時効硬化曲線の亜時効段階に,硬さ変化がおこらない停滞域が現れる理由は何ですか?

時効硬化は,時効析出相と転位との相互作用により転位の運動が阻害されておこる硬化現象です.時効硬化は一般に,亜時効,ピーク時効,過時効の段階に分け ることができ,亜時効では転位が析出相をせん断して通過し,過時効では析出相周りにループ(オローワンループ)を残して通過します.

このときに転位が受け る抵抗が硬化として現れるものであり,硬化挙動は析出相の形成挙動を直接反映します.Al-Cu系合金を例にとると,析出過程は,α→GP(1)ゾーン →GP(2)ゾーン(θ”)→θ’ →θ となります.ここで,θ相は安定相であり,GP(1)ゾーン,GP(2)ゾーン,θ’相は準安定相です.

Al-Cu系合金の場合,GP(1)ゾーンがまず 形成され,続いてGP(2)ゾーンが形成される間に停滞域が現れます.GP(1)ゾーンは形成されてすぐにGP(2)ゾーンに遷移するのではな く,GP(1)ゾーンとして一定の準安定状態(準安定溶解度線,一定体積率)を保ち得るからです.

別の言い方をすれば,GP(2)ゾーンに遷移するために はある障壁エネルギー(活性化エネルギー)を越える必要があり,このための潜伏期が停滞域でもある訳です.この関係は時効温度や合金組成によって変わり, たとえばソルバス温度(溶解度線温度)以上では時効初期からGP(2)ゾーンあるいはθ’相が形成されるため停滞域は見られなくなります.

他の合金系でも 複数の準安定相や構造変化がある場合に,同様に理解できます.