鉛鋳造して硬化室で硬化後,製品を使用時に触ってみると外気温が高い場合(夏場)では柔らかく,外気温が低い場合(冬場)では硬くなる傾向があります.何が一番の原因なのでしょうか.また外気温に影響せず安定した製品を鋳造するには,どこをコントロールするべきでしょうか?
鉛鋳物を硬化室入れても硬化しにくい大きな原因は硬化前の鋳物温度にあります.硬化前の鋳物保持(保管)温度が高いほど,硬化処理後の硬さは低くなります.
時効硬化を目的とした熱処理では,鋳造後の鋳物を溶質元素が固溶する適当な温度(Pb-Sb合金では約250℃)で一定時間温度保持した後に水中急冷してから硬化室にて時効硬化させると効果的です.しかし,溶体化処理後の保持温度(放置温度)が高いと,その保持中に時効析出が進行してしまい,硬化室で時効を進めると過時効となり,軟化してしまいます.溶体化処理はせずに水冷金型に鋳造してから硬化室に入れる場合でも,硬化前の放置温度が高すぎると過時効になり軟化します.
外気温が高い夏場は,硬化室に入れる前の鋳物温度が高いので,過時効になりやすいと考えられます.安定して硬さを出すためには,過時効を防ぐ対策が必要で,3つの手段が考えられます.(1)鋳造時(溶体化を行う場合は溶体化後の急冷時)の冷却速度を速くすること.(2)硬化室に入れる前の鋳物温度を低くしておくこと.(3)硬化後の鋳物を低い温度で保管すること.以上より,夏場には鋳物の保冷室があれば理想的ですが,生産コストが大きくなるのが問題です.その他,夏場には鋳型(溶体化を行う場合は急冷用)の冷却水の温度も高くなりやすいので,注意が必要です.水冷水の温度は30℃を超えないのが理想的とされています.型ばらし後はできるだけ涼しい場所に保管できれば良いのですが,少なくても溶解現場近くや直射日光のあたる場所は避けた方が良いでしょう.