日経クロステックの記事を引用紹介(図は省略)
記事を読むと、全固体電解質を電池材料に利用するためのハードルはまだまだ高いようだ。
試作品は、レアメタルを利用(Li、La、Zrなど)していることや、負極の膨張収縮への追随性がない(固体のため)などは重要と思われる。
固体電解質、酸化物系が硫化物系超えか 材料コストも電解液並み
第3部:酸化物系固体電解質
- 野澤 哲生
日経クロステック/日経エレクトロニクス編集委員
全固体電池の酸化物系固体電解質の多くの課題が急速に解消しつつある。リチウム(Li)イオン伝導率は硫化物系のトップクラスと並び、界面抵抗値も激減。焼結にかかっていた時間も数時間~10時間から、5秒~1分ほどと大幅に低減してきた。実際、詳しい組成などは未公表ながら、酸化物系固体電解質を用いた高性能全固体電池の量産も始まりつつある。
これまで全固体電池に長らく指摘されてきた課題の多くが、新しい酸化物系固体電解質の登場によって払拭されつつある。結果として近い将来、高いエネルギー密度と安全性や耐久性、そして低価格を高い水準で両立させた蓄電池が登場する可能性がある。
酸化物系は課題山積
酸化物系固体電解質はほぼ不燃で安全性が高く、材料の多くはコストが比較的低いといった長所がある。一方で、(1)電池の性能に直結するリチウム(Li)イオン伝導率が低い(2)水分に弱い(3)材料が硬質なために正極や負極に密着しにくく、界面抵抗が非常に大きい(4)製造時に約1000℃で長時間の焼結が必要─といった課題を抱えている(図1)。

図1 酸化物系固体電解質は課題山積
一般的な酸化物系固体電解質の課題を示した。リチウム(Li)イオン伝導率は硫化物系の数十分の1以下。その中でもイオン伝導率が比較的高いLLZOは水分に弱く、電極との界面に絶縁性の炭酸リチウム(Li2CO3)層が形成される。酸化物系はほとんどが硬質であることから電極との接触が悪く界面抵抗が大きいが、Li2CO3層のために界面抵抗値はさらに大きくなる(出所:日経クロステック)
(2)は、酸化物系材料の中でも比較的有望とされるガーネット型酸化物材料の課題である。例えば、その中でLiイオン伝導率が比較的高いLiとランタン(La)、ジルコニウム(Zr)の酸化物Li7La3Zr2O12(LLZO)では、金属Li負極との界面で絶縁性の水酸化Li(LiOH)や炭酸Li(Li2CO3)が生じ、界面抵抗値が著しく高くなってしまう。
(4)について、酸化物系はいわば陶器の材料のようなもので、製造には約1000℃といった高温で6~10時間ほど焼結する必要がある。これに相当量のエネルギーが必要な上に時間がかかるため、効率的な量産が容易ではない。こうした点から、量産間近の電気自動車(EV)向け全固体電池の多くで硫化物系が選ばれる結果になっている。
ただ、ごく最近の研究開発などで、この状況が大きく変わりつつある。
イオン伝導率が硫化物系並みに
その研究成果の1つが産業技術総合研究所が開発中の「パイロクロア型†」と呼ばれる水分に強い酸化物系固体電解質だ(図2)1)。組成はLi1.25La0.58Nb2O6Fである。2026年には室温で最高15mS/cmというLiイオン伝導率を実現した。これは硫化物系のトップクラスに匹敵する値である。しかも低温下でもイオン伝導率が低下しにくく、-70℃という極低温でも約1mS/cmと高い値を示すという。
†天然鉱物のパイロクロア、つまり(Na,Ca)2Nb2O6(OH,F)の結晶タイプ、より一般的にはA2B2O7またはA2B2O6Fという組成の酸化物系材料の総称。水分に弱いガーネット型と違って、水分に強いという特長がある。1989年当時、三重大学の助手だった菅野了次氏(現在は東京科学大学 総合研究院 特命教授)らが最初にこのタイプの材料(Bi2Ru2O7)のイオン伝導性を詳しく調べた。最近は主に、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極材料として研究されている。
図2 通電焼結で酸化物系でも10mS/cm超を実現
産業技術総合研究所は「パイロクロア型」と呼ばれる酸化物系固体電解質の結晶部分で、Liイオン伝導率15mS/cmという高い値を実現した。焼結体全体では11mS/cmとなる。通電焼結(a)という、加圧しながら材料に電流を流す焼結方法(b)を用いたことで、空隙が多かった材料(c)が、大幅に緻密になった(d)ことが奏功したという(出所:(a)は日経クロステック、(b)~(d)は産業技術総合研究所)

実は同じ組成の材料で2024年に東京理科大学とデンソーが7mS/cmというLiイオン伝導率を得ている。
今回のポイントは、産総研が採用した「通電焼結(Spark Plasma Sintering、SPS)」と呼ぶ焼結方法にある注1)。
注1)通電焼結の英語名はSPSだが、産総研によれば、今回の焼結では、プラズマが生じているかどうか、そしてそれが重要かどうかは確認できていないという。
通電焼結は材料を加圧しながら電流を流す手法で、材料を極めて高密度かつ緻密に焼結できることで知られる。酸化物系でLiイオン伝導率が低い理由の1つが、焼結後の材料が粒状で空隙が多いことだった。Liイオンの通り道がつながっていなければ、伝導しようがない。伝導路があったとしても数が少なく、曲がりくねったものになる。
一方、Li1.25La0.58Nb2O6Fを通電焼結すると粒界が少ない非常に緻密な電解質となり、イオンの伝導路、しかも直線的な伝導路が増える。
通電焼結のもう1つの特徴は、焼結時間が非常に短く、大幅な省エネルギーにつながる点だ。東京理科大学らは焼結に1473K(約1200℃)で6時間かかっていたのに対し、通電焼結では約5分で焼結が完了するという。
ちなみに、通電時の電流は約100Aだが、電圧は1~2Vと低いため、焼結1回の消費電力量は20Wh弱である。ただし、印加する圧力は50MPa(約500気圧)とかなり高い。
同研究所 電池技術研究部門 研究員で論文の筆頭著者である藤田侑志氏は「どこまでイオン伝導率を高められるか追求したい」と、しばらくは材料の特性を高めることに注力するという。
以下に続く2編の有料記事は省略
記事の解説 電池用電解質の性能単位 イオン伝導率(Gemini)
「イオン伝導率(イオン導電率)が 15 mS/cm 」という数値と、その単位について、基礎から具体的な物理的意味まで詳しく解説します。
バッテリーの電解液や固体電解質などの性能を表す際によく使われる重要な指標です。
1. 単位mS/cmの読み方と分解
この単位は 「ミリジーメンス毎センチメートル」 と読みます。
構成する要素を分解すると、以下の3つの意味に分かれます。
- m(ミリ): 1000分 の1(10^-3)を表す接頭辞。
- S(ジーメンス): 電気伝導度(コンダクタンス) の単位。電気の「通りやすさ」を表します。抵抗の単位である Ω(オーム)の逆数です(S = 1/Ω)。
- cm(センチメートル): 長さ・距離の単位。
つまり、「1cm あたりの電気の通りやすさ(ミリジーメンス)」を表しています。
2. 物理的な意味(どういう状態か)
「イオン伝導率」とは、物質中をイオンがどれだけスムーズに移動できるか(電流を流せるか) を表す物性値です。
具体的に 15 mS/cm という特性を持つ電解液をイメージするために、シミュレーションしてみましょう。
- 断面積が 1 cm^2の筒に、電解液を 1 cm の長さ(厚み)だけ入れます。
- この両端に電極を当てて抵抗を測定したと仮定します。
このとき、この電解液部分の電気伝導度(コンダクタンス)がちょうど 15 mS(ミリジーメンス)になります。
これを一般的な電気抵抗Ωに換算すると、以下のようになります。
R = 1/15mS = 1/0.015 S ≒ 66.7Ω
すなわち、「1 cm 四方の立方体にしたとき、その両端の抵抗値が約 66.7Ω になるようなイオンの動きやすさ」 という意味になります。この値が大きければ大きいほど、抵抗が低く、イオンが活発に動ける優れた電解質であることを示します。
3. 国際単位系(SI単位)との関係
学術論文や国際基準(SI単位系)では、分母にメートルを用いた S/m(ジーメンス毎メートル) が基本となります。実務で使われる mS/cm との関係は以下の通りです。
1 mS/cm = 0.1 S/m
したがって、15 mS/cm は 1.5 S/m と等価です。
日本の産業界や電池開発の現場では、セルのサイズ感(数ミリ〜数センチ)に合わせるため、現在でも mS/cm の方が直感的に扱いやすく、多用されています。
4. 15mS/cmという数値の目安(参考)
この「15」という数値がどの程度のレベルなのか、電池開発などの文脈における一般的な目安を挙げます。
- 水系電解液(強電解質):
一般的な硫酸や水酸化カリウム水溶液(鉛電池やニッケル水素電池の電解液)は、常温で数百 mS/cmに達するものもあり、非常に高い値を示します。
- リチウムイオン電池などの有機セクター電解液:
一般的に常温(25℃)で 5 ~15 mS/cm 程度です。したがって、15 mS/cmという値は、有機溶媒系の電解液としてはトップクラスに良好な(イオンが非常に良く動く)状態と言えます。
- 固体電解質(全固体電池):
次世代の硫化物系固体電解質などで、近年ようやく常温で 5~15 mS/cm を達成するものが開発されてきています。固体で 15 mS/cm を超えるものは、極めて高い伝導性を持つ材料と評価されます。

