チクソキャスティングについて,技術動向や今後の可能性について教えてください.

 チクソキャスティングは,固液共存状態で鋳造するセミソリッド鋳造法の一種で,半溶融鋳造法とも呼ばれています.1970年代にアメリカのMITのM. C. Flemings教授らにより提案された工法で,1980年代後半に実用化されました.凝固組織の均一化とひけ欠陥の防止により,安定した高品質の鋳物が得られるのでアルミニウム合金の鍛造品に匹敵すると謳われ,自動車のホィールやボディ部品などに適用されました.
 しかし,初晶を粒状化させたビレットを作製し,それを再加熱することにより固液共存状態として鋳造するため,コスト高であり,セミソリッド鋳造法としては,液相から粒状化した初晶を晶出させて鋳造するレオキャスティングの適用が増加し,チクソキャスティングは適用されなくなっていきました.セミソリッド鋳造法では,ある程度広い凝固温度範囲が必要なため,合金系が限られ,鋳造欠陥が少なくなるとは言え,鍛造品に匹敵するだけの機械的性質を得ることが難しく,また,他の鋳造法の進歩もあり,ほとんど適用されなくなりました.
 チクソキャスティングも技術開発が進んで,コスト低減も図られてきています.不純物元素が少し多いリサイクル材料を用いても,優れた機械的特性が得られるといった特性も見出されてきており,カーボンニュートラルを実現する方策の一つとして期待できます.今後の技術開発に注目です.

(『鋳造工学』95巻10号掲載)