公益社団法人日本鋳造工学会|Japan Foundry Engineering Society

北岡山治さん(71歳)日軽エムシーアルミ(株)

北岡山治さん(71歳)日軽エムシーアルミ(株)

第84巻(2012)第10号

学費が払えず大学退学の危機.
それを乗り越え,
“コロンブスの卵”の発想で
「Kモールド法」を生み出した.
あれから40年,
JIS化,IOS化を目指していく.

<プロフィール>

  • 氏 名: 北岡山治さん(71歳) 日軽エムシーアルミ(株)
  • 出身地: 東京都
  • 略 歴: 1964年早稲田大学理工学部金属工学科卒業,日本軽金属㈱入社,研究所出向.1992年本開発推進部部長,1998年参与,2001年定年,嘱託.2009年日軽エムシーアルミ㈱技術顧問,現在に至る

Q 本誌『鋳造工学』にもたくさん寄稿いただいている北岡さんですが,そもそもどのようなきっかけで鋳物とかかわるようになったのでしょうか.

A 実は意識して金属や鋳物に進んだわけではなく,大学の入試で金属工学科に受かっちゃったから,というのが最初です(笑).子供の頃ラジオを作ったりするのが趣味だったもので,本当は電気通信を第一志望にしていたのですが,入ったのは金属でした.早稲田大学には鋳物研究所があって鋳物を研究する先生や学生がたくさんおり,大学祭でも学生が金属を溶かして固めて灰皿を作るという実演を行ったりしていましたので, 1年生のころから鋳物は面白そうだなと思っていました.ところが,早稲田大学というのは学費がとても高くて.大学3年のときに,とうとう学費が払えなくなってしまったんです.それで学年担任だった加藤栄一教授のところへ「退学させてほしい」と言いに行ったところ,加藤先生はとても残念がってくれ,自分の研究室でガス分析などのアルバイトをさせてくれたり,知り合いの会社の研究室で実験の手伝いをさせてくれたりと,熱心に面倒を見てくれました.そして非鉄金属の研究室にいらっしゃった雄谷重雄先生の紹介で奨学金を得てなんとか学費を工面できるようになり,4年生の時には雄谷先生の研究室に所属して,無事に卒業することができました.もしあのとき退学していたら今の私はなかったでしょう.先生方には本当に感謝しています.

 なんとか無事に大学を卒業して日本軽金属㈱に就職した私は,会社の研究部門を担う㈱日本軽金属総合研究所の鋳物の研究室に配属になりました.入社当時,会社はアルミニウム合金鋳物を扱い始めたばかりの時期で,さまざまな問題を抱えていました.研究室の磯部俊夫室長は「鋳物合金を扱っていると“鋳造性”という言葉が出てくるが,その鋳造性とはいったいなんなのだ」というところで悩んでおり,私に最初に与えられた課題も「鋳造性とはなにか,そこをはっきりしてほしい」というものでした.例えば湯流れの話であったり引けの話であったり,そういう一つひとつの事象を一括りにして,統一的に理解する理屈を考えてくれというもので,私にとっては「鋳造とは何か」ということを幅広く考えるきっかけになり,非常にありがたかったです.そしてその研究の過程で得られたさまざまな成果を磯部室長の勧めで論文にまとめ,80年には博士号を取得しました.

 

Q 北岡さんといえば,今や多くの企業で採用されている“Kモールド法”の生みの親として有名ですが,これはどのような背景で生まれたのでしょうか.

A  Kモールド法はアルミニウム合金鋳物中の異物がどれぐらいあるかを評価する方法で,1973年から紹介を始めたものです.それまでも破面を観察して介在物を検査する方法はあったのですが,定量化されておらず,なんとなく多い,少ないという評価でした.それを数値化し,検査法として確立したものがKモールド法で,それまで誰もやっていなかったことをやったという,いわば“コロンブスの卵”のようなものです.当時,ダイカストの生産が増えてきて,それまで手作業でやっていたことを機械にさせるようになってきました.すると,溶湯の中にハードスポットと呼ばれる硬い異物が混じるというトラブルが急に増えだしたのです.私のところにもお客様から相談を持ち込まれることがあり,調べているうちに,6mmの板チョコ程度の厚さに溶湯を鋳込むと元の組織がきれいに出るということが分かりました.それを流しやすい24cmの長さにした鋳型を作って販売を始めたところ,ちょうど皆困っていた時期でもあり,多くの企業で採用されるようになりました.最初は国内だけでしたが,その後日本企業の海外進出に合わせて海外にも広まっていき,いつの間にか40年近くが経ちました.

 

Q では,これからやりたいことはどんなことでしょうか.

A  これは周りから要望されていることでもあるのですが,Kモールド法のJIS化とISO化をしなければならないと思っています.検定を設けて正しい検査法を伝えてはいますが,世に出て40年も経つと,知らないうちにいろいろな変化をしてしまっています.使う側が自分の使いやすいように変えてしまうんですね.使いやすさを追求するのはまったく構わないと思うのですが,変えてはいけない部分もあり,そこが守られないと一定の評価ができず,他との比較ができなくなってしまいます.特に最近は海外の研究発表でもKモールド法を使用したものがたくさん出てきており,これからも増えていきそうです.それを考えてもやはり早めに規格を押さえておかないとならないなと感じています.

 借金で大学を辞めそうになったところからの延長で入って来た鋳物の世界ですが,今までとても楽しくやってこられました.お客様のところへ行って問題解決をする“鋳物・ダイカストのお医者さん”のような技術サービスの仕事も楽しくやっています.また,これからKモールド法をJIS,ISO化していく中でたくさんの研究者と連絡を取り合うことになるでしょうから,その流れで世界規模の「アルミニウム溶湯研究会」を組織してみたいという夢もあります.

鋳物はまだまだわからないことや理解されていないことがたくさんある分野です.これからも楽しく仕事を続けていきたいと思っています.

 

<コラム> 北岡さんに5つの質問!

 

Q1 趣味は?
A  スキー,テニス,卓球,ほか.

 

Q2 特技は?
A  ケーキ作り

 

Q3 日課にしていることは?
A  体を動かすこと.週3日はジョギングをしている

 

Q4 鋳造以外で就いてみたい職業は?
A 旅行ガイド等

 

Q5 今,いちばんほしいものは?
A 好き勝手に鋳物を楽しめる鋳造研究室

 

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