FCでもFCDでも構いませんが,振動減衰性は組織(フェライト,パーライ ト)の影響を受けるのでしょうか.影響があれば,その理由も教えて下さい
FC,FCDの振動減衰性(振動エネルギーを吸収する能力のことで減衰能ともいう)は組織(黒鉛,基地)の影響を受けることが一般的に知られている1).基地組織では鋳放しFC材のパーライトが焼きなましフェライト化することで減衰性は増加する2).その理由はセメンタイトの分解によって生じた黒鉛の増加,基地のフェライト化による磁気-機械損失の効果などに挙げられている.
鋳鉄の振動減衰性は制振合金の減衰機構分類3,4)の中,複合型とマグネトメカニカルダンピングによるものと推定されている.複合型に属する鋳鉄材の減衰性は,黒鉛自体が応力分担2)による振動エネルギーを吸収し減衰する機構と,母相(基地)と第2相(黒鉛)の界面における粘性・塑性流動4,5)による内部摩擦と応力緩和がある.マグネトメカニカルダウンピングでは,フェライトの磁壁移動に対する拘束により磁気-機械的損失が変化し振動減衰性が変わる6,7).
鋳鉄のパーライト基地の減衰性に関する研究はあまり見当たらず,参考に炭素鋼のフェライト,パーライトの減衰性に関する松井らの研究報告6)を紹介する.炭素鋼の減衰性はフェライトの磁気-機械的損失により影響を受ける.炭素鋼の初析フェライトの量,パーライトの量及びフェライト中の分布状態と密接な関係がある.特にセメンタイトの分散状態がフェライト中の磁壁移動に対する拘束度合により,磁気-機械的損失が変化し減衰性が変わる.FC,FCD基地組織の減衰性への影響を考えると,フェライト地では一定の減衰能を示すがパーライトでは,その減衰性はかなり小さくなるものと思われる.その理由は鋳鉄のパーライト中のフェライト近傍により多くのセメンタイトが存在しているため,磁壁移動の抵抗をより大きく受け,磁気-機械的損失が非常に小さくなると考えられる.
(『鋳造工学』97巻5号掲載)
参考文献
1) 例えば,新版,鋳鉄の材質:(公社)日本鋳造工学会編(2012)82
2) 松井啓,松野亮,木津文生,高橋睦,菅野秀雄:金属学会誌40(1976)1065
3) 西山勝広: 金属70(2000)6,459
4) 塩田一路:精密工学55(1989)2127
5) 岡本平,香川明男,亀井清,松本弘司:鋳物55(1983)107
6) 松井啓,松野亮,木津文生,高橋睦,菅野秀雄,畠山一美:金属学会誌39(1975)1023
7) 小林龍彦,大嶽隆之,大森俊道:素形材36(1995)6