金属が、特有の構造と組成の元素の立体的構造体である固体の状態と、
温度が上がると構造がなくなり均一に混ざり合う流体である溶融状態、
両方を利用する鋳造

溶融状態を熱いスープとすると、特有の構造と成分組成を持つ様々な元素の結晶が作る固体はサラダです。
トマトとリンゴを混ぜて加熱しミキサーにかけ加熱し溶け込んだ熱いスープ。それを、冷やしたら無数のミニトマトとミニリンゴが生まれ出てくるような現象。

固体の金属や材料を加熱昇温して溶融した湯、そこから温度が下がると特有の構造を持つ金属や材料の固体の結晶が順次生れ出てくる。
それは、単に冷えて固まっただけ、ではなかったのです。
この現象を理解するには、科学が必要。

鋳造は、複数の元素が混在する混合物を扱い、そこでは融点降下が起こっています。
融点降下とは、異なる成分が混ると、純物質と比較して融点が低くなる現象

2成分系の固液平衡状態図

固液平衡状態図とは何か?
混合物が溶けた状態から、ゆっくりと温度が下がって固体が生まれてくるとき、どんな組成のものが晶出してくるのかを表したもの。
晶出:溶け合った液体から特有の結晶構造をもつ固体が生まれ出てくること

高校で学ぶ物理化学ですが、初めて出会う場合は動画で学習(youtube)が最適。
相平衡2成分系(固ー液平衡状態図)の講義動画(25分:前半だけでもOK)をご覧ください。
 https://www.youtube.com/watch?v=yhlsjEL_-UA

この動画で最初の解説が、AとBの2成分系の固液平衡状態図で、横軸が成分Aの%の場合は、成分Bが(100-A 左の縦軸が成分B)=100%なんだと。
鉄炭素平衡状態図では、左の縦軸は成分が純鉄100%で、右の縦軸(本来は純炭素100%だけどその部分図で)では炭素5%で鉄95%。中間の位置では、溶湯の時の成分%。

ですが、通常は図にはAだけでBは書かれていません(頭の中で補足必要)。


銑鉄鋳物は、鉄と炭素(ケイ素)の合金です。鉄と炭素それぞれ単体の融点ははるかに高いのに、混合物の融点は低いのです。
地球の中でも、火山のマグマは、岩石に水分が混合すると融点が下がり液状化し軽くなって上昇し噴火で流れ出る溶岩に。

純鉄の融点 1538度、炭素の融点 3550度、 混ざりあうと融点降下で最も低い温度1147度で液体に。

図1は縦軸が温度で横軸が鉄と炭素の構成比率%です。 鉄でみると原点が純鉄(鉄100% 炭素0%)で、右方向へ行くにつれて鉄分が減少し炭素分が増えて図の右端では鉄は95%で炭素5.0%
なので、炭素からみたら原点は炭素分0%で、右に行くにつれて炭素分は5%

図の上の方は、高温で鉄も炭素も溶けて溶融した状態です。X Y Zは異なる炭素の成分比率(横軸の%)。
そこから少しずつ温度を下げていくと、線に当たったところから左側の鉄と炭素の合金が溶融液から固体として晶出したり、晶出した固体から別の固体の組織が析出したりします。
溶融組成によって、温度を下げていったときに、晶出したり、析出したりするものが異なることを表しています。

Zは炭素Cが3.5%(=鉄96.5%)の溶融液、それが液相線まで温度下がると、液体の中からその温度(水平線で左の交点)の固相線の、液より炭素分が少ない組成の固相(Feが98.3% Cが1.7%)が晶出し始め、温度が下がると順次下がった温度の組成のものが晶出、 というわけです。
液より炭素の組成が少ないものが晶出するので液体の炭素分が濃くなりその温度の横方向の液相線の成分になる。こういう現象をグラフにしたのが鉄炭素状態図です。

1147度になると、液体ではいられなくなり、C 2.14%(=γ(ガンマ)オーステナイト)の固相と、黒鉛(=炭素)或いは鉄と炭素の合金のセメンタイト(Fe3C)の固相が発生(中間組成の固相は存在しない)。
オーステナイト:面芯立方の結晶で隙間が大きく、Cを2.14%まで固溶できる
フェライト  :体芯立方の結晶で、Cは最大0.022%までしか固溶できない
※徐冷で生成する黒鉛(=炭素)と、急冷で生成するセメンタイト(Fe3C)

以下に日本鋳造工学会の鉄炭素平衡状態図の解説を引用紹介します。

鉄炭素平衡状態図

一般に平衡状態図とは,横軸に組成(含有量),縦軸に温度を取り,ある組成の溶液や合金などが,ある温度でどのような状態で存在している示す地図と考えると解りやすいでしょう.

そこでFe-C系複平衡状態図は,実線のFe-Fe3C系(準安定系)と点線のFe-C系(安定系)で表されています.炭素鋼では,FeとFe3Cの2相ですが,鋳鉄ではFeとFe3Cと黒鉛(=炭素C)の3相になっています.

図1

 0.4mass%C 組成:Xの鉄-炭素合金を,高温均一融液状態(液相)からゆっくり冷却すると,AB線と交差します.この線を液相線と呼び,液体中に固体(固相)が現れる(晶出)始める温度を示しています.また,溶融金属から初めて晶出する結晶(固相,固体)を初晶といいます.さらに温度が低下するに伴って固相が増加し続け,JE線と交差します.この線を固相線と呼び,全てが固体(固相)となる温度を示しています.ここでは全てγ鉄(固相,オーステナイト鉄)になります.さらに温度が低下するとGS線と交差します.この線をA3線と呼び,γ鉄からα鉄(フェライト)が析出(一つの固相から別の固相が現れること)し始める温度を示しています.さらに温度低下に伴いα鉄は増加し続け,PS線の温度(727℃)になったとき,残っているγ鉄は,α鉄(フェライト)とFe3C(セメンタイト)に相変態します.この変態が起こる温度をA1変態点といいます.この反応は,1つの固相から異なる2つの固相が共に析出する(同時に現れる)ので,共析反応といいます.

  1.0mass%C 組成:Yの合金を1000℃のγ鉄からゆっくり冷却すると,ES線と交差します.この線をAcm線と呼び,γ鉄からFe3C(セメンタイト)が析出しはじめる温度を示しています.ちなみにcmはセメンタイト(Cementite)のことです.

  3.5mass%C組成:Zの合金を,高温均一融液状態からゆっくり冷却すると,BC線(液相線)と交差します.この温度で融液からγ鉄が晶出し始めます.さらに温度が低下するとE’温度(1153℃)で,残っている融液からγ鉄と黒鉛(G)が晶出します.この反応は,液相(液体)から2つの固体が共に晶出するので,共晶反応といいます. 

(『鋳造工学』88巻11号)

注:比重 Fe 7.87  Fe3C(セメンタイト)7.4  黒鉛 1.6~2.2
  このため、黒鉛を多く析出させると体積は膨張する(引け巣防止)

2016 先進構造材料特論 0414 01 – 京都大学

 2016年度大学院「先進構造材料特論」 辻伸泰
 ※少しレベルが高いけれど、結晶の原子構造からの図解など判りやすい。

 

炭素鋼では、次に紹介するモノタロウ鉄炭素状態図は、組織写真もありお勧めです。

機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

 炭素鋼(炭素含有量0-1%程度)を中心に、基礎的な内容を解説し組織写真もあります。google検索でトップの傑作。