厚肉鋳造品では内部と外部で冷却速度が異なりますが,機械的性質にはどのような影響を及ぼしますか?
機械的性質を論ずる前に肉厚部では押し湯からの溶湯補給が不足して巣ができることが第一義的に心配です.合金によりますが,内部の凝固が表層よりも遅延するため,表層部の凝固シェルが内部へ引っ張られることがあります.表層部の凝固完了前にこのことが発生すると外引けになります.外引けすると内部の凝固はますます遅延することになります.鋳型とのエアギャップの発生を考慮しないと凝固解析及び巣の発生位置の予測精度に問題を起こすことがあります.凝固割れの予測についても同様です.デンドライトが発達しやすい合金では特に注意が必要です.溶湯補給性が悪い,すなわち溶湯移動の際の圧力損失が大きくなりやすいためです.
表層部の方が内部よりも凝固速度が速いため,鋳鉄の場合は表層部で客先要求の黒鉛形状にならない場合は問題になることがあります.アルミニウム合金の場合は凝固速度が速いほど組織が細かくなり強度も良好になります.特に高圧ダイカストでは顕著です.切削除去すると急冷組織の良さが活用されないことになります.また,均一な肉厚の部品の鋳造ではなく部分的に薄肉部を含む場合は残留応力や変形が生ずることがあり,部品に対する要求事項によっては問題になります.(『鋳造工学』87巻9号掲載)