公益社団法人日本鋳造工学会|Japan Foundry Engineering Society

里 達雄さん(62歳)東京工業大学教授

里 達雄さん(62歳)東京工業大学教授

第83巻(2011)第12号

徳之島から10代で単身上京し,
東京に馴染めず患ったホームシック.
「精一杯がんばること」の教えで乗り越え
金属研究の道へ.

<プロフィール>

  • 氏 名: 里 達雄さん(62歳)東京工業大学教授
  • 出身地: 鹿児島県
  • 略 歴: 1979年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程(金属工学専攻)修了,同4月工学部金属工学科助手.1988年英国マンチェスター大学客員研究員,1991年東京工業大学工学部助教授.1999年8月より現職.

Q 里先生は鹿児島県の徳之島のご出身ということですが,どんな少年時代だったのでしょうか.

A 川や海,野原で駆け回って,魚を釣ったり虫を捕まえたり,植物を掘ってきては庭に植えたり・・・と,いつも遊びまわっていました.周囲を海で囲まれていますから波の音がいつも聞こえていて,今でも波の音を聞くと心が落ち着くんです.また,徳之島は独特の方言があって,たとえば「弟の子守をする」というのは「ウットゥーヌークムリシ」というのです.外国語みたいでしょう.だから私にとって日本語の標準語は第一外国語のようなものなんです.当時はテレビもない時代ですから,子供は島の言葉しか知らないのですが,他の地方に行ったら通じないですよね.それで小学校では標準語を使いましょうという標語を掲げていて,授業中に方言を使うと掃除や草取りなどの罰則があったんですよ.でもそうすると,授業中に誰もしゃべらなくなってしまう(笑).それで,「これは方言ですが」と前置きすれば使ってもよし,という風に変わったんですが,その頃,言葉って本当に大切だと思いました.

 

Q 高校を卒業して東京へいらっしゃったのですね.

A そうです.高校を卒業して島を出る人は少なくありませんが,東京まで行くのは珍しかったですね.本州では大阪辺りに行くことが多く,大阪には徳之島の出身者がたくさんいるんです.私も大阪には親戚がいるし,安心だから大阪に行くようにと両親には言われたのですが,反発心というのか,親戚も知り合いもまったくいない土地で一人やってみるのがいいんじゃないかと直感的に思ったんですね.それで,東京へ行くことを選択したんです.それでも東京へ出て来て,1ヵ月くらいしてからひどいホームシックも経験しました.本来雨は好きなほうなのですが,そのときばかりは雨が降るとつらく,とにかく一刻も早く帰りたいと考えて涙が止まらなくなるんです.中学校のときの担任の先生に教わった「精一杯がんばること」というのが支えになり,乗り越えられました.

Q それからずっと東京工業大学にいらっしゃるわけですが,鋳物とのかかわりはいつごろからなのでしょうか.

A  大学4年のとき,卒業研究で入った高橋・神尾研究室は,主にアルミニウム,マグネシウム,銅などの非鉄金属の材料特性を調べる研究室で,柱の一つとして伝統的に鋳物をやっていました.研究室には直接指導にあたる先生が3人いて,それぞれ鋳物,相変態と熱処理,塑性変形や塑性加工を担当していました.私自身は鋳造ではなく金属の相変態と熱処理を研究テーマにしていましたが,同じ研究室で鋳物も扱っていたし,高橋先生の前の森永卓一先生は非鉄鋳物に大変造詣の深い方で,鋳物には縁を感じていました.

 私が実際に鋳物と深くかかわるようになったのは,研究室の神尾先生が関東支部長をされたのがきっかけで支部理事になったころからです.当時の関東支部事務局があった㈱瓢屋は東京の下町にあり,支部理事会を終えた後はいつも近くの店へ飲みに行っていましたので「ああいい会議だなあ」という印象でした(笑).その中で鋳物にかかわる素晴らしい人とたくさん出会い,いろいろな話をして,それがまた次につながっていく……という形でどんどん深く鋳造にかかわるようになっていったんです.

 

Q では,里先生が考える鋳物の魅力とはなんでしょうか.

A まずは,歴史の重みです.先日松江で開催された全国講演大会の折に古代出雲歴史博物館を訪れたのですが,青銅器がずらりと多数展示されていたのです.それを見て改めて,鋳物が人間社会にとって実用的であると同時に人類の文化になっていることを感じました.

溶けて流れる金属が固まって鋳物ができる,というと,いとも簡単な事のように聞こえますが,実は鋳物は非常に奥が深いんですね.「ものづくり」のもつイメージ,要素が鋳物作りの中に詰まっていますから,ものづくりを実感したい人は,ぜひ鋳物をやるのがよいと思います.以前随想(本誌9月号)に書かせていただきましたが,今年,九州の中学生が青銅作りにチャレンジし,文部科学大臣賞と野依科学奨励賞を受賞したということがありました.それも,やっぱり鋳物の魅力が大きかったためだと思うのです.鋳物の「鋳」の字は,金偏に寿,と書きます.めでたくて,素晴らしい文字ですよね.

 

Q では,これから鋳物を究めようとする人にメッセージをお願いします.

A 鋳造は非常に歴史の長い技術ですが,まだまだ経験をベースにしているところがあって,学問に結び付けていくのはこれからという部分が多いのです.特にこれからは「信頼性の高い鋳物を目指す」ことが一層重要になってくると思います.信頼性が高いということはつまり,特性のバラつきが少ないとか,使用している間の変化が少ないということが言えますが,そもそも信頼性とはなんなのか,という辺りからじっくりとチャレンジしてみてほしいと思います.

 

<コラム> 里先生に5つの質問!

 

Q1 ご自身の性格を一言で言うと?
A  「楽天的」「何とかなる」という性格

 

Q2 趣味は?
A  古本屋や地方の本屋めぐりと書店で掛けてくれる本のカバー集め.スケッチ

 

Q3 座右の書は?
A  川端康成の小説.中でもいちばんは『雪国』

 

Q4 今,いちばんしたいことは?
A  集めた本を読むことと,スケッチ旅行

 

Q5 夢,または野望を教えてください
A 専門の話を脚色して一般向けの本を書いてみたい

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