チクソキャストのメリットとデメリットは?
チクソキャストは固液共存温度範囲の広い合金を使って,固相率を温度により制御したスラリーを鋳造する半凝固鋳造法です.あらかじめミクロ組織をチクソトロピーが強い状態にしておくと,静かな状態では固態ですがせん断力がかかると大きな流動性が現れます.チクソトロピーというのはせん断速度が上がると流動性がどんどん現れるという性質です.この流動性を利用して半凝固でも鋳型への充塡が可能な鋳造法です.工業的にこのチクソキャストを行う場合,チクソトロピー性が高くなるビレットを予め作製しておき,このビレットを一度半溶融状態まで温度を上昇させた後,このスラリーを鋳造機で金型に射出成形します.
チクソキャストには急速加熱かつ正確な温度管理をする設備と圧力鋳造の設備が必要です.また,合金を選ぶというのもデメリットです.固相率が高すぎると圧入できないし,低すぎるとメリットはありません.合金を選ぶというのはこの固相率の管理が温度で簡単に行えないと品質の安定が難しいということです.また,構内での材料リサイクルが難しい点もデメリットになります.一度凝固してしまうとチクソトロピーの強い状態ではなくなります。
品質的なメリットは鋳造用の鋳型で鍛造に近い品質が得られるということです.すでに固相がある分だけ凝固収縮は少なく巣の発生が少ないのです.さらにスラリーは液相よりも粘性が高いため乱流になりにくく,射出成型時に空気の巻込み欠陥が減少します.同時にプロセス温度の低さはそのまま寸法精度の高さに結びつきますし,それはそのままサイクルタイムの短縮につながります。従来のような溶解設備をなくすことも可能ですし、熱衝撃の低下により金型寿命も延びるというメリットの多い鋳造法です.
(『鋳造工学』88巻12号)