鋳造工場では、鉄源を電磁石を利用して吊り上げて電気炉などに投入します。鉄に磁性がないと困りますね。
なぜ、鉄は磁石にくっつくのだろう?
電磁気学で、磁界が電流から作られることが分かると、磁性がある物質とない物質の違いや、磁石にくっつく鉄やステンレスとくっつかないステンレスなどの違いがなぜ?ということになります。

そこで解説サイトを探したら、下記がありました。ポイントを部分引用でご紹介。
原子レベルで、電子のスピン(ミクロな電子の回転回路)が磁界を作っていたと。

3分でわかる技術の超キホン 電磁ステンレス鋼の基礎知識[フェライト系/オーステナイト系]

(2)ステンレス鋼の磁性

鉄に「面心立方格子」であるニッケル(Ni)を溶かして温度を下げていくと、鋼材が「面心立方格子」になりやすい状態になり、「体心立方格子」になる変態点の温度が下がります。

そのため、ニッケルを含んだオーステナイト系ステンレス鋼の結晶構造は、常温でも「面心立方格子」となります(図3)。

結晶構造
【図3 ステンレス鋼の結晶構造】

 

「体心立方格子」と「面心立方格子」は以下により磁性に差があると考えられています。

  • 鉄の電子配置は、M殻(3番目の電子殻)のs軌道に2個、P軌道に6個、d軌道に6個、合計14個です。5種類のd軌道の満杯は10個なので4個空きがあります。
  • 結晶構造が「体心立方格子」のフェライト系ステンレス鋼は、M殻のd軌道に存在する6個の電子のうち、2個の電子はお互いが反対向きのスピンのペアになり磁性を打ち消し合いますが、残りの4個の電子はペアにならず孤立したスピンになります。そしてこの孤立したスピンが同じ向きになるので磁性が現れます。
  • 一方、結晶構造が「面心立方格子」のオーステナイト系ステンレス鋼は、M殻のd軌道に存在する6個の電子が2個ずつ全てペアになり磁性を打ち消し合う、または格子の大きさに応じてペアにならない孤立したスピンの向きが揃ったり反対になったりするので磁性が現れない。

つまり、オーステナイト系ステンレス鋼の磁性がない理由は、「面心立方格子」の原子を構成する電子のスピンがバランスして打ち消し合うためと考えられます。

 

次に永久磁石です。日本磁気学会の初級の説明を引用でご紹介

Q 2.永久磁石とはどんなものですか?A 2.

作りたての磁石材料は磁区を作って磁力を打ち消しあっています。この磁石材料を形成している鉄などの強磁性体の原子磁石は外部の磁界に敏感に反応して磁極の向きを変えます。

永久磁石では鉄原子が簡単に磁極の向きを変えないような工夫がなされており、外部から磁界をかける作業(着磁)により磁区をなくしてしまったあとは、外部磁界を取り除いても元の磁区構造に戻らずに”永久”に磁石になります。

例えば、永久磁石の1つであるNd-Fe-B (ネオジム-鉄-ホウ素)磁石では、ネオジム原子が鉄原子の磁極の向きを特定の方向に固定するのです。

外部から鉄原子磁石に磁界をかけて永久磁石ができる様子の図解

永久磁石は磁界により磁区をなくしたあと、磁界を取り去っても磁区ができず、自ら磁力を発生し続けます。

ネオジム原子が鉄原子の磁極のふらつきを抑制する働きの図解

鉄原子だけだと磁極の向きはふらふらしていますが、ネオジム原子にはそれを抑える働きがあります。