉄
第1世代と第2世代の中間に位置する鉄は、イオン化傾向や酸素との結合エネルギーでもほぼ中間に位置している。そのためチタンやアルミニウムなどより還元しやすく、製造時のエネルギーが少なくて済む。またどちらの世代の元素とも結び付きやすく、合金化も容易だ。さらに鉄は有機物とも結び付きやすく、生物の進化にも貢献した。
生命の起源となるタンパク質は、海底の熱鉱床から噴出する炭素や水素などが結び付いてできたアミノ酸が、さらに結合することによって生まれたと考えられている。その合成で重要な触媒の役割を果たしたのが「金属元素」だ。その後、それらのタンパク質が結合してDNAがつくられ、生物として増殖し進化を遂げてきた。
地球誕生当時には酸素がなく、最初は嫌気性の生物が生まれたことは先に述べた(11ページ)。しかし、シアノバクテリアによって酸素がつくられてからは、活動を活発化するためのエネルギーとして酸素を採り入れる生物が登場した(図8)。そして、その際に重要な役割を果たしたのが「鉄」だ。
鉄は酸素と結び付いて、生物の体内を移動し、体内の至る所に酸素を運びエネルギーを生み出す役割を果たす。その鉄タンパク質の代表格が血液中の「ヘモグロビン」だ。これは酸素呼吸する哺乳動物の象徴でもある。
鉄を利用し酸素をエネルギー源として使えるようになり、生物は膨大なエネルギー源を手に入れた。人間の場合、体重70kgの成人男性には約4~5gの鉄(釘1本分)が含まれ、そのうち約65%がヘモグロビン中に存在している。生物内で、鉄は2種類のイオン状態(2価鉄と3価鉄)にある。それらは電子のやり取りによって簡単に変化できるため、さまざまな生化学反応に役立つ。また、鉄イオンを介して電子が移動すれば、炭水化物のような栄養素を酸素でゆっくり燃焼させる酸化反応が起こり、生物が活動するためのエネルギーが生まれる。鉄は、生物の活動範囲の拡大とともに採り込まれてきた、生物の体にとてもなじみやすい物質だ。
“生物”も進化させる鉄
人間にとって、ごく微量の金属元素は不可欠だ。それらの金属はタンパク質の中で、特定のアミノ酸と結び付いたり、さまざまな生化学反応の触媒として作用している。その一つが、タンパク質と銅、亜鉛、マンガンなどが結びついた「SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)」と呼ばれる酵素だ。
生物にとって必要不可欠な酸素は、高いエネルギーを生み出す一方で、あまり多いと細胞組織まで傷付けてしまう。活性酸素の毒性は有名だ。活性酸素は、「SOD」によってまず過酸化水素(H2O2)に分解され、さらに鉄とタンパク質とからできている「カタラーゼ」という酵素によって水と酸素に分解される。鉄は、タンパク質と結びつくことによって酵素を形成し、鉄単体での100億倍もの過酸化水素処理能力を持つようになるのである。こうした酵素を多く持つほど、生物としての寿命も長くなる
(図9)。
生物の進化において鉄は、体内の酸素をエネルギーとして有効利用すると同時に、余分な活性酸素を無害化するといった、一見相反する2つの大きな役割を果たしてきた。
有史以来、最初に人間は、酸化せず単体で見つけやすい「金」を発見し、その後、「銅」「鉄」という順番で道具として利用してきたが、生物の進化はその逆だ。鉄、銅、マンガンという順番で体内に採り入れ、新たな機能を獲得してきた(図8)。鉄は人類文明にとって不可欠な素材であるとともに、地球上の生物が進化し、生き続けるうえで欠かせない金属だ。
参考文献:
「いろいろな鉄(上)(下) 松尾宗次著」((株)日鉄技術情報センター)
「金属は人体になぜ必要か 桜井弘著」(講談社)
監修
技術開発本部 技術開発企画部 部長 山崎 一正(工学博士)
プロフィール やまざき かずまさ
1950年生まれ。 東京都出身。
1976年 入社
1981年 ドイツ・マックスプランク研究所留学
1983年~ 主として薄鋼板の研究・開発に従事。
研究部長、品質管理部長を歴任し、現職
参考:地球の構造図
2016年度 大学院「先進構造材料特論」講義 鉄鋼材料学 第1回(4/14)
京都大学 大学院 工学研究科 材料工学専攻 辻 伸泰
p12 「地球の構成物質」を紹介