ダイカストの破断チル層は重大な欠陥となりますが,合金系によりできやすかったりできにくかったりするようです.どうしてなのですか?

 破断チル層は,射出スリーブ壁で冷やされた溶湯が凝固し,晶出した凝固層が射出により金型内に巻き込まれ製品内に入ったものです.射出スリーブ壁に沿った凝固層であるため,製品内で直線状または曲線状の界面を有す組織になります.

ダイカストで使用されるADC12合金は,けい素量が9.6~12.0%とほぼAl-Si2元系合金の共晶点である12.6%に近く,凝固形態が表皮形成型になります.この場合,射出スリーブ内で凝固前線の界面がほぼ完全凝固して進行するため,強固な凝固層が出来,射出によって塊状の破断チル層になります.

けい素量7.5~9.5%のADC10合金やさらにけい素量を低くした合金では凝固温度範囲が広がり,デンドライトが成長した組織になります.一般的にこのような凝固形態をかゆ状凝固と言います.この場合,射出スリーブ内で冷やされた溶湯は射出スリーブ中心に向かって固相率が小さくなるように凝固し,凝固前線界面は液相も含んだ凝固領域の少ない状態になります.この状態で射出した場合,比較的容易にばらばらになるため,線状や曲線状の界面を有さない組織が多数を占めることになります.それゆえ,製品内での破断チル層が少なくなります.

(『鋳造工学』90巻2号掲載)