傾動式、ストッパーノズル式の注湯方法の利点・欠点または特徴を取り扱う湯種(FC/FCD)と絡めて教えてください. 例えば, Mgイオンがストッパーを浸食するため, FCDをストッパーノズル式で注湯する際は浸食されにくいストッパーを使う必要がある…等

 一般的に傾動式の注湯は, FCやFCDなどの鋳鉄で用いられることが多い. ストッパー方式は, 鋳鋼などの比較的融点の高い溶湯に対して用いられることが多い. 傾動式の注湯では, ノロが入りやすい問題や, 注湯時に溶湯が酸化するなどの欠点があります. ストッパー式は下注ぎなのでノロが入りづらく, 溶湯の酸化も防げるなどの利点はありますが, 取鍋のメンテナンスに手間が掛かるなどの問題があります. ストッパー方式ではメンテナンスのミスなどにより, ストッパーが抜けなかったり, 逆に溶湯が漏れ出すなどの安全と深く関わる問題が発生するケースも稀に見受けられます.

図1 酸化物のエリンガム図                          斎藤安俊, 阿竹徹, 丸山俊夫(編 訳):「金属の高温酸化」,内田老鶴圃(1986).

 
 図1に, Al2O3とMgOのエリンガム図を示しました. この図から分かるように, Mgは1091℃で沸騰するため1400℃程度ではMgOよりもAl2O3の方が安定であるためAl2O3+3Mg→3MgO+2Alの反応は起こらないと考えがちですが, 溶湯内の少量のMgは溶湯に溶けている状態であり、沸騰している訳ではありません. よって, 溶湯内のMgは図1の点線でしめした状態となります. このため, 全温度領域においてMgOはAl2O3より安定であるため, Al2O3+3Mg→3MgO+2Alの反応が起こることになり, アルミナや珪砂もしくはムライトなどの耐火物ではこの反応が起こることにより耐火物が溶け出してコージライトなどの異物を発生することになります. また溶存Mgが減少することにより耐火物付近で球状化不良が起こったりします. ストッパーだけでなくフィルターなどの耐火物でも, 同様なことが起こるので注意が必要です. 耐火物の骨材がSiCやZrOなどの場合でも, 耐火物のバインダーとしてアルミナやムライトが用いられている場合は同様な反応が起こります.
 FC溶湯にはMgが含まれていないので, FCD溶湯で起きる上記のような耐火物の反応は起りません.
                                   (『鋳造工学』94巻5号掲載)