会長より 新年のごあいさつ

年頭のご挨拶
“New Year Greetings”

公益社団法人日本鋳造工学会会長  清水一道
Kazumichi Shimizu

  新年おめでとうございます.旧年中は格別のご愛顧を賜り厚く御礼申し上げます.
  2024年の年頭にあたり,日頃から(公社)日本鋳造工学会の活動にご理解とご協力をいただいております皆様に御礼を申し上げます.
  2020年から猛威をふるった新型コロナウイルスは,2023年5月に「5類感染症」に移行しました.5類移行により人流が活発化して個人消費とインバウンド需要が回復しており,コロナ禍前の「日常」を取り戻しつつあります.これからは「withコロナ」で経済を回していくことが重要であることが証明されてきています.しかし世界的な財需要の低迷は続いており,製造業部門は未だに好転の兆しがみえません.原材料価格やガソリンなどエネルギーコストの高止まり,円安の影響が企業活動を行う上での重荷となっています.加えて,中国ほか海外経済の停滞や長引く猛暑なども下押しの要因となっています.本年,2024年には,世界的な製造業の調整局面は一巡することが予想されます.これまでの在庫調整の終了により製造業の生産低迷にも歯止めがかかり,企業は設備投資意欲を持ち直し,景気が上向いていくと期待しています.
  2023年の鋳物生産量は,統計がでている9月までで,鉄系鋳物が約260万トン,非鉄系鋳物が約100万トンとなっており,2022年の同月までの統計と比較して,鉄系鋳物,非鉄系鋳物ともに前年同等でありました.日本の製造業の成長とともに発展を続けてきた鋳物産業ですが,大きく変化する時代に突入しています.鋳物製造業全体が自動車生産台数に大きく左右され,とくに電気自動車(EV)化の進行により,内燃エンジン向け部品が減る一方,電池やモーター類のケースを含めアルミ鋳造部品のニーズが高まっています.一方,電気産業,一般機械など自動車向け以外の銑鉄鋳物の生産額は全体の35%まで伸びてはいるものの,工作機械で全体の約3%,産業機械,半導体製造装置などを含めても全体の15%以下だと分析されています.こうした銑鉄鋳物を扱う事業者は多品種小ロット品が主力で,小規模生産の場合がほとんどであり,銑鉄鋳物事業者は従業員30人以下の企業が75%を占めます.人手不足や後継者問題は廃業の主な理由となっていることから,次世代の育成は喫緊の課題です.

  日本鋳造工学会は2022年に創立90周年を迎え,2023年3月11日に「学会創立90周年記念式典」を早稲田大学西早稲田キャンパスで開催しました.東洋大学経営学部の山本聡教授による記念特別講演「中小企業の現状と方向性」のほか,「EV化とカーボンニュートラルを考慮したこれからの鋳造産業と人材育成の方向性」と題したパネルディスカッションを,会場とオンライン会議システムを用いたハイブリッド式で行い,約200名が参加されました.また5月には第181回全国講演大会を開催し,大阪府の近畿大学を主会場にしたハイブリッドでの開催にも関わらず,技術講習会等を含め700名以上の参加となりました.10月に開催した第182回全国講演大会は,福島県のビックパレットふくしまを会場にハイブリッド方式での開催で,こちらも技術講習会を合わせ,700名以上の参加があり,盛況のうちに終わりました.さらに12月には,日本で4回目の開催となった第16回アジア鋳物会議を北海道の室蘭工業大学で開催しました.アジア各国から約200名の参加,WFOからクールガッツ会長も参加いただき,成功裏に終わりました.ご協力いただきました大会組織委員会の皆さまはじめ関係者各位にお礼申し上げます.
  さて今年は,5月に第183回全国大会を東京都の早稲田大学にてハイブリッドにて開催する予定です.多くの皆さんが対面にてお集まりいただき,参加者同士の距離を縮めコミュニケーションをとっていただければ幸いです.

  ここ数年は,新型コロナウイルス禍でも事業を継続する「withコロナ」,そしてコロナ禍があっても最適な事業モデルに作り変えていく「Afterコロナ」へ「新しい風」をふかせ,その風に乗って「次のステージ」である未来へ向かって羽ばたくことが重要であるとお伝えしてきました.その大きなポイントとしては,人材確保と人材育成です.先にも述べましたとおり,小規模企業である鋳物事業者は,人手不足や後継者問題が廃業につながる理由になっているからです.
  第3期長期ビジョンのロードマップ策定では,本学会を今後永続させるために,産学官連携し,5年,10年先を見据えた取組を進めようとしています.2030年までに国際社会の共通目標であるSDGsを達成するため基礎研究の推進や,鋳造に関する技術伝承の推進と若手人材の育成,情報発信による学会の知名度向上を今後の戦略課題として位置づけました.
  人材育成事業においては,鋳造の基礎技術をまとめた『基礎から学ぶ鋳造工学』をオンデマンド化し,いつでもどこでもモノづくりに必要な知識を閲覧・学びができるようにし,若手・中堅研究者へ向けて支援を実施していきます.また,若手人材の育成がままならない,鋳物の素晴らしさが知られていない,このままでは技術・技能の繋がりが切れてしまうなど,支部から挙げられた課題を取り込み,これらに応える動画コンテンツの開設を進めていきます.
  啓蒙活動としては,これまで「理系応援プロジェクト」や「ものづくり教室」を多く開催してきました.将来の鋳造業を担う若い人材を得るためには,小学生・中学生に「ものづくり」に親しんでもらい,将来の選択肢の1つとして鋳造によるものづくりを肌で感じてもらうことが重要です. 
  情報発信による学会の知名度向上の取り組みとしては,学会講師陣による大学・高専・高校向けの特別講義(出前授業)を実施し,多くの教育現場において無くなりつつある鋳造実習などに代わり,若者に鋳物を知る機会を与え,ものづくりの熱い思いを伝える取り組みを実施します.大学ネットワークも活用しながら,全国規模でネットワークを構築し,オールジャパンで取り組んでいくことが,「Afterコロナ」へ「新しい風」をふかせ,「その風にのり」,次のステージである未来へ向かっていくために大切なことと考えます.その実績として,昨年度は,私自身,北海道全域をはじめ,本州方面にも出かけて行き,10校ほど出前講義を行いました.テーマは【ものづくりはひとづくり】と考え,鋳造技術から歴史を振り返り,SDGsへ繋げます.組織を束ねて【オールジャパンで取り組む】ことの重要性を小学生,中学生,特に高校生に語ることを意識し,学会としてこれからも継続していくことを望んでいます.

  利便性の高い次世代のサービスを会員に届けることで,日本経済の持続的な成長と社会課題解決に対して最大限の貢献を果たしていくことを目標としてこれからも取り組んでまいります.今後とも学会への皆様のご協力をお願いいたします.

図 出前講義にて

   室蘭工業大学,島根大学 教授
 (公社)日本鋳造工学会 会長
Muroran Institute of Technology ,Shimane University