東北大学工学研究科 及川 勝成
1. 日時 平成20年2月19日(火)13:30~
2. 会場 サンルートホテル山形・3F会議室
3. 発表概要
3.1 X線CTによる鋳造製品の内部観察とその応用
秋田県産業技術総合研究センター 内田富士夫
 鋳造品内部に存在する内部欠陥を非破壊で調査するにはX線CTが有効である.この講演では,秋田県産業技術総合研究センターが有するX線CT(テスコ(株)製TXS225-ACTIS)について紹介があった.X線CT画像を3次元化することにより3次元CADデータとの比較から僅かなソリ等も定量化できるほか,内部結果の定量的評価にも有効に利用できることが明らかとなった.

3.2 鋳鋼品の熱間割れについて
山形県工業技術センター 山田享,佐藤昇,藤野知樹,加藤睦人,鈴木剛,松木俊朗
 ステンレス鋳鋼品を生産している企業で,熱間割れと考えられるクラックが発生する問題が起こった.割れはロット(チャージ)単位で発生し,ほぼ全製品が不良品となっていた.注湯前の成分検査では特に異常は確認されず,また,不良品を戻り材として使用しても割れが発生しないロットがあるなど対応に苦慮し,当センターへ原因究明及び対策について相談があった.不良品の金属組織観察では,結晶粒界への異常な化合物の析出が確認されたが,EPMAによる解析では鉄とクロム以外に検出されなかった.ところが,ICP発光分光分析(ICP-AES)による定性分析の結果ホウ素が多量に検出されたため,再度EPMAで解析したところ,異常な化合物はホウ素化合物であることが判明した.あらためてICP-AESで定量分析を行ったところ,約800ppm(0.08mass%)の含有量であった.文献には,ホウ素は100ppmを超えると(Fe,Cr)2Bを形成し熱間割れを起こすとの記載もあり,ホウ素が今回の割れの原因であると断定した.これを受けて,相談側の企業では,ホウ素を分析できるスパーク放電発光分光分析装置へと更新し,原料受け入れ時及び溶解・注湯時の成分検査体制を強化する対策を講じた.当時の鋳造材料及び副資材(鋳型材料等)からはホウ素は検出されず,混入経路を明らかにできなかったが,約1年後,受け入れ検査においてステンレススクラップの一部から高濃度のホウ素を検出した.ICP発光分光分析で定量分析を行ったところ,ホウ素の含有量が約0.8mass%であり,一次的にこのようなホウ素含有のスクラップ材が紛れ込み,一連の不良の原因となったと推測された.

3.3 オーステナイト球状黒鉛鋳鉄の高温酸化特性に及ぼすけい素
およびクロムの影響
山形県工業技術センター 山田享,槙寛,松木俊朗,晴山巧(現:岩手大学工学部)
 オーステナイト球状黒鉛鋳鉄は,基地組織が温度にかかわらずオーステナイトとして安定であること,高温における耐酸化性が優れていること,高温における機械的性質が他の鋳鉄よりの優れていることなどが知られている.しかし,合金元素添加による耐酸化特性への影響や酸化皮膜の状況について,系統的な研究はほとんど行われていない.そこで,本研究ではオーステナイト球状黒鉛鋳鉄の耐酸化性及び高温引張特性に及ぼすけい素(Si)及びクロム(Cr)の影響を調べた.
 供試材は,Si及びCrを3~6mass%(以下,massは省略)で変化させ,ニッケル(Ni)を30mass%,全炭素(TC)を2%,モリブデン(Mo)を1%で固定した.
 800℃における高温酸化試験の結果,Si量を増すことによる耐酸化性の改善効果が大きく,同時にCrを添加することによりさらに改善されることがわかった.耐酸化性が良好であった5%Si-4%Cr材についてEPMAによる分析を行った結果,酸化物層と母材の界面に緻密なクロム酸化物層が形成することがわかった.一方,最も耐酸化性が劣った3%Si-3%Cr材では連続したクロム酸化物層が見られなかった.これらの結果より,優れた耐酸化性を得るためには緻密なクロム酸化物層の形成が必要であり,そのためには基地中への十分なCr及びSiの存在が不可欠であることがわかった.
 800℃における高温引張試験の結果,引張強度に対するSi及びCrの影響はわずかであったものの,伸びについては4%Crにおいて極大を示すことがわかった.
 耐酸化性,機械的特性から総合的に判断して,30%Niオーステナイト球状黒鉛鋳鉄では,5%Si-4%Crで優れた特性が得られることがわかった.

3.4マクロ偏析シミュレーション法の検討
                       東北大学工学研究科 澤田朋樹,及川勝成,安斎浩一
 大型鋳塊ではマクロ偏析が顕著になるため,目標組成と大きく異なる製品となるばかりでなく,偏析部それ自身が欠陥となることもある.そして,大型製品では熱処理などによる改質が期待できないため,操業パラメータを検討することでマクロ偏析を抑制することが望ましい.これには偏析の予測技術を確立することが不可欠である.そこで本研究では基盤となるマクロ偏析シミュレーション法の検討を行い,解析を試みた.
 野上らにより物性値の示されているFe-11mass%Cr-0.2mass%Ti合金1)平板の砂型鋳込みを解析した.Fig. 1に固相率90%の偏析比分布を示す.図の濃淡はTiの偏析比を示す.軽元素であるTiが上部で濃化しているのがわかる.次にサイズの影響を見るために4倍の寸法(面積は16倍)で計算したものとの比較した.Fig. 2に,Fig. 1の1点破線矢印で示された中心線上高さ方向のTi偏析比分布を示す.縦軸がTi偏析比,横軸が規格化した高さである.×のプロットが基準寸法(small),黒菱形が4倍寸法(large)のものである.大型化に伴う凝固時間の長大化によって上部ではより大きなTi濃化が認められる.

Fig.1 Fe-11Cr-0.2Ti 平板のTi偏析比

Fig.1 Fe-11Cr-0.2Ti 平板のTi偏析比

Fig.2 大型化による偏析比分布の変化

Fig.2 大型化による偏析比分布の変化

3.5第151回全国講演大会開催報告
                                 東北大学工学研究科 及川勝成
平成19年10月19日(金)?平成19年10月22日(月)にかけて東北支部が担当して開催した日本鋳造工学会第151回全国講演大会の開催報告を行った.特に,YFEこども鋳物教室の内容と雰囲気について紹介された.参加者は,仙台市内の小学生19名で油粘土砂を使って手込めで鋳型を作製し,Sn-Bi合金を鋳造して図1の様なものを作製した.

図1YFE子供いもの教室で作った作品例

図1YFE子供いもの教室で作った作品例