2023年11月2日、東京機械振興会館で素形材センターの素形材月間行事が開催された。

主催者・来賓挨拶・各種技術賞と優良従業員表彰式に続き、早大名誉教授浅川基男氏の講演があった。その内容は、我が国の工業の現状を憂うるもので、重要な内容のものであったので一部をご紹介。

来賓祝辞では、業界代表として日本鋳造協会の藤原愼二会長が、「大学教員の年間基礎研究費(教員の自由に使えるお金)は、以前は200万円以上あったというが、毎年削減され今年はわずか15万円。自由な研究は行うなに等しい。一方中国ではこの20年で研究費は10倍(実質額では20倍)へと激増し科学立国への国の姿勢が明確だが、日本は1.3倍。本日の参加者は、研究費増額や科学立国回帰へ支援してほしい」と述べたが、浅川教授と同じ問題意識だった。

なお、浅川基男氏の著書
 「日本のものづくりはもう勝てないのか!? “技術大国”としての歴史と将来への展望」 幻冬舎 2021/05/31 を読むことで講演内容の多くが解ります。
ネットで購入でき、電子書籍なら即座に読むことができる。

私も講演後に購入し読んでいるところだが、幕末から明治以後で世界が驚嘆した日本の富国強兵がごく短期間にできた背景と事情が詳細に描かれている。そして、最近の日本の活力低下・GDPや多くの指標での世界での凋落、関連する多くの現象と対応策が書かれている。産業人必読の書ともいえるだろう。

 

浅川基男早稲田大学名誉教授講演要旨

20代30代の若者たちが西洋文明を学び、日本の伝統技術と融合し技術を獲得しそれを形にしていき、国家が支援した。国が躍動した時代だった。
しかし、今の日本はてっぺんに上り詰めたジェットコースターが落下し始めるところにある。人口は近い将来半減以下になり江戸・戦国時代に逆戻りするとの予測まで。

敗戦後80年近くたった今、日本の沈滞が目立つ。
それは、若者の挙動にも見受けられると。

米国で教えた時、学生からは質問の嵐があって教えがいがあった。中国では大学の図書館は朝から夜まで勉強する学生で空いている席がないという。
しかし、日本では学生は質問しないので、質問時間なしの講義時間割が組まれていると。大学は入るところで勉強するところじゃないの常識があり、社会も学力の有無を気にせず入社条件にしていないようだ。学生の基礎学力に大差が発生してる。

日本では大学生の2割しか理系にいかず、8割が文系で指導者たちのほとんどが文系だが、欧米や中国では理系の割合が4割から半分近いと。サイエンスを知らぬ者が日本をリードし、工学者が尊敬されていない。

日本で学生が質問しないのは、

1.講義選択が卒業のための単位取得で、簡単に単位が取れる学科を選んだだけ。
2.質問することで、周りから変人と思われたくない。

だそうです。

<講演と著書紹介終わり>


これでは、何のために大学に行くのか?

今、国家や社会が大きな目標を見失って漂流し、零落し始めている日本にあって、ものつくりを担う工学者のみならず、多くの人々の必見の図書と言えると思う。

先日、岡山で日本政策金融公庫中小事業部の講演会で、帝京大学ラグビー部を9回連続優勝に導いた岩出雅之元監督の話を聞いたが、体育会特有の(異様な)上下関係を取り払い、上級生が下級生の面倒を見て相談にのり能力を引き出し育て、チーム全体として目標に取り組むように変えて驚異の連覇が実現でき、また人材が多数育ってると。その話にも共通する部分があると感じた。

生き生きとした日本を創るために、今一度歴史を振り返り、共有できるチャレンジできる大きな目標を見出すことが必要だ。

文責・藤原愼二