材質FCD450における肉厚15mm~20mmの板状製品において,押し湯ネック部にスパイキング現象と思われる板状破面(ロックキャンディー破面)が発生し, 堰折時に製品側へ食い込みミクイ不良となっています. 原因と対策について教えてください.

質問:材質FCD450における肉厚15mm~20mmの板状製品において,押し湯ネック部にスパイキング現象と思われる板状破面(ロックキャンディー破面)が発生し,  堰折時に製品側へ食い込みミクイ不良となっています.  原因と対策について教えてください.

図1 板状(ロックキャンディ)破面と組織写真 材質FCD500

図1 板状(ロックキャンディ)破面と組織写真 材質FCD500

回答:『鋳造欠陥とその対策(第二版)』(2009年発行)では, P180に球状黒鉛鋳鉄に於けるロックキャンディ破面の例,P182にはスパイキー破面として今回の例と類似した整列黒鉛のフェライト部からの延性破面の例が記されています.  P180のロックキャンディ破面の例では, 原因としてBiが多い事やNi含有量が多い事などが述べられています. Biは溶湯から初晶黒鉛が晶出した場合に整列黒鉛が発生するものと考えられ,溶湯から初晶黒鉛が晶出する例としては, 他に過共晶鋳鉄の例が考えられます.
 図2に過共晶成分(C3.78,Si2.65,CE=4.63,CE=4.63,CEL=4.39)で縦鋳込みした25mmYブロックの縦断面の組織写真を示します. 上型付近に目立ったカーボンフローテーションは見られませんが, 組織中に粗大な黒鉛が,整列しているのが分かります.この整列黒鉛はデンドライトに押しやられたというよりは,デンドライトにカーボンフローテーションで黒鉛が引っ掛かって整列したと考えられます. 
 図3に過共晶成分で25mmYブロックを鋳造し,引張試験に供した時に見られたロックキャンディ破面とその組織を示します.破面の部分には質問者と同様の整列した粗大な黒鉛が見られます.また,縦断面の断面組織写真にも粗大黒鉛が網目状に並んでいるのが分かります.SEM写真からは,ロックキャンディ破面部は延性破面を示していて脆性破面部に比べて異常に球状黒鉛が多いことが分かります. 以上より, 質問者のケースは, ロックキャンディ破面の主たる原因は過共晶成分であり,デンドライトに浮上してきた黒鉛が引っ掛かり,整列黒鉛が生じることが主原因と考えられます.三宅ら(鋳造工学誌,第81巻,2009,第10号,P482)は,過共晶成分においても,デンドライトの晶出が起る事を着色腐食法で示しています.
 過共晶成分となる原因としては, 共晶成分の値が明確でない事が要因のひとつとして考えられます. すなわち球状黒鉛鋳鉄ではCE=4.5程度の少し過共晶成分が良いといった曖昧な表現や, 昔からCE=C+0.33Siが使われ, CE=4.3が共晶成分とされている問題などがあります. 菅野ら(鋳造工学誌第91巻2019第2号P87)によれば, 液相線の炭素当量を示すCELはCEL=C%+0.23Si%であり,黒鉛共晶の共晶成分は, 平衡状態図的にはCEL=4.28であることを示しています. また,NiやSiが高くなるとCELが高くなり, 過共晶になりやすく,ロックキャンディ破面が出やすくなります. これらのことを踏まえて,菅野らの論文を参考に, 過共晶にならないようにすれば, ロックキャンディ破面の問題は解決できると考えられます.

図2 過共晶成分における整列黒鉛の例

図3 過共晶成分の引張試験片に見られたロックキャンディ(スパイキー)破面とその組織