アルミダイカストの溶湯保持温度を極力低くしたいのですが,何度ぐらいまで低くすることができますか

 ダイカストの溶湯温度は通常660℃~680℃の範囲で設定されています.溶湯温度を低くすると第1にスリーブ中で凝固が進み,湯回り不良や湯境などの充填不良が発生します.また第2に保持炉の中でスラッジが生成し,ハードスポットによる加工トラブルを起こすことがあります.

第1のスリーブ中での凝固は,充填量が少なく,注湯時のスリーブ充填率が20%を切るような場合は,溶湯温度の影響が大きく溶湯温度を下げることは難しいです.

比較的充填量があり,スリーブ充填率が30%以上ある場合は,第2のスラッジの生成を考慮する必要があります.

 ADC12の場合は,スラッジの生成は主に溶湯中のFe,Mnの混入量に影響されます.ADC12のスラッジ発生限界温度Tが調べられており,次式が示されています.

 %Fe+(3.34-((T-630)/714)%Mn=2.39+(T-630)/152

(%Feは,Feの含有量,%Mnは,Mnの含有量)

この式から求められる温度が溶湯温度を低くできる限界温度になります.つまりFeおよびMnの含有量を低く抑えることでスラッジの発生を防ぐことができます.Fe,Mnを管理することが前提ですが,国内で入手できるAD12.1地金の成分管理範囲で溶湯温度を下げるとした場合,現実的に低減可能な温度は640℃程度と考えます.なおCrは通常はインゴットに含有されない元素ですが,スラッジ生成への影響がさらに大きいので材料納入メーカに管理を要求する必要があります.

参考文献;納,豊田,津村,鈴木,古屋,永山:軽金属VOL36(1986)813

(『鋳造工学』87巻10号掲載)