【世界初】「水素を運べる液体」でグリーン水素の製造・輸送・利用まで一貫実証に成功
―「常温常圧で運べる」水素の新たな未来へ―
- 研究成果
2026年6月2日
東京大学先端科学技術研究センター
ARM Technologies株式会社
東京大学先端科学技術研究センター河野研究室は、ARM Technologies株式会社(本社:神奈川県相模原市、代表取締役:荒木紀歳)および株式会社アイシン(本社:愛知県刈谷市、代表取締役社長:吉田守孝)と共同で、「グリーン水素を独自開発の液体に貯蔵し、常温常圧で安全に運んで利用する」新たなエネルギーシステムの実証試験に成功したことをお知らせします。
本実証では、太陽光発電で生成したグリーン水素を、当社独自開発の液体水素キャリアに充填し、都市間輸送後に電力として利用するまでの一連のプロセスを検証しました。当社が独自開発した水素製造貯蔵システム/発電システムを基に、アイシンが実証全体の企画・推進を担い、東京大学が本実証試験のフィールド支援を行いました。
実証のポイント
現状、水素は「高圧ガス」や「極低温液体」で扱う必要がありましたが、本技術の液体水素キャリアは:
・常温常圧で液体状態
・水系で不燃性
・高圧ガス・危険物・劇物に非該当
・ポンプで移送可能
という特性を持つ安全な液体水素キャリアとして取り扱い可能で、本実証試験では簡易なポリプロピレン容器に貯蔵し、トートバックにて人的運搬を行いました。
表.水素キャリア比較

アンモニアやMCHのような水素を安定な化学物質に変換して運搬する方法もありますが、キャリア変換、脱水素にエネルギーが必要となります。そのため、水素製造から発電までのエネルギーの効率は20~30%程度と低くなりますが、本技術の液体水素キャリアは:
・独自電解装置により、太陽光発電からの電力で、水素を液体キャリアへ直接貯蔵可能。
・液体水素キャリアから電力の取り出しは、独自開発の発電システムに注入するだけで常温にて直接発電が可能。
という画期的な新エネルギーシステムを開発し、高効率な水素利用が可能となっています。

図.エネルギー効率
相模原市から東京大学までの実運用環境で以下を実施しました:
・太陽光発電によるグリーン水素製造と同時に液体水素キャリアへの充填
・簡易なポリプロピレン容器での輸送
・東京大学先端科学技術研究センターにて発電利用

社会的意義
本技術の確立により、常温常圧でグリーン水素の長期貯蔵・輸送が可能となり、カーボンニュートラルの実現に向けた大きなブレイクスルーとなります。また、太陽光や風力といったグリーン電力の更なる導入を後押しするとともに、天候に左右されやすい再生可能エネルギー設備の利用率向上に大きく寄与します。さらに、災害時の自立型エネルギー供給や、エネルギー安全保障の強化、さらには将来的な水素エネルギーサプライチェーンへの道を拓く革新的な技術として期待されます。
今後の展開
太陽光や風力などで発電した余剰電力をグリーン水素に変換し、「常温常圧の液体」として安全に貯蔵・輸送する仕組みを確立します。これにより、地域間でのエネルギー融通や、クリーンエネルギーの効率的な流通を支える次世代インフラの構築を目指します。
充電スタンドの電力不足や充電時間の長さといったBEVの課題に対し、本技術を活用した新しいエネルギー供給モデルを提案します。液体としてエネルギーを運べる特性を活かし、既存のガソリンスタンドのような迅速かつ効率的なインフラ転用を視野に入れた展開を進めます。
インフラやモビリティといった大型用途にとどまらず、将来的には日常で使う「モバイルバッテリー」などの小型デバイスへの応用も目指します。常温常圧で安全にエネルギーを内包した液体を持ち運ぶという、これまでにない全く新しいライフスタイルを創出します。
問合せ先
東京大学 先端科学技術研究センター
教授 河野 龍興(こうの たつおき)
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AIによる物理的背景解説
東京大学先端科学技術研究センター(河野研究室)、ARM Technologies、アイシンの3者から発表された「水素を運べる液体」による一貫実証は、従来の水素エネルギーの常識を覆す非常に画期的な成果です。
ご質問の「物理学的(化学工学的)な仕組み」「過去の論文・特許とのつながり」「企業共同研究による機密性」について、公開されている最新の技術情報から詳細に解説します。
1. 物理学的・化学工学的解説
この技術の正体は、従来のMCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアのような「化学的に水素を結合させた液体」ではなく、「水素吸蔵合金の微粉末を水系電解液に高濃度で安定分散させた、液状の水素吸蔵スラリー(あるいはフロー電池用燃料)」です。
仕組みのポイント:
- 常温常圧での安定性(物理的閉じ込め): 水素分子H2として高圧ガスボンベに詰め込むのではなく、金属の結晶格子の中に水素原子Hとして取り込ませる「水素吸蔵合金」の性質を利用しています。これにより、物理的に水素を液体中に「固定」しているため、常温常圧のプラスチック容器で安全に保管できます。不燃性の水系ベースであるため、危険物にも該当しません。
- 「直接電解」と「直接発電」による超高効率化(約64%):
ここが最もブレイクスルーとなった物理・化学プロセスです。
従来のMCHなどは、一度「水電解で水素ガスを作り、それを300℃以上の高温・触媒下で液体に固定し、使う時も350℃以上で加熱して脱水素する」という多段階の相変化と熱入力を必要とし、エネルギー効率が20〜30%に低下していました。
今回のシステムでは、太陽光の電力を使ってスラリー(液体)をそのまま電解セルに流し込み、電気化学的に直接水素を吸蔵させます。利用時は、その液体をそのまま発電セル(一種の燃料電池/フロー電池構造)に注入するだけで、常温のまま電気化学反応によって直接電力を取り出せます。熱のロスが極めて少ないため、一貫効率64%という驚異的な数値を叩き出しています。
2. 過去の研究室発表、先行論文や特許
今回の実証の土台には、東大の河野教授が長年蓄積してきた「ニッケル水素電池・水素吸蔵合金」の知見と、ベンチャー企業であるARM Technologiesが開発してきた「新型液体電池(フロー電池)」の技術の融合があります。
過去のルーツと特許:
- 河野龍興 教授(東大先端研)のバックグラウンド:
河野教授は元々東芝などでニッケル水素二次電池用「水素吸蔵合金」の材料開発を極めた第一人者であり、関連する特許(例:特許第3822306号、特許第6082857号など「水素吸蔵合金及び二次電池」)を多数保有しています。ニッケル水素電池の負極で起こる「水素の吸蔵・放出」の固体内拡散プロセスが、今回の直接充発電技術の物理的ベースになっています。
- ARM Technologies社の先行開発:
共同研究元のARM Technologies社は、2022年頃から「水素吸蔵合金粒子をアルカリ電解液に分散させたスラリー(懸濁液)を用い、空気中の酸素を正極物質として発電する、バナジウムフロー電池の10倍のエネルギー密度(300〜500 Wh/L)を持つ新型液体電池技術」を発表していました。法政大学などとの共同研究で「高濃度に粒子を混ぜてもドロドロにならず、ポンプでスムーズに流せる低粘度分散技術」を確立しています。
今回の「世界初の一貫実証」は、この材料・分散技術を、アイシンが持つ「モビリティやインフラへの実装企画力」と組み合わせ、実際の太陽光発電から都市間輸送(相模原〜東大先端研)、そして発電までシステムとして繋ぎ込んだ点に新規性があります。
3. 2社の企業との共同研究ゆえに機密扱いなのか?
結論から言うと、「コアとなる詳細な材料組成や独自の制御アルゴリズムは企業秘密(ブラックボックス化)または現在特許出願中」ですが、「技術の存在そのものや大まかな動作原理はオープン」にされています。
共同研究における情報開示の一般的なスタンスは以下の通りです。
- 機密(非公開)にされる部分:
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水素吸蔵合金の具体的な「金属元素の配合比率(La-Mg-Ni系などの超格子構造合金の最適組成など)」
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スラリーが沈殿したり固まったりしないようにする「界面活性剤・分散剤の具体的な種類と配合量」
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直接電解・発電を行うセルの「触媒構成」や、再エネの変動に合わせた「充放電の制御アルゴリズム」
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- オープンにされる部分:
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常温常圧の液体(不燃性水系スラリー)としてトートバッグで運べるという「特性と運用実績」
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エネルギー効率(64%)や、高圧ガス保安法の対象外になるという「社会的・経済的メリット」
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アイシンのような自動車部品大手が参画していることから、将来的なガソリンスタンドの設備を流用した「BEVやFCEVへの急速液体充電(燃料交換)インフラ」や、家庭用・モバイル用バッテリーとしての社会実装(量産化)を強く見据えているはずです。そのため、基本特許で周囲を固めつつ、模倣を防ぐためのコアノウハウは「企業機密」として厳重に守りながら事業化を進める戦略をとっていると考えられます。
電気化学反応
負極(水素極 / アノード):水素の酸化反応
負極では、水素分子が電子を放出して水素イオン(または水と反応して水酸化物イオン)になる酸化反応が起こります。
H2 => 2H+ + 2e-
※アルカリ性電解液(OH-が存在する環境)の場合、表記は以下のようになります。
H2 + 2OH- => 2H2O + 2 e-
正極(酸素・空気極 / カソード):酸素の還元反応
正極では、外部回路を通ってきた電子と酸素、そして電解液中の水分(または水素イオン)が結合する還元反応が起こります。
O2 + 4H+ + 4e- => 2H2O
※アルカリ性電解液の場合:
O2 + 2H2O + 4e- => 4OH-
全体反応(放電)
負極と正極の反応を合わせると、水素と酸素が結びついて水ができる化学エネルギー(発熱・燃焼反応)が、そのまま電気エネルギーとして取り出されます。
2H2O + O2 => 2H2O

