アルミニウム合金ダイカストで可能な最小肉厚は?
アルミニウム合金ダイカストは,重力金型鋳造や低圧鋳造のような他の鋳造法に比べて薄肉化が可能なことが特徴です.G.Liebyは,ダイカストの大きさ及び合金種によって表1に示すような最小肉厚を提案しています.
表1 ダイカストの最小肉厚
しかし,最近では薄肉化への要求は高く,アルミニウム合金ダイカストではノートパソコン程度の大きさでも1mm以下の肉厚が求められています.薄い 製品をダイカストするためには,ある時間内に金型キャビティを充填完了する必要があり,この時間を充填時間といいます.F.C.Bennettや J.F.Wallaceなどにより様々な式が提案されています.最も簡便な式は,G.Ulmerによって提案された式(1)があります.元々の式 は,Fourierの熱伝導方程式と解いて厳密に計算したものですが,最終的には式(1)に簡略化されています.
t =0.033x2
ここで,tは充填時間(s),xは肉厚(mm)を示す.
仮に肉厚0.5mmを充填するためには,式(1)から8ms(0.008s)以内に充填を完了させる必要があることがわかります.理屈の上では,式 (1)の充填時間以内に充填が完了できる高速射出ができるダイカストマシンを用いれば,いくらでも薄肉化は可能ですが,現在のダイカストマシンの能力では 射出速度が8~10m/sが限界であり,薄肉化はダイカストマシンの能力に大きく依存します.もちろん,鋳造温度や金型温度などにも影響を受けます.現在 の薄肉化の実績では200×200mm程度の製品で0.45mm, 600×600mm程度で2.0mm程度が限界のようです.
また,ダイカストの機械的性質は,製品肉厚が薄くなるほど高くなる傾向にあります.これは,肉厚が薄いと冷却速度が大きくなりミクロ組織が微細に なることと,内部にひけ欠陥が発生しにくくなるためです.しかし,逆にある程度薄くなると湯流れ性が悪くなるため,湯じわや湯境などの湯流れ欠陥や割れ欠 陥が発生して強度が低下するので注意が必要です.また,肉厚が薄くなると製品全体の剛性は低くなるので,剛性が必要な製品の薄肉化にはリブ構造をうまく利 用する必要があります.薄肉化にあたってはこれらのことを配慮した上で取り組む必要があります.