鋳物伝承の中に「出吹き」というのがある。梵鐘などを設置するお寺の近くに臨時の溶解炉を設置し、材料と燃料を集積して鋳造するというもの。
この弥勒の鐘は、高さ約1mで外径51cmほどの銅合金製、大きさはかなりのもので、銅の溶解温度1085度以上(1150度程度以上?)が必要で、鉄鋳物用の溶解炉(こしき?)を利用と思われる。鋳造するためには、梵鐘本体と鋳込みに必要な湯口・湯道など方案全部に相当する材料の湯を入れられる取鍋が必要で、それを予熱し、こしき炉で溶かし連続出湯し取鍋に貯め、1150度程度の湯を安全に運搬し傾け注湯するのは容易なことではなく、それをお寺の境内?で行うというのは、なかなか想像できない。

大量の炭を積み上げ、ふいごやこしき炉を設置し、大勢で替りばんこで送風し、材料を投入し高温になったら銅と炭を足しながら溶解したと想像される。取鍋は溶湯が入ると相当な重量となう。どのようにして移動させ傾動させたのだろうか?
鋳込みの失敗が許されない(できた不良品の破壊と材料再利用はほとんど困難)ので、高度の技術が要求されたはずだ。

見物人も多数押し寄せ、さながらお祭り状態だったのではなかろうか?職人のメンツがかかった大事業だったはずだ。

残念ながら、出吹きの実際を伝える資料はまだ入手できていない。

現代以前の東西の鋳造法を調査報告した 吉田晶子氏の「鐘の鋳造技術 ヨーロッパと日本の鋳型造型法の比較を中心に」 は労作であるが、造型・中子にウェイトがあり溶解法についてはほとんど説明がないのが惜しまれる。

愛媛県松山市に、出吹きで作った銅製の梵鐘が松山市指定有形文化財(工芸品)に指定されていると。

松山市のHPから引用でご紹介。

更新日:2012年3月1日

弥勒みろくの鐘」について

弥勒の鐘 1口

文化財の区分

松山市指定有形文化財(工芸品)

指定(登録)年月日

昭和43年10月 指定

所在地及び所有者(管理者)

松山市中島大浦 長隆寺

解説

 高さ98.0センチメートル、径51.3センチメートル、鋳銅製。薬師如来・天女像が陽鋳され、発起人の尭音の名が刻まれている。「弥勒の鐘」の名称は、銘文の中から採ったものである。竜頭に穴が空いているのがこの鐘の特徴である。
 文化年間(1804年~1817年)、法蓮寺(現・東温市上林)の老僧・尭音は、隠居の身で、親友の長隆寺第24世・有秀に梵鐘の寄進を思い立ち、忽那諸島(柱島を含む)や地方の大洲領内を托鉢して浄財を求め、文化8年(1811年)完了した。資金は托鉢・寄付金で、婦人が浄財の一部として金の簪も鋳込まれたと伝えられている。
 鐘は、豊後の鍛工4名が来島し、長隆寺の仁王門の傍らに炉を築き鋳造、その音は黄鐘調と称されて余韻が70呼吸のあいだ続くといわれている。

※ 黄鐘調おうしきちょう;日本雅楽の六調子の一つ。黄鐘の音をきゅう(中心音)とする旋律。

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