接種する事で組織が微細化され強靭になると言われるのはなぜでしょうか? 共晶セルを微細化すると結晶粒界の面積が増加するので,微細化しない方が引張強さは強いのではないでしょうか? 

強靭化の度合にもよりますが,接種の効果も強靭化の一因子です.とは言え高強度で高延性を得られるかといえば,黒鉛化促進接種剤では延性向上を期待できますが,強度は低下し,パーライト促進接種剤を使えば逆となります.ご存知のように鋳鉄の機械的性質は,黒鉛組織に大きく依存し,同等ならば,基地組織のフェライト(α)/パーライト(P:α+共析Fe3C)率に依存しています.接種は,鋳鉄の凝固及び共析変態時のミクロ組織に大きな影響を及ぼし,その結果として機械的性質を改善しています.

次に共晶セル数が増加すれば,結晶粒界が増えるのは確かですが,含有する元素の偏析や反応生成物は分散化・平準化されます.そして,鋳鉄の強度は主に基地の連続性(有効断面積)に依存していることが実証されています1).鋳鉄は多結晶でα基地の場合,塑性変形(すべり)して破断するので必ずしも粒界が弱いとは言えないでしょう.また,微細化により強度が上がるのは,夫々の結晶ですべり方向が異なり,すべりの先端が隣り合う結晶の粒界で止められる回数が増えるためです.理論的には,ホール・ペッチの関係式:σy=σo+k/d1/2(σy:降伏応力,σo:結晶粒内の転位を運動させるのに必要な応力,k:結晶粒界による強化の比例定数,d:結晶粒径)に纏められています2)

1) 鋳鉄の科学、中村幸吉他著、社団法人日本鋳物工業会(2005)150

(『鋳造工学』91巻10号掲載)