先ほど、鋼の熱処理の解説を紹介した。

最近一本数万円もする日本包丁がインバウンドの日本土産で大人気で、一人が何本も買ってゆくそうです。
何故、日本包丁はよく切れて切れ味が長続きするのか?金属組織について調べたら、これも案外解説が少ない。見つけた兼秀さんのサイトの技術解説を引用でご紹介する。
日本の鋼製包丁は、芯金とより柔らかい鋼の3層や2層のものがあると。切削を担う先端は焼き入れでマルテンサイトにして、もろくなるので欠けないように焼き戻しやサブゼロ処理を施しているそうです。
また、炭素鋼では錆びる問題があるためステンレス鋼(種類さまざま)を使うこともあるそうです。
イオン化傾向の高いフェライト相が陽極として優先的に腐食され、イオン化傾向の低いセメンタイト相が陰極になり腐食電流回路を形成して腐食を促進することがあります。

調理に利用することで刃物先端は摩滅し切れ味が劣化します。家庭では女性が扱うことも多いけれども、砥石や研ぎ棒を使って研いで切れ味を確保することが包丁とのお付き合いでは重要だと。私は、荒砥石で数回研いでカエリが出たら中砥石でこれも数回研ぐことで、素晴らしい切れ味が維持できています。ご参考まで! 研ぎ方は動画サイトで学べます。

 

兼秀商標のサイト(サンケントータル)から引用紹介します 
https://sankentotal.com/hpgen/HPB/entries/1.html

包丁あれこれ

刃物鋼について

包丁に使われる材料について

現在包丁に使われる材料は、鋼(ハガネ)、ステンレス鋼、セラミックとチタン合金に大きく分けられます。業務用包丁としては、鋼とステンレス鋼に大別されます。
 鉄(Fe)に炭素(C)をくわえたものを鋼と呼びますが、炭素量によって呼び名が変わります。  

鋼=鉄(Fe)+炭素(C) 炭素量 0.04~2.00%
炭素量 0.00~0.04%
鋳鉄 炭素量 2.1~6.7%

 鉄(Fe)+炭素(C)0.04~2.00%を別名で炭素鋼と呼びます。包丁で製と呼ぶ場合は、この炭素鋼のことをいいます。鉄(Fe)に炭素(C)を加えた鋼は、焼入れ処理(高温に熱し、急冷)により硬くなります。刃物に例えると刃先が変形しにくくなるといえます。そのため、刃物には鉄(Fe)に炭素(C)を添加した鋼を使用します。
炭素量によって、焼入れ処理後の硬さ、強さは異なります。基本的には炭素量が多いほど硬いものになります。しかし、炭素量が1.4%以上は量が多くなっても硬さが増大しません。そのため包丁に使用される鋼の炭素量は、0.2~1.4%がほどんどです。

鋼には鉄(Fe)と炭素(C)のほかに、以下の元素がごくわずかですが含まれます。

ケイ素(Si) マンガン(Mn) リン(P) 硫黄(S)

リン(P)、硫黄(S)は刃物鋼にとって不純物と考えられていますが、鋼材の製造工程においてこれを完全に除去することは困難とされています。
 炭素(C)量が同量であっても、不純物が少量の鋼材は硬くなり,また切削性がよいため、研ぎやすく永切れする刃物になります。不純物が少量の鋼材がより優れているといえるのですが、鋼材が高価になります。

 ステンレス鋼(ステンレス刃物鋼)はこの炭素鋼にクローム(Cr)を10.5%以上加えたものをいいます。

ステンレス鋼=鋼(鉄+炭素)+クローム(Cr)

 このクローム(Cr)は鉄が酸化(錆び)するよりも早く酸化し酸化クローム膜になるため、錆びにくくなります。(「ステンレス刃物鋼について」参照)

 まれに、「この包丁に鋼(はがね)は入っていますか?」と聞かれることがあります。鋼(はがね)の意味から考えるとこの表現はおかしいことがわかります。

 

ステンレス刃物鋼について

  一般にステンレス鋼と呼ぶ金属は、SUS304を指します。このSUS304は鉄(Fe)にクローム(Cr)を18%、ニッケル(Ni)を8%を添加したもので18-8と表記したりします。クロームは鉄が錆びる前に酸化クローム膜を形成するため鉄が錆びにくくなります。また、ニッケル(Ni)を添加することで耐酸性が増します。しかしこのSUS304は、炭素(C)が添加されていませんので、焼入れ処理をしても硬くならないので刃物には使用できません。

 刃物で使用するステンレス鋼は、炭素鋼にクローム(Cr)を10.5%以上加えたものをいいます。

ステンレス刃物鋼=鋼{鉄(Fe)+炭素(C)}+クローム(Cr)10.5%以上

 刃物に炭素(C)は必要不可欠で、ステンレス刃物鋼にも炭素(C)が含まれます。炭素(C)は、鋼を錆びやすくする特性があります。より炭素(C)が少ない鋼が錆びにくいものになりますが、高い硬度が得られず切れない刃物になります。逆に炭素(C)を増やすと硬度は高くなり、よく切れる刃物になりますが、錆びやすい刃物になります。

 ステンレス製包丁は錆びないのではなく、錆びにくいということになります。

  包丁に使用するステンレス刃物鋼は何種類もあります。

  • 鉄(Fe)+炭素(C)+クローム(Cr)10.5%以上+モリブデン(Mo)
    モリブデン鋼と呼ぶことがあります。
  • 鉄(Fe)+炭素(C)+クローム(Cr)10.5%以上+モリブデン(Mo)+ヴァナジューム(V)
    モリブデン・ヴァナジューム鋼(MV鋼)と呼ぶことがあります。
    モリブデン(Mo)は焼入性、ヴァナジューム(V)は耐摩耗性の向上を目的に添加。
  • 炭素(C),クローム(Cr),その他元素の含有量,鋼材メーカーで鋼材の名前が多々あります。
    実際は、刃物鋼にとって不純物であるリン(P),イオウ(S)等が含まれています。

 これらの不純物を完全に除去することは困難とされています。これらの不純物の含有量によっても刃物の性質(耐摩耗性,靱性,耐食性)に違いがあります。

 また、ステンレスは英字で「STAINLESS」と書き、

 ・STAIN ・・・ 汚れ、しみ

 ・LESS   ・・・ ~がない、~しない

 が組み合わさった単語です。ステンレスと呼ばれる物質があるわけではありません。

 まれに、「この包丁にステンレスは入っていますか?」と聞かれることがあります。ステンレスの意味から考えるとこの表現はおかしいことがわかります。

 

錆について

省略

包丁の用途

熱処理について

 刃物がよく切れ,長切れするということは、刃先が変形しないことです。そのためには、硬さと粘りが必要となります。鉄(Fe)に炭素(C)を加えると焼入れを行うことで硬さが得られます。鋼材の種類によって温度は違いますが、800℃~1100℃に加熱し急冷することを焼入れといいます。焼入れ処理をおこなうことにより鋼の組織が変わり硬くなります。

 鋼は常温ではP(パーライト)と呼ばれる組織ですが、加熱し変態点と呼ばれる温度になるとA(オーステナイト)と呼ばれる組織になります。
 この組織から急冷するとM(マルテンサイト)という組織になり硬くなります。
 変態点は、鋼材の種類によってことなります。

 焼入れ温度は、鋼材の適正温度でなければならなく、高くても低くてもしっかりとした焼きは入りません。現在は、温度計器でもってこの焼入れ温度を設定します。
しかし、日本刀を製造していた昔は、当然温度計器はありません。そのため、鋼を熱した時の色によって温度を判断していました。そのため、この色を見誤らないよう、焼入れは夜の作業とされていました。

 焼入れした鋼は、硬いのですがもろい、いわばガラスのような状態です。刃先が欠けやすい、また折れやすい状態です。これに、靱性(粘り)を与えるため焼き戻しという処理をします。変態点以下の温度(通常は150~200℃)に加熱し、1時間程保持します。テンパー(tempering)と呼ぶこともあります。
 焼入れの時に、鋼の組織がA(オーステナイト)からM(マルテンサイト)に変わるのですが、少量のA(オーステナイト)組織が残ります。これを残留オーステナイトといいます。これを完全にM(マルテンサイト)組織にするため、サブゼロ処理(焼入れ後 -73℃以下に冷却)を行います。

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<補足>焼き戻しについて Geminiの解説を以下で引用紹介します

Q:炭素鋼の刃物を急冷して刃先をマルテンサイトにした後に、更に熱処理で焼き戻しをして粘りを持たせるのだそうです。この時に金属組織はどう変化するのでしょうか?

Ans: それは、炭素鋼の刃物の強度と靭性を両立させるための重要な工程ですね。急冷(焼き入れ)と焼き戻しによって、金属組織は以下のように変化します。

1. 焼き入れ(急冷):

 高温に加熱した炭素鋼を、水や油などの冷却媒体で急激に冷やすことで、オーステナイトという高温で安定な組織から、非常に硬いマルテンサイトという組織に変態させます。

 マルテンサイトは、炭素原子が鉄の結晶格子の中に無理やり閉じ込められたような状態であり、非常に歪んだ不安定な組織です。これが高い硬さの理由ですが、同時に脆さも持ち合わせています。

 この時点での金属組織は、主に針状のマルテンサイトで構成されています。

2. 焼き戻し:

 焼き入れによって硬化したマルテンサイト組織を、比較的低い温度(通常は200℃~600℃程度)で再加熱し、一定時間保持した後、空冷または油冷します。

 この加熱によって、マルテンサイトの不安定さが解消され、以下の組織変化が起こります。

  • 炭化物の析出: マルテンサイト中に過飽和に固溶していた炭素原子が析出し、微細な炭化物(セメンタイト: Fe₃C)粒子として分散します。
  • マルテンサイトの分解: 歪んだマルテンサイト組織が緩和され、より安定な組織へと変化します。具体的には、トルースタイトやソルバイトといった組織が生成します。これらの組織は、マルテンサイトよりも炭化物が微細かつ均一に分散しているため、硬さを維持しつつ靭性が向上します。
  • 残留オーステナイトの変態(場合による): 焼き入れ時に完全にマルテンサイト化しきれずに残ったオーステナイト(残留オーステナイト)は、焼き戻し温度によってはマルテンサイトに変態することがあります。しかし、一般的には残留オーステナイトは少ない方が望ましいとされています。

最終的な金属組織:

 焼き戻し後の金属組織は、焼き戻し温度や保持時間によって異なりますが、一般的には以下のような特徴を持ちます。

  • 低温焼き戻し: 微細な炭化物がマルテンサイト中に分散した組織となり、高い硬度を維持しつつ、わずかに靭性が向上します。
  • 中温焼き戻し: より多くの炭化物が析出し、マルテンサイトが分解したトルースタイト組織が主体となります。硬さと靭性のバランスが取れた状態となります。
  • 高温焼き戻し: 炭化物が粗大化し、ソルバイト組織が主体となります。硬度は低下しますが、靭性が大きく向上します。

 このように、炭素鋼の刃物の熱処理における焼き入れと焼き戻しは、金属組織を意図的に変化させることで、刃物に必要な硬さと粘り強さ(靭性)を両立させるための重要なプロセスなのです。刃物の種類や用途によって、最適な硬さと靭性のバランスを実現するために、焼き戻し温度や時間が細かく調整されます。

Gemini 引用終わり

蛇足:日本刀の制作過程では、真っ赤に加熱したたたら製の鉄を何度も打ち延ばし折り畳み、刀の形に打ち整えた後で、刃の部分に焼刃土を塗って刃の先端は水冷急冷でマルテンサイトにし、峰の部分は徐冷させて靭性を持たせ、その後焼き戻しで刃先に粘りを持たせるのだそうです。ちなみに日本刀の反りは刃先がマルテンサイト変態するときに膨張することで湾曲するんだと。
(長船刀剣博物館での刀剣制作見学時の職人さんの解説)。

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砥石について

 

T#3000 鋼製包丁の仕上げ用。
T#1500 鋼製包丁の中仕上げ用。ステンレス製包丁の仕上げ用。
T#1000 鋼・ステンレス製包丁の中仕上げ用。家庭用包丁の仕上げ用。
T#320 荒砥用。
T#180 荒砥用。刃こぼれ等がある時に使用。
T#100 極荒砥用。刃欠け等がある時に使用。
修正砥石 砥石の面直し用。

 包丁を研ぐ場合、荒砥石・中砥石・仕上砥石の3点を揃えていれば研ぐ時間も短縮でき良いが刃がつきます。番手(細かさ)は研ぎ感、研ぎ後の刃によりますので好みでお選びください。

 ご家庭でこれから砥石を使う場合は、まず#1000がよいかと思います。#1000は中砥石ですが、家庭用では充分かと思われます。その後、荒砥石#320があると便利です。砥石面の修正にも使用します。2つの砥石面をそれぞれ擦り合わせることで砥石面が平らになります。