電線を電気が進む速さには2種類あり、電線を電位差や電力が伝達する速さはほぼ光速で、マイナス電荷である電子が進む速さはカタツムリのように遅いという。
しかし光の速さで進む電磁波は導体の中には進入できないことが解っている。それでは電位差や電力を光速で伝える仕組みは何なのだろうか?

部屋の明かりのスイッチをOnにした瞬簡に灯りが点灯するが、その瞬間電線と電気に何が起こっているのだろうか?
東京からNYに電話する時、地球の裏側だとの距離を感じることはほとんどないのは、なぜか?

不思議なことが起こっているのだが、その解説記事から要点を抜粋してご紹介。

まず、山形大学のネット資料から要点を抜粋、
https://fhirose.yz.yamagata-u.ac.jp/img/Denso23.pdf
電気信号の長い線の場合、平行線路、同軸線路の 2 種類があり、低周波の電力線路ではコストの安い平行線路が使われ、高周波や微弱な信号伝送には同軸線路が使われる。
同軸線路の場合、磁力線と電界が中心線と被覆線(外径線)との間に集中し、電磁波を外部に出さず、低損失な信号伝送が可能になる。
端部に電気信号を与えた場合の波の伝送速度を求めると、伝送線路の線路抵抗が十分低く、漏れ電流が小さいときに
 v≒1/√(LC)  LとCは線路の形状にもよるが、ほぼ光速に近い
但し、単位長さ当たり一定のインダクタンスL[H/m]、キャパシタンス C[F/m]

同軸ケーブルの基本的な構造は、4層の円筒状を重ねた構造です。 ケーブルは銅線の束で形成される内部導体(中心軸)とそのまわりを覆う網組み銅線で形成される外部導体で高周波信号を伝達します。 外部導体は金属製で、この層で信号の漏洩や外部電波の侵入を食い止める効果(シールド効果)があり、音響機器の信号線や、テレビのアンテナ線などに使われています。

図は、トーコネ資料 https://www.to-conne.co.jp/dcms_media/image/cable-danmen.png

次に電気通信大学のネット資料をご紹介。

電磁気学の奥深さ(5):電線に流れる電流は光の速さで進む?【改訂版 2】

http://www.radio3.ee.uec.ac.jp/ronbun/TR-YK-027_EM-5.pdf

電気通信大学 唐沢研究室  唐沢 好男 (からさわ よしお)

www.radio3.ee.uec.ac.jp からの唐沢 好男

 電磁気学の授業において、空間を伝搬する電波の速さは光の速さになること、すなわち、電波も光も同じ電磁波であることを学ぶ。では、電線を流れる電流の速さはどのくらいなのであろう。電流も光の速度に近いという話がある一方で、それを運ぶ電子の移動速度はカタツムリの歩み程度しかないとも言われている。何か不思議である。

1.電気エネルギーの伝送
  有線伝送では、2本の導線を用意し、一方を電流の送り出し、もう一方を受け止めに使う。電流の向きが反対になり、一方が I のとき、もう一方は-I である。電磁界解析を容易に行うには、円筒同軸線路の方が向いており、この資料では、これを用いて解析する。

2.直流電力の伝送

 直流の場合の図1では、外筒の外は電流と電圧共に相殺で磁界・電界ともに存在しないが、内側の導線に+電圧V、外筒の電位が0とすると、内側導線と筒の間には電位差Vによる電界Eが発生し、筒の内側には内側導線に流れる電流Iにより回転する磁界Hが発生している。

 電磁波の章(第4章)でも述べたように、電磁界のエネルギーの流れを示すものとして、E×Hで表されるポインティングベクトル(Poynting vector)がある。電磁波では、電界と磁界が作るポインティングベクトル E×H の方向に、光速で進むエネルギーの流れができ伝搬する
 http://www.radio3.ee.uec.ac.jp/ronbun/EM_Wonderland_Chap_10.pdf

 円筒同軸線路の中と外の円筒の間の空間での電磁気のベクトル演算の説明があり(内容難解で省略)、その結果電磁界で送られるエネルギー電力が得られる。当然電磁界の電送なので光速となる。

 電力は図の電気回路で送られる電力 VI に等しくなっており、導線で運ばれる電力は、実は、円筒同軸線路の中空部分を電界と磁界が力を合わせて運んでいるとみなすことができる。電気回路的には、電線に流れる電流が電力を送っていると理解されるが、このような伝送路では、そしてそれは、平行2線のような他の伝送路においても同様に、電線の周りの電磁界が電力を運んでいるということがわかり、大変興味深い。

4.電荷と電子の移動速度と全体のまとめ
 ここまでをまとめると、
 1)伝送線路の中では、電圧・電流波形が正負の両方向に光速で進む二つのモードがある

 2)伝送線路を構成する導体の周囲の空間を電界と磁界が波動として光速に進む二つのモードがある。電圧・電流波形のモードとは一対一の対応がある

 3)伝送線路の終端に任意の負荷が接合される場合、整合負荷との比によって定まる反射係数があり、二つのモードの関係は反射係数によって規定される。

 4)各モードが運ぶエネルギーも光速で移動する。ただし、逆向きの流れの合成なので、平均移動速度は光速とは一致しない(反射の無い整合負荷の場合を除いて)

 5)電流・電圧が分布定数回路として運ぶエネルギー(あるいは電力)と電界・磁界が電線周囲の空間を運ぶエネルギーは等しい(実際、どちらが運んでいるかを決めることはできないが、光速伝搬は電磁波の性質なので、電界と磁界が空間を運んでいると解釈するのが有力)

電圧や電流を作り出している電荷、その電荷を物理的に運んでいる電子の速度はどうか

 物質中を進む電子は、結晶格子などの抵抗で歩みが遅いという。なのに大きな電流ができるのはなぜ?
 電荷を運ぶ能力を持った電子が有り余るほどいて、目的とする少ない電荷量を運ぶには速く走る必要がまったく無い。
 荷物を満載した大型トラックが速く走れば、所定の時間内に必要以上に荷物が届いてしまい、そうならないようスピードを落として調整しているのとおなじだと。

蛇足・感想

 抵抗ゼロの電線の先に豆電球(抵抗)がある回路に電池をつなぐと点灯する。豆電球で突然エネルギーが発現するの? 電池からエネルギー供給されてるのだけど、電線の中では E=IxV=IR になるから抵抗ゼロでエネルギーはゼロ。
 実は、電池から豆電球までの電線でもエネルギーの流れがずっと続いているのだと。油圧ならば、油圧ポンプから出た油が油圧シリンダーや油圧モータなどのアクチュエータで仕事するまで、つながって動いてるようなもの?のようだ。

 マイクロソフトのCopilotで「ポインティングベクトルとは?」質問した結果をご紹介(一部編集)

 ポインティングベクトル(Poynting vector)は、電磁場におけるエネルギーの流れを表すベクトルです。具体的には、電場 ( E ) と磁場 ( H ) の外積で定義されます:
 S=E×H
 このベクトルは、単位時間あたりに単位面積を通過するエネルギーの密度を示します。ポインティングベクトルの向きは、エネルギーが流れる方向を指し、その大きさは流れるエネルギーの量を表します。
 例えば、電磁波に対してポインティングベクトルはその進行方向を指します。これは、電磁波が持つエネルギーがどのように伝搬しているかを示すために重要です

補足

 電磁波のエネルギーの流れる方向と、磁場に流れる電流が受ける力の方向は同じだ。

 マクスウェルの法則の第一式から、電流と電界の時間微分は回転磁界Hを作るからHは電流や電界に垂直であることが解る(回転するコマの軸と電流や電界が同じ方向で、回転するコマの回転方向Hと回転軸は必ず垂直になる)。

 電磁波のポインティングベクトル      S = E × H (電磁波のエネルギー進む方向)
 磁場を動く電流が受ける力(ローレンツ力) F I x B (単位長さの導線が受ける力)
 右手の親指を電流方向I, 人差し指を磁界の向きHとすると, 中指の向きが導線が受ける力F の向きを示す。

 コンデンサーに電流が流れ込む場合、正の電流の向きとコンデンサー内部の電界の方向と電界が増加する方向は同じ。
 電流と電界が同じ性格を持つことを考えると電磁波のエネルギーの流れる方向ポインティングベクトルとローレンツ力の方向が同じとなることは興味深い。