アルミニウム合金シリンダブロックでは,FCライナーを使うのが通常の設計ですが,アルミニウム合金だけで造れないでしょうか.

シリンダブロックでは,シリンダの中をピストンが動くため,その表面(ボア表面)には耐摩耗性が必要となります.そのために,アルミニウム合金シリンダブロックでは耐摩耗性の高い鋳鉄のライナー(FCライナー)を用いるのが一般的です.

しかし,軽量化と冷却能の向上のため,ライナーを用いないブロックが開発されてきました.アルミニウム合金を使ったものでは,ADC14合金のような過共晶Al-Si合金を用いるものがあります.硬い初晶Siの晶出により耐摩耗性を持たせたものです.

この合金は,初晶Siの大きさと分布のコントロールが難しいこと,機械加工性が悪くコストアップとなることなどがあり,現在では使われていません.また,過共晶Al-Si合金ライナーを用いたり,Ni系のめっきをしたりする方法もありますが,いろいろな課題があり適用例は多くありません.

最近では,従来のアルミニウム合金シリンダブロックのボア表面にライナーの代わりに鉄系の材料を溶射する技術が適用されてきています.溶射層の厚さは,0.2mm程度であり,ほとんどオールアルミニウム合金製といってもいいくらいの機能になっています.

(『鋳造工学』88巻6号)