アルミニウム合金を鋳造する際に,フラックス添加やアルゴンガスによる溶湯処理がよく行われていますが,どのような原理で介在物等が除去されているのでしょうか.

 合金地金や返り材などの原料を溶解するとアルミニウム合金溶湯が得られ鋳物にすることができます.ただしこのまま流し込むと,アルミニウム合金成分だけではなく,地金や返り材の表面や内部にあった酸化皮膜やその他の異物も一緒に溶湯中に漂った状態で存在しているので,製品品質に悪影響を及ぼす介在物欠陥となってしまいます.また溶湯の中には,大気中の水分が溶湯と反応して入り込む水素や,溶解に使用した燃料の燃焼により発生した水分から入り込む水素が溶け込んでいますので,何もしないと鋳物が凝固するときにこの水素が気泡を形成してガス欠陥となります.品質の良い鋳物を製造するには,このような欠陥の発生を徹底的に防ぐ必要があり,ご質問のような溶湯処理が行われます.

鋳造する前に溶湯中にアルゴンガスや純度の高い窒素ガス等を微細分散させて吹き込むと,小さな泡の表面に介在物などの異物が吸着され溶湯表面に浮上分離します.また,この泡は水素を溶け込ませて大気中に放出してくれます.一方フラックスは,単独でも溶湯と介在物の間に入り分離を促進してくれますが,溶湯中を浮上するガス気泡がある場合にはその表面を活性化させて介在物をあつめ,介在物の分離・除去を促進してくれます.このようにフラックス処理,ガス吹込み処理のそれぞれ単独でも効果はありますが,両方を同時に行う作業が非常に有効です.

(『鋳造工学』92巻5号掲載)