現在銑鉄鋳物では、FC(ねずみ鋳鉄)/FCD(球状黒鉛鋳鉄)/FCV(バーミキュラ―鋳鉄)が量産に使用されています。
球状黒鉛鋳鉄では、フェライト地に球状の黒鉛が晶出し、強度や伸びがある特徴があり、強度が要求されるマンホールのふたや自動車用部品や油圧用部品などにも利用されています。
国立研究開発法人 科学技術振興機構のHPで、PDF資料として提供されている内容を下記に引用でご紹介。https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia/58/2/58_86/_pdf/-char/ja
特集「顕微鏡法による材料開発のための微細構造研究最前線(11)」
―顕微鏡法の材料評価への展開と先端評価法の進展―
(f)高分解能 STEM による分析技術
走査透過電子顕微鏡を用いた球状黒鉛鋳鉄核物質の微量元素分布解明
大阪大学超高圧電子顕微鏡センター 永瀬丈嗣
関西大学化学生命工学部 丸山 徹
ミクロ解析センター 五十嵐芳夫
Fig. 1 球状黒鉛鋳鉄の核物質に注目した元素マッピング.(a)低倍率 STEMHAADF 像,(b)STEM HAADF 像と元素マッピング結果
球状黒鉛鋳鉄は,球状化した黒鉛が鋳鉄基地に分散した組織を示し,その良好な力学特性と高い生産性から,工業的に広く利用されている材料である.
球状黒鉛鋳鉄における黒鉛球状化メカニズムは,いくつかの説が提唱されているが,中でも溶湯中に形成したグラファイト中に異質核が存在することは,様々な電子顕微鏡法により明らかとされてきた.
STEM による球状黒鉛および球状黒鉛核物質の微細組織観察についてはいくつかの報告例が存在するのみであったが(1),近年のプローブ径微小化やシリコンドリフトディテクターの開発などによって,STEM が球状黒鉛鋳鉄の微細組織解明に極めて有用であることが明らかとなってきた(2)-(4).本研究では,STEM を用いた球状黒鉛核物質の元素マッピングの一例を紹介する.Table 1 に,砂型鋳造法によって作製した鋳鉄試料の化学分析結果を示す.
STEM 試料は,機械研磨とイオンミリングにより作製した.Fig. 1に,球状黒鉛鋳鉄における球状黒鉛の核物質に注目したSTEMEDS 元素マッピングの一例を示す.
低倍率 HAADFイメージ(a)において,基地・取り込み基地が球状黒鉛に比べ黒いコントラストを示すが,これは厚いサンプルを用いたことに起因する.
元素マッピング(b)では,核物質に Si・Al・Mg・S・Ca などの元素が濃化しているだけではなく,これらの元素が不均一に分散していることを示している.
この結果は,STEM が球状黒鉛鋳鉄における黒鉛球状化メカニズムの解明において重要な微量元素の分布解明に極めて有効であることを示している.
文 献
( 1 ) T. Skaland, O. Grong and T. Grong: Metall. Trans. A, 24(1993), 23212345.
( 2 ) 永瀬丈嗣,丸山 徹,五十嵐芳夫日本鋳造工学会第169回全国講演大会講演概要集,(2017), 92.
( 3 ) 五十嵐芳夫,山根英也日本鋳造工学会第171回全国講演大会講演概要集,(2018), 6.
( 4 ) 五十嵐芳夫,中江秀雄鋳造工学,90(2018), 575581.(2018年 8 月20日受理)[doi:10.2320/materia.58.86]
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※STEM とは Scanning Transmission Electron Microscope
光学顕微鏡が光を使うのに対して、電子顕微鏡は電子を利用。電子を発生させ加速・収束(レンズ)させるのに電磁気力を利用。
透過電子観察 入射電子と試料との相互作用によって発生した信号には 様々な情報が含まれるが、TEM や STEM は、対象試料 からの透過電子を検出して観察を行うのが電子顕微鏡。
集束レンズによって細く絞った電子線プローブを試料上で走査し、各々の点での透過電子を検出することで像を得る。微少領域の電子回折や元素分析が可能。また空間分解能は一般的に、収束した電子線のプローブ径で決まる
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STEMが調べる対象資料からの透過電子とは?
薄膜試料に電子が入射すると、ほとんどの電子は試料中で吸収されることなく試料を透過して、試料下面から真空中に放出される。これを透過電子と言う
透過電子顕微鏡(TEM/AEM)の原理と応用
一般社団法人日本分析機器工業会の資料紹介
- 電子顕微鏡の原理 https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/principle/
- 透過電子顕微鏡(TEM/AEM)の原理と応用 https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/tem/
- 走査型プローブ顕微鏡の原理と応用 https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/spm/
- 走査電子顕微鏡(SEM)の原理と応用 https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/em/sem/
松定プレシジョン社の解説
・電子顕微鏡におけるレンズの種類と原理 https://www.matsusada.co.jp/column/sem2.html
上記の松定プレシジョンのHPから電磁レンズ(磁界レンズ)解説部分引用下記
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「電磁レンズ(磁界レンズ)」は等電位面ではなく、磁界を利用しています。フレミングの法則の通り、存在する磁場に電子が入射すると、入射方向と磁場に対して垂直な方向に力がかかります。そのローレンツ力によって電子の進路を曲げているのです。
基本的にはコイルを利用した電磁石ですが、これだけだと磁場強度が弱い(磁力線の密度が薄い)ので、周囲を鉄などの素材で囲み、孔の中心に向かって突き出すような磁極を作ります。この飛び出している磁極を「ポールピース」と呼び、電子線はこのポールピースで囲まれた範囲を通り抜けます。
この際、孔の中心を通る電子は磁場の向きと同じ方向に進んでいるため影響を受けませんが、孔の中心からずれたところを通る電子は磁場の影響を受け、螺旋を描きながら中心に集まってくるようになります。これが電磁レンズによる集束の原理です。
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ネットの質疑サイトの「知恵袋」から、電子が収束するのなぜ?への回答を引用紹介します。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12153473372
一様な磁場であれば電荷は螺旋運動、直線運動、回転運動しかしませんが、このコイルで作られる磁場は一様ではありません。そこがミソです。 図にあるように、光軸中心からずれた場所での磁場は光軸と垂直向きの成分を持ちます。電子が光軸中心からずれて入射すると、この磁場からローレンツ力を受け、螺旋運動を始めます。すると、電子は光軸と垂直向きの速度を持つので光軸向きの磁場からローレンツ力を受けて光軸中心に近付く向きに曲げられ、結果的に電子は中心に集まります。 もしも磁場が光軸方向を向いた一様な磁場であれば最初に螺旋運動が始まらず、電子は直線運動を続けるのでレンズの効果は表れません。
※ 電子の電荷はマイナスなので、ローレンツ力はプラス電荷の時とは反対方向になり、図では反時計方向に動く力を受け、その結果磁束から更に中心方向の力を受けます。
電子線と電磁波や放射線の違い
長瀬ランダウア株式会社 HPより部分引用紹介
放射線の基礎知識 https://www.nagase-landauer.co.jp/faq/radiation.html
第2章 放射線とは
この章では、放射線とは何かを見ていきましょう。
「放射線」とは、「高いエネルギーを持って空間を移動する光(電磁波)あるいは粒(粒子線)」と定義することができます。 また放射線は「電離放射線」として、「物質と相互作用した際、物質の構成原子から電子を弾き出す(電離する)能力を持つもの」、と定義されることもあります。
(1)放射線の種類
放射線は電磁波と粒子線の2つに分けられます。
代表的な放射線を表に示しました。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
放射線の分類
X線、γ線 | |
α線、β線、電子線、中性子線、陽子線、重粒子線 |
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① 電磁波(X線、γ線)
X線(エックス線)とγ線(ガンマ線)は、「電磁波」に分類される放射線です。
「電磁波」とは、「電場と磁場が時間的・空間的に変化する波」と定義できますが、簡単に言えば “光”の仲間です。電磁波には、質量および電荷を持たないという特徴があります。電磁波は波の長さ(波長)によって下図のように幾つかに分類することができます。波長とエネルギーは反比例の関係にあり、波長が長いほどエネルギーが低く、また波長が短いほどエネルギーは高くなります。 従って、波長の短いX線・γ線は、高いエネルギーを持ち、電離能力のある電磁波(光)と言えます。
X線とγ線は発生機構によって区別されます。両者とも物質を構成する原子を起点に発生しますが、原子核外で発生するものはX線、原子核内で発生するものはγ線となります。
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② 粒子線
「粒子線」は「高いエネルギーを持って空間を移動する粒子」であり、質量を持つ点で電磁波とは異なります。また飛んでいる粒子の種類によって性質が異なります。α線はヘリウム原子核、β線・電子線は電子、中性子線は中性子、陽子線は陽子(水素原子)、重粒子線はヘリウムより重い原子核、がそれぞれの粒子となります。
以下に放射線の種類や用途を表にまとめました。
主な用途の詳細については第7章 放射線の産業利用をご覧ください。
放射線の種類と特徴
電磁波 | X(エックス)線 | 電磁波 (原子核外) | 0 | X線管、 加速器 |
レントゲン/CT検査 放射線治療、構造解析 |
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γ(ガンマ)線 | 電磁波 (原子核内) | 0 | RI | PET/SPECT検査 放射線治療、食品殺菌 |
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粒子線 | α(アルファ)線 | He(ヘリウム)原子核 | +2 | RI | 厚み計、RI内用療法 |
β(ベータ)線 | 電子(RI) | -1 | RI | 核医学製剤、精密計測 | |
電子線 | 電子(加速器) | 加速器 | 放射線治療 | ||
中性子線 | 中性子 | 0 | 加速器、 RI、原子炉 |
非破壊検査、BNCT | |
陽子線 | 陽子 | +1 | 加速器、 宇宙線 |
放射線治療 | |
重粒子線 | 様々な原子核 He、C、Ne、Si、Ar |
+2~+18 | 加速器、 宇宙線 |
放射線治療 |