鋳造シミュレーションの精度はどの程度でしょうか? 特に生産前はなかなかシミュレーションで予測することが難しいのですが,世の中のレベルはどの程度なのですか?

鋳造シミュレーションでは,予測すべき現象が,湯流れ,伝熱,凝固にまたがり,欠陥予測に関しても湯流れ,伝熱・凝固,溶湯成分,不純物,介在物などに起因するもの,またその位置や大きさなど様々あり,一概に精度を論ずるのは困難です.

少し古いデータですが,鋳造CAE研究部会報告書「研報105 鋳造CAEの活用と品質向上に関する研究」のアンケート結果によれば,2006年頃の鋳造CAEに対する不満は,1位「予測精度」29%,2位「欠陥判定基準値」26%です.その前の2001年と比較してその割合は変化がありませんでした.10年ほど経過した2018年現在でも,この割合はほとんど変わっていないでしょう.しかし,鋳造CAEが進化していないのではありません.コンピュータ能力の向上に伴い,欠陥予測手法の追加や改善,自由表面移動解析の精度向上,背圧や表面張力の考慮など,性能&精度は数値計算的には飛躍的に向上しました.一方で,鋳物の薄肉化に伴い最小肉厚が数mmと薄くなり,またCTスキャンで内部欠陥を定量的に直接観察できるようになるなど,CAEソフトに対する要求も厳しくなっています.

 では,生産準備段階でのシミュレーションはどうでしょうか.こちらも正確なデータは見つかりませんが,生産準備段階ではユーザによって使用方法が大きく異なります.鋳物姿勢(天地)の確認,湯口位置の決定といった,限定した分野に使用しているユーザは,それなりに活用できているようです.一方で,最終性状(ひけ巣,巻き込み,変形など)の位置や大きさの予測などを検討しているユーザは,従来知見(材料データや方案データなど)が準用できるところはまだしも,少し離れると難しいようです.現時点では使い方次第といったところではないかと考えます.

(『鋳造工学』90巻2号掲載)