亜共晶組成の方がチル化しやすいのですか?

 まず,鋳鉄の溶湯は,塩水(水と塩)や砂糖水(水と砂糖)と同じような溶液である.鋳鉄の場合は高温の鉄(液体)と含有成分(C,Si,Mnなど)になる.ここでは炭素が液体の鉄の中に溶け込んでいる1500℃の溶液が凝固するまでの過程で話そう.

凝固温度は,鉄-黒鉛共晶凝固(Fe-G)で1,152℃,鉄-セメンタイト共晶凝固(Fe-Fe3C)で1,145℃である(Fe-C系状態図,M.Hansen and K.Anderks).鋳型に鋳込まれた溶湯の温度は低下し続け,ある温度(初晶温度)から溶湯中に固体(初晶)が出始め,増加していく,同時進行で液体は減少し続け,共晶凝固温度域に達して全てが固体となるが,チル無しの鋳物になるかどうかは分らない.チル無しにするには,Fe-G共晶凝固温度で残湯が共晶組成(CE=4.3%)になり,かつFe-Fe3C共晶凝固温度に達する前に凝固が完了しなければならない.もしもFe-Fe3C共晶凝固温度以下で凝固する残湯があれば,そこにはチル(レデブライト)が発生する.

さて,亜共晶組成の溶湯はCE<4.3%,従って溶湯中に発生する固体は,溶湯より炭素含有量(固溶度)の低い初晶オーステナイト(初晶γ)で,共晶凝固温度に達するまで溶湯中に増え続け,そこから吐き出された炭素分は,残湯のCEを上昇させ続ける.平衡状態凝固ではFe-G共晶凝固温度での残湯は共晶組成のCE=4.3%になっているが,通常の鋳物は非平衡状態で凝固するので,残湯の一部は共晶組成になる前にFe-Fe3C共晶凝固温度以下になり鉄-セメンタイトの共晶凝固することになる.

ここからが本題で,CE以外の全てが同じ条件で溶湯が鋳込まれたとしよう.CEが4.3%より低い溶湯を,チル無しで凝固させるには,Fe-Fe3C共晶凝固温度に達するまでに初晶γ(固体)から吐き出された炭素で残湯のCEをFe-G共晶凝固ができる4.3%にしなければならない.凝固までの限られた時間で,CEの低い溶湯と高い溶湯を比べると高いほうが始めから残湯中のCE%が高く,初晶γからの炭素供給が少なくて済み共晶組成(CE=4.3%)に達しやすいことがわかる.即ち,亜共晶組成においては,同じ凝固までの時間で残湯が共晶組成(CE=4.3%)に達するかどうかで,残湯が鉄と黒鉛の共晶凝固をするか,鉄とセメンタイトの共晶凝固するのかが決まる.従って,CEが低い溶湯の方がチル(Fe3C)化しやすい傾向がある.今回は鉄-炭素二元状態図で「亜共晶組成でのCE%変化とチルの関係」を説明したが,他に過共晶組成でのチル,含有元素,接種処理との関係なども分りやすく説明されている図書を下記に紹介します.勉強して下さい.

 

①素形材センター発行(平成24年10月),

鋳造技術シリーズ3「新版 鋳鉄の生産技術」,第2章「鋳鉄の状態図(P3~)」

②産業出版発行,中江秀雄著,新版「鋳造技術」  

(『鋳造工学』86巻8号掲載)