人工砂を用いる場合天然珪砂と比較してどのようなことに注意する必要がありますか.
人工砂の最大の利点は,耐火度の高いアルミナが含まれているため,耐焼着性に優れているということです.逆に人工砂の最大の欠点は,天然珪砂のような低温(573℃)でのα石英からβ石英への変態による熱膨張(約1.4%)が起らないことです.573℃での,ムライト系人工砂の線熱膨張率は約0.25%しかありません.このため,黒鉛の膨張と天然珪砂の熱膨張によってひけ巣の制御を行ってきた鋳鉄系材質においては,人工砂の使用はひけ巣との戦いを招くことになる為に注意する必要があります.
逆に,非鉄や鋳鋼などのひけ巣を主に押湯でコントロールしている材質は,人工砂を使うメリットがあります. 特に鋳込温度が高くカーボンが少ない鋳鋼では,天然珪砂で問題となるファイアライト(2FeO,SiO2)の生成が起りづらいことから,耐焼着性の観点から人工砂のメリットは大きいと思われます.人工砂は,耐破砕性に優れることから,フラン樹脂の欠点である窒素や硫黄を含まないアルカリフェノールと人工砂を組合わせることも,非鉄や鋳鋼では多くなっています.人工砂ができる以前は,珪砂の熱膨張によるベーニング欠陥の防止のため,純度の低い砂を混ぜていました.この方法では,砂の耐火度が低下するため化学的焼着との戦いになります.最近では,天然珪砂に人工砂を混ぜて熱膨張を調整する方法が用いられます.環境的には,人工砂は破砕性が低いため,珪砂のような細かな粉塵になることはありません.このため,粉塵による塵肺の危険性を低減できる効果があります.
(『鋳造工学』94巻3号掲載)