手のひらで溶ける金属ガリウム、米が増産で中国に対抗
米政府はガリウム生産に数億ドルを投資
The Wall Street Journal
国際WSJ PickUp
2026年2月18日 5:10 会員限定

 ガリウムは銀色の金属だが、融点が低く、手のひらに置くと溶けてしまうという特異な性質を持つ。

 元素周期表に長く名を連ね、 軍事システム や自動運転車、ノートパソコンの急速充電器などに使用されているが、注目されることは少なかった。そして、世界に供給されるガリウムのほぼ全てが中国産だ。

 潤沢な資金を持つ投資家、つまり米政府が、この状況を変えようとしている。米国内外の工場に数億ドルを投じ、独自のガリウム供給網を構築することで、中国からの輸入依存を減らそうとしているのだ。

 トランプ政権が目標に掲げるプロジェクトの一つが、ウエスタンオーストラリア州のワガーアップでのものだ。米アルミニウム大手 アルコア は1980年代からそこで精製所を運営しており、ボーキサイトを処理してアルミナを製造している。ボーキサイトには微量のガリウムも含まれるため、アルコアはそれを抽出する工場を建設する予定だ。

 米政府はこの取り組みに資金を提供する計画で、オーストラリアと日本も参加する。アルコアによると、各国政府はその見返りとして、この工場で生産されるガリウムの一部を受け取る。同工場は最終的に年間約100トンのガリウムを生産する見込みで、これは世界のガリウム需要の10%に相当する規模だという。ガリウムの2024年の世界生産量は760トンだった。

 アルコアのウィリアム・オプリンガー最高経営責任者(CEO)はインタビューで、「当社は長年、自社の処理工程においてガリウムを抽出できることを十分認識していた」と語った。「世界が今よりも大幅に多くのガリウムを必要とし、かつ採算が取れるのであれば、他の精製所でも生産を行うことは可能だ」

 ガリウム増産への動きは、防衛・自動車・ハイテク産業向けにレアアース(希土類)や重要鉱物を確保しようとするトランプ政権の取り組みの一環だ。例えば米国は、リチウムやコバルト、ニッケルといった製品の 戦略的備蓄 を支援するために数十億ドルを投じている。

 

ガリウムの製造法

 アルミの原料であるボーキサイト中には、ガリウムがアルミニウムに対しておよそ 1:5000 程度の割合で含まれ、アルミ精錬工程でガリウムを濃縮させ分離製造する。

 ボーキサイトから金属アルミニウム製造では、「バイヤー法」「ホール・エルー法」の2つの工程を使う。
 水酸化アルミをバイヤー法で溶解し白い粉(酸化アルミ)を作り、ホール・エルー法で電気で還元してアルミ金属にする。

ステップ1:バイヤー法(ボーキサイト → アルミナ)

 まず、不純物の多いボーキサイトから、中間原料である純粋なアルミナ(酸化アルミニウム:Al2O3)を取り出します。

  1. 溶出(Digestion): ボーキサイトを細かく砕き、先ほど出てきた熱水酸化ナトリウム溶液と一緒に高圧釜(オートクレーブ)に入れます。アルミニウム成分だけが液体に溶け出します。
  2. 分離(Clarification): 溶けなかった鉄分などの不純物(赤泥:レッドマッド)をろ過して取り除きます。
  3. 析出(Precipitation): 液体を冷やし、種結晶を加えると、白い砂のような水酸化アルミニウムが結晶として出てきます。
  4. 焼成(Calcination): これを1000℃以上の高温で焼くと、水分が飛んで真っ白な粉末のアルミナが完成します。

ガリウムは、上記1-3を繰り返すと液体中の濃度が高まります。

 特定の金属イオンだけを捕まえる「キレート樹脂」を用いてガリウムを回収。

  1. 吸着: ガリウムを選択的に吸着する特殊な樹脂に母液を通し、ガリウムだけを回収。
  2. 脱着: 酸やアルカリを使って樹脂からガリウムを洗い出す。
  3. 電解精錬: 回収した濃縮液を電解法により還元し金属ガリウムを得ます。

ステップ2:ホール・エルー法(アルミナ → アルミニウム)

アルミナから酸素を取り除いて「金属」にする工程ですが、アルミナは融点が2000℃以上と非常に高いため、そのまま溶かすのは困難です。そこで**「電気分解」**を用います。

  1. 融解塩電解: 「氷晶石(ひょうしょうせき)」という鉱物を溶かした槽にアルミナを混ぜます。これにより、融点が約950℃まで下がります。
  2. 通電: 槽の中に巨大な炭素電極を入れ、強力な直流電流を流します。
  3. 化学反応: 
     マイナス極:アルミニウムイオンが電子を受け取り、重い液体金属となって底に溜まります。
     プラス極:酸素が炭素電極と反応し、二酸化炭素(CO2)となって放出されます。
  4. 鋳造: 底に溜まった熔解アルミニウムを型に流し込んでインゴット(塊)にします。

まとめ:なぜ「電気の缶詰」と呼ばれるのか?

この「ホール・エルー法」では、膨大な電気エネルギーを消費します。

  • アルミ1トンを作るのに、一般家庭の数年分に相当する電力が必要です。
  • そのため、電気代の高い日本では現在、この精錬工程(ステップ2)はほとんど行われておらず、海外で精錬された地金を輸入しています。