ダイカストの焼付きはなぜ発生するのですか?

アルミニウム合金ダイカストでは,アルミニウム合金が金型に付着して,金型表面上に残る現象を焼付きと呼んでいます.

しかしダイカストには二種類の焼付きが存在します.一つは金型に付着したアルミニウム合金を苛性ソーダなどで溶解除去したとき金型面にアルミと反応した痕が残る場合です.もう一つはきれいにアルミニウム合金がなくなり,平滑な元の金型表面状態に戻る場合です.この二種類の焼付きは,その生成原因が異なるので対策する上で注意が必要です.

前者の焼付きは,金型とアルミの合金反応が原因です.ダイカスト時のアルミニウム合金と金型の界面温度が高温となり金型面にAl-Si-Feの金属 間化合物層を形成しアルミが金型に付着する現象です.反応が起きる温度は,金型の材質や,アルミニウム合金の成分,離型剤の種類とその付着状況,表面処理 などによって異なります.ADC12合金で,離型剤がない条件下でのSKD61との反応温度Tは,次の式によって求めることができます.

T=847-13.5ln(t)  ;ここで,tは保持時間である.

後者の焼付きは,金型とアルミニウム合金との反応を伴わないものです.アルミニウム合金の強度よりアルミニウム合金と金型間の摩擦力が上まわったときに起きます.式に表すと

σ(アルミニウム合金の強度)<F(摩擦力)=μN

;ここでμは静止摩擦係数,Nは押付力

生産現場で摩擦力が大きくなるのは,離型剤の付着が一番大きく影響します.離型剤が適切に付着すると,摩擦係数は0.2程度と低く,アルミニウム合 金の強度より摩擦力が大きくなることはありません.しかし離型剤の付着が無い場合は,摩擦係数は1.0以上になります.アルミニウム合金は金型の中で凝固 し収縮します.円筒形状のような鋳物では,アルミが収縮して押付ける力が内側の金型に作用します.この押し付け力によりアルミニウム合金と金型面に摩擦力 が働きます.離型剤の付着が少ない場合,摩擦力はアルミニウム合金の強度より大きくなる場合には,アルミニウム合金が破壊して金型面上に残ります.

生産現場では,前者の焼付きに注目しがちです.しかし後者の焼付きが起きている場合,対策が裏目にでる場合があります.金型温度が冷えすぎて,離型 剤皮膜が形成できずに摩擦力が大きくなっている場合に,離型剤をさらに増やして金型を冷却しても焼付きはなくなりません.この種の焼付きでは金型温度を離 型剤が良く付着する140℃~240℃の範囲にする対策が有効です.