公益社団法人日本鋳造工学会|Japan Foundry Engineering Society

橋本邦弘さん(55歳)新東工業株式会社

橋本邦弘さん(55歳)新東工業株式会社

第84巻(2012)第3号

現象はマジックでも奇跡でもなく必然で
工学とはその現象を操ろうとすること.
怪しいと思ったら何日でも張り付いて,
そこで何が起こっているのかを見る.
答えはすべて現場にあるのです.

<プロフィール>

  • 氏 名: 橋本邦弘さん(55歳)新東工業株式会社
  • 出身地: 岡山県
  • 略 歴: 1979年京都大学工学部鋳造加工学科卒業,同4月新東工業株式会社入社,現在に至る.

 

Q 橋本さんが鋳造,そして鋳造工学会にかかわるきっかけはどんなことだったのでしょうか.

A 高校の担任の先生が愛媛大学の金属工学科のご出身だったのです.私が進学にあたって「建築がやりたい」とか「機械がやりたい」と言っていたら,「金属は面白いぞ!」と言われました.それまでは金属という学問があることすら知らなかったのですが,私は人の勧めというのに弱くて(笑),大学では金属を専攻することにしたんです. 
 大学では3年生の時に学科が分かれます.私は鋳造加工学科に進みましたが,ここの選択もやはり研究室の先輩からの「鋳物は面白いぞ!」という勧めが決め手でした.しかし私は鋳鉄の研究室に所属していたため,卒業するまで鋳鉄そのものが“鋳物”だと思っていました.鋳鉄は材料の一つで,鋳造というのは非常に幅広いプロセスを総称した語なのだということを知ったのは,入社して鋳造工場に配属になってからのことです.
 入社当時,鋳造工場では月に400トン近い鋳鉄を吹いていました.私はそこで1年間現場実習をした後,工場の技術雑用をやりながら鋳造方案を作る係を4年間担当しました.当時は今のようにCADで図面を起こすことなどできませんから,2次元の図面から体積を計算し,溶解と鋳込みの重量を決めていくのです.ところがちょっと見落とすとまったく計算が狂ってしまうんですね.ひどかったのは3,500kgくらいの鋳物で600kgくらい間違えてしまい,鋳込む途中で,まだ揚がりから湯が見えてこないのに取鍋の真っ赤な底が見えてくるのです.しまったと思ったときにはもう遅く,班長さんに「何を計算しているんだ!」と怒鳴られながら真っ赤な底とは対照的に一人真っ青になり,なんとも言えず情けない気持ちになったのを覚えています.

 鋳造工学会とのかかわりは,入社して3年目の年,会社から「日本鋳物協会(現日本鋳造工学会)の大会があるから勉強に行ってこい」と言われ,初めて全国講演大会に参加したのがきっかけです.大学時代からそういうものがあるということは知っていましたが,自分が参加するとは思っておらず,行ってみたはいいけれど受け付けの仕方もわからないという有様でした.なんとか受け付けを済ませて講演を聴き,本当にいろいろなことを研究している人がいるのだなあと新鮮な感動を覚え,今でも深く印象に残っています.そこから支部活動にも顔を出すようになり,幹事や理事として大会の運営にもかかわるようになりました.

Q 入社以来ずっと鋳造関連のお仕事から離れたことがないということですが,どういうお仕事をされたのですか.

A 最初の配属先の鋳造工場には6年いて,その後性能評価の実験をする担当になりました.有機バインダー担当の後に生型の担当になって20年になります.お客様のところで不具合の対策を調査するのが主な仕事になりますが,有機と生型を両方担当していた時期があり,その頃は多い時で国内外あわせて年間240日くらい出張していました.大変でしたが日本津々浦々の工場を見て回ったのはとてもよい経験で,今に至るまで,勉強する上での自分の大きなバックボーンになっています.また海外では韓国が大きく発展していく時代に重なっていて,目覚ましい勢いで工場が近代化していく様を見られたというのも貴重な経験でした. 

Q  では,橋本さんにとって鋳物とはなんでしょうか.

A  30数年かけて培ってきた自分の技能・技術を生かすフィールド,だと思っています.私は人の勧めに弱かったり,その時々の状況に流されたりしてきた部分は確かにありますが,しかしそうしてたくさんのお客様の中でさまざまな経験や勉強をしてきました.あちこちで言われることですが,答えはすべて現場にあるのです.若いころ,私が教えられたのは,たとえば鋳物の不良対策を要請されたとき,自分が怪しいのはここだと思ったら何日でも張り付いて,そこで何が起こっているのかを見る,ということでした.現象はマジックでも奇跡でもなく必然で,工学とはその現象を操ろうとすることです.ですから現象を見極めるためには非常に広範な知識の裏付けが必要となるのです.

鋳造は広い学問分野の総合で成り立っていますから,どんなに勉強しても到底一人では網羅できません.だからチームワークでやっていくことが必要です.そこが仕事の面白さだと思うし,追究していきたいところです.これから鋳造を究めようとする若い人たちには「鋳造は総合技術」との認識をしっかりもって,幅広い視野で現象を見極める姿勢を大切にしてほしいと思っています.

 

<コラム> 橋本さんに5つの質問!

 

Q1 趣味は?
A  読書と釣り

 

Q2 座右の銘は?
A  特にありませんが,強いてあげれば「誠実」

 

Q3 自分の性格をひと言で言うと?
A  本人は「穏健&おっとり」と考えているけれど,第三者(妻)からみると「いらち(せっかち)」とのこと

 

Q4 鋳造以外で就いてみたい職業は?
A  中学校か高校の社会科の教師

 

Q5 夢は?
A ①生型管理技術の基本の確立と伝承
  ②クルージングヨットでの日本一周

 

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