JISには,なぜアルミ鋳物合金と, ダイカスト専用のダイカスト合金があるのですか?

アルミニウム合金の”一般的な鋳物”と”一般的なダイカスト”の製造法との間には,いくつかの大きな違いがあります.最も大きな違いは,鋳型への溶 湯(溶けた金属)の流し込み方です.鋳物では重力による流動を利用して,静かに流し込むのに対し,ダイカストでは,ダイカストマシンによる力で,高速高圧 で溶湯を流し込みます.

したがって,同じ金属製の鋳型(金型)を用いる場合でも,鋳物の場合は金型との反応によるトラブル(焼付きなど)はあまり心配する 必要はありませんが,ダイカストの場合には,金型だけではなく,溶湯側にも金型との反応を抑えるてだてを考えておく必要があります.このためダイカストに おいては,金型への溶湯の焼き付きを抑えるためにFe(鉄)が0.6~1.0%前後,有効成分として添加されています.一方の鋳物の場合には,Feをこの ように多く含むと,Feを含む大きな金属間化合物が発生し,機械的性質での”伸び値”(ねばり強さ)が

大幅に低下して,十分な特性を発揮できなくなります.したがって,Feは不純物として存在するため,0.5%前後以下に制限します.ダイカストでも Feを多く含むと同様の傾向が出てきますが,ダイカストの場合には金型による冷却速度が著しく速く,有害な金属間化合物は発生しにくいので,材料特性の低 下傾向は小さくてすみます.

このように鋳物とダイカストでは,主にFeの取扱を中心とした成分的な違いが大きいため,JISを含めた多くの規格で,鋳物用合金とダイカスト用合 金とを分けて規定しています.近年ではダイカストでの様々な技術の発展があり,溶湯の鋳型への充填を鋳物に近い低速とすることで,鋳物合金をそのままダイ カストに用いる例も見られます.