鋳鉄溶解炉としてキュポラが誘導炉に変わってきていますが,その理由は?
キュポラが誘導炉に変わってきた理由は企業の操業環境によって違うと思いますが,その代表的なものを紹介したいと思います.
一つ目は,キュポラはコークスを燃焼させ連続的に溶解,溶湯を作る設備であることです.連続操業の場合には適していますが,生産量の減少に伴い稼働調整(間欠操業)をしようとしても,溶湯は連続的に生成されるため,一時的に溶湯を保持する設備(電気炉)が必要になります.いわゆる<生産変動に応じた操業がしづらい溶解設備>という点です.
二つ目は,原材料である銑鉄,鋳物用コークスは大半が輸入に依存しており,市場の変動の影響を受けやすく,供給ネックや価格不安定さを抱えるなど<工場経営リスクが高い>という点です.
最後に,廃棄物(脱硫スラグ)処理という課題です.球状黒鉛鋳鉄を生産する場合には,コークスから混入する代表的な不純物である硫黄を取り除く処理(石灰石などの造滓材を添加)が必要で,この生成する脱硫スラグが廃棄物となり<地球環境課題対応(廃棄物低減)が必要>になるという点です.
このようにキュポラを用いた溶解は,操業条件に多くの制約があるため,電気誘導炉への移行が進んでいるようです.
更に,2015年7月,我が国は2030年までに温室効果ガス(CO2)を26%削減(2013年比)することを国連に宣言,この目標達成のために製造業は温室効果ガスを40%削減する必要があるとも言われています.このような企業を取り巻く環境変化を受けて,コークスに比べCO2排出量が少ない電気誘導炉への転換が加速するのではないでしょうか.
(『鋳造工学』88巻10号)