実際の鋳物では指向性が取れていてもひけ巣が発生することがあります. ちょうどいい指向性というものはあるのでしょうか?

 凝固時のひけ巣発生の主要因として、溶湯の体積収縮と溶湯に溶け込んだガスが挙げられます。熱は鋳型の内部から外側へと流れることから、鋳型に流入した溶湯は外面が早く凝固し、内側の凝固は遅れることになります。金属は凝固時に数%程度の体積収縮が発生するため,凝固に伴う体積収縮分は、溶湯補給がない限り、ひけ巣として空洞が発生してしまいます。また、溶湯には雰囲気などのガスが溶け込みやすく,温度が下がると固溶限が低下するため、溶け込んだガスは固溶できなくなり、気体として放出されることから、ひけ巣とともに空洞を形成する場合もあります。

 これらの対策として鋳造方案を工夫し、押湯の設置や鋳型の温度制御などで指向性凝固を確保した場合には、温度が高い方向から低い方向へと溶湯の補給を確保することにより、特定範囲でのひけ巣を防止することができます。しかし、中心線ひけ巣のように指向性が弱い場合、あるいは発生したガスの逃げ場がない場合には、空洞が製品内に残ってしまう場合もあります。

 したがって、凝固パターンと発生したガスの逃げを考慮した鋳造方案の立案、そして溶湯自体のガス量を抑制する、これら両面から対策を施すことが必要となります。

(『鋳造工学』90巻3号掲載)