磁石を利用するときには、それが棒磁石でも電磁石でも共通に、引き付ける力を利用する場合には、ヨーク(継鉄)を使います。
では、ヨークとは何か?
家の中に、電気のコンセントがあっても、電線がないと電気は流れません。磁界は磁界をよく流す物質があるとそこを集中的に流れて、外に出ない。
この現象は、磁石の力を利用するときに役立つだけでなく、電磁誘導を利用する場合は、目的の部分以外に磁界の影響を起こさないことにも利用されています。
ヨークに磁束を集めてしまうと、それ以外の場所の磁束はほぼなくなり、磁束の時間変化もなくなるので電磁誘導による電圧・電流も起こりません。
鋳造で使う電気炉では、コイルで発生した強い磁界はコイル外(電気炉外)ではヨークの部分だけを通り、その外には漏れ出しません。なので電気炉の外でも電磁誘導の影響をうけず、設備は加熱されず溶けもせず、人は安全に作業ができます。
電気には電荷という電気力(電界)の発生源があります。
しかし、磁気には磁荷がないことになっています。磁界は必ず入る量と出る量が同じで、湧き出るところがありません。
棒磁石でも、N極から出た磁束は空中に出て外を回ってS極に戻りますが、S極に戻った磁束は棒磁石の中を通ってN極に戻っています。
今は、磁界は電気の動きから生まれると。永久磁石は原子の中での電子の動きを特定の状態に固定化されたことが原因だそうです。
磁石として、その引き付ける力を利用する場合は「磁束」を利用します。
透磁率、磁界と磁束
現在は、電流が磁界を作ることが判明しています。電流が作った磁界は、透磁率によって磁束になります。
真空中や空気中の透磁率の1.26×10-6[H/m]を1として物質ごとの透磁率の比率を比透磁率といい、純鉄などの強磁性体では1000-10000倍にもなります。
WikiPediaから鉄関係を抽出したものです。元の表は、上記をクリックしてください。
物質 | 磁化率 χm (volumetric SI) |
透磁率 μ [H/m] | 比透磁率 μ/μ0 | 磁束密度 |
---|---|---|---|---|
真空 | 1.26×10-6 | 1[2] | ||
鉄 (水素雰囲気中で焼きなましされた、99.95 % 純鉄) | 2.5×10−1 | 200000[3] | ||
パーマロイ | 8000 | 1.0×10−2 | 100000[3] | 0.002 Tにおいて |
鉄 (99.8 % 純鉄) | 6.3×10−3 | 5000[3] | ||
炭素鋼 | 1.26×10−4 | 100[5] |
磁石の引き付ける力を利用するときにヨーク(継鉄)を利用
磁界(磁束)が拡散すると、その力が分散し、さらに交流磁界の場合は外側には電磁誘導現象も発生し、問題があります。
磁界拡散を防止するために、磁石の外側にN極から出た磁界を拡散させずにS極側に戻す磁路の役割(電気の電線と同じ)となるヨーク(継鉄)を置きます。
その目的と効果を最も簡潔に解説するサイトをご紹介。
日常でも、白板に紙を固定するマグネットや、冷蔵庫などの扉をしっかり閉めるマグネットなどに利用。
鋳造では、電気炉のコイルの外側に分厚い電磁鋼板製のヨークが設置されています。
磁石は、磁石単体で使用することは少なく、鉄(又は鋼)と組み合わせて使用します。鉄と組み合わせることにより磁束が増え、吸着力が増し、性能が大きく向上します。
この目的で鉄心や継鉄が使われます。
ここでは、継鉄(ヨーク(日本語で「継鉄」)の役割を解説します。
白板用のマグネット・キャップでは、マグネットのN極から出た磁界(磁束)はキャップの鋼板を通ってキャップ下端でN極となり、白板側鉄板に誘起されたS極と引き合います。
この結果、マグネット本来のS極と白板に誘起されたN極との引き合いにプラスして、キャップ下端のN極が誘起した白板側のS極とが引き合い、合わせて大きな引き付け力が生まれます。
株式会社マグエバー HPから引用でご紹介
https://www.magever.net/magnet-yoke/
磁石のヨーク(キャップ)について
特徴
ヨークには磁石から出る磁束を通しやすいという特徴があります。磁束の通りやすさを表す指標として「透磁率」があります。
大気中を1とするとヨークは1,000~10,000倍となります。磁石の近くにヨークがないと、磁束は大気中に漏れてしまいます。しかし、磁石の近くにヨークがあると磁束は大気中には漏れず透磁率の高いヨークに集中します。
材料
ヨークの材料は、不純物の少ない純鉄や炭素の低い鋼(低炭素鋼)が一般的に使用されています。
モーターには、珪素(シリコン)を含んだ珪素鉄や用途によって錆びにくいステンレス鋼が使用され、これらの材料を総称して軟質磁性材料と言います。
構造
ここではホワイトボードに使用するキャップマグネットと家具の扉で利用されている磁石製品でヨークの構造を説明します。
ホワイトボード(鉄)に使用するキャップマグネット
磁石単体で使用した場合
磁束が大気中へ漏れ、有効に集中しない。
※ホワイトボード(鉄)表面には誘起されたN極が発生しています。
ヨークと磁石で磁気回路を形成させたキャップマグネット
N極がヨーク面に移動することにより、「N極 -ホワイトボード-S極」という磁気の回路が構成され、磁束がホワイトボードに有効に集中する。
※円形マグネットの下側のS極に対応するホワイトボード表面にはN極が誘起され、 キャップの下側のN極の下のホワイトボードにはS極が誘起されています。
磁力線の密度は、強度を表しています。密になっているのは強い磁力線を意味しています。
戸棚や収納扉等に使われている磁石製品
磁石単体で使用した場合
磁石の向きに関わらず、磁束は大気中に漏れ有効に集中しない。
磁石を2枚のヨークで挟んだ場合
N, S極はヨークの先端部に移動し、磁束は鉄板に集中する。
磁石とヨークを組み合わせると磁気回路が構成され磁束が必要な場所に集中します。その為、磁力を有効に利用でき、吸着力は大きく向上します。
ヨークを活用した製品
使用例
以下の写真は、磁石とヨークの吸着力を利用した製品の一例です。
両方とも磁石とヨークを吸着させて、扉を閉じた時に固定させる仕組みです。
コピー機
1.マグネット
2.鉄板(ヨーク)
収納扉
マグネット
鉄板(ヨーク)
誘導電気炉の磁界
誘導炉は、炉体に巻いたコイルの外側にヨーク(電磁鋼板)を、コイルの内側には耐火物が溶湯の入れ物となり、溶解する材料が炉内に投入されます。
その磁界は、図のようになっています。
コイルでは、コイルの中心軸の反対側の電流は互に反対方向に流れ、誘導される磁界はコイルの内側と外側では同方向。なので棒磁石のような磁界ができます。
中2物理【電流がつくる磁界】 より引用
コイルの外側(炉外側)には、コイルを覆う大きなヨーク(電磁鋼板)が置かれ、漏洩磁束がないようにする。ヨークの中だけに磁界が通る。
※ソレノイド(コイル)では、コイルの中に大きな磁界ができ、コイルのすぐ外側の磁界はごく弱い。
※無限に長いソレノイドでは外部磁界はゼロで、磁束は無限に外に大きく拡散してもどる。
※電磁鋼板は極薄鋼板表面に絶縁物質を塗布してあり、電気が鋼板の積層方向に流れないため高透磁率の絶縁体として機能。
炉内側では導電体の溶湯や投入材料の鉄には電磁波が入ることができない。磁界は耐火物部分に集中し高周波電流の時間変化で発生磁界も変化し、変化する磁界による誘導電流が炉壁近くの溶湯や材料の表面に流れ電気抵抗により材料や溶湯が加熱されます。
電気炉の中に材料がない部分には、磁界が分布します。
図:電気炉の磁界
富士電機のHP 電気炉の省エネ化を実現する高周波誘導炉 F-MELT100G より引用紹介
https://www.fujielectric.co.jp/products/foundry/solution/f-melt/