鋳鉄を勉強すると出てくる鉄-炭素二元平衡状態図は、どんな時にどのように役立つのか?

状態図と熱力学のエリンガム図及び元素周期律表は、鋳造における3種の神器とも言われているものである.状態図はある化学組成と温度でどのような状態(相または組織)になるかを教えてくれる.

Fe-C状態図(下図)は,他の合金の状態図では見られない特殊な現象がある.それは、点線と実線の2つの状態図が一緒に書き込まれている点である.実線(準安定系)からは凝固時にチルが,点線(安定系)からは黒鉛が出る(晶出)からである.なお、準安定系を実線にした理由は,鋼の状態図が先に作られ,遅れて横軸を炭素当量(CE)とした鋳鉄の状態図が出来たからであろう.

さて、本題に入ろう.Fe-Cの状態図は以下のようなことを判定する場合に役立つ.

  • 鋳物が固まる温度が分かる.例えば, FC300(下図↓)は,約1250℃程度で固まり始め, 1153℃付近ですべて固まる.

② 鋳物の基地組織が予測できる.例えば、730℃以上ではオーステナイト(γ)に、それ以下ではフェライト(α)とセメンタイト(Ce)になる.

③ てこの原理を用いて,高温の液相(液体)から凝固までの固相と液相の割合(この場合γ量と液相),共晶凝固温度(1153℃と1147℃)から共析変態温度(A1:738℃と727℃)直前までは固相(γとGあるいはCe)の割合とγ中の炭素濃度が分る.A1域過時にγが分解・消失しフェライト(α)とGあるいはCeになり室温に至る.各相(組織)の割合や組成(C%)を読み取ることができる.

④熱処理を行う温度の予測ができる.

⑤ 実線の共晶凝固温度と過冷反転温度から、溶湯のチル化傾向を判断することができる.

他にも、状態図には多くの情報が隠れており,有効に活用すれば、健全な鋳物づくりに役立つ.

QA_Fig1

(『鋳造工学』89巻1号掲載)