本誌70巻709頁(1998年10月),71巻104頁(1999年2月)などの論文で,球状黒鉛鋳鉄の表面と内部の凝固時間比で溶湯ひけ傾向が評価できるとありますが,なぜかわかりません.詳しく説明してください.
文意が読み取りにくい論文ですが,本文中で鋳物のひけ発生を表面と内部の凝固時間比から推測することは他の研究者も述べており,MDE値やマッシイ度として測定できる,としています.
中も外も同時に凝固する場合(凝固時間比1に近い)と,表面から凝固スキンを作りながら凝固する場合(凝固時間比小と考える)鋳物のひけ発生が異なることは球状黒鉛鋳鉄鋳物と片状黒鉛鋳鉄鋳物の違いとして現場で経験されております.
しかし,実際にはひけ発生傾向の異なる溶湯で試験片を鋳造しても,試験片の凝固時間(比)を精度よく測定するのは困難(現状ではシミュレーションによって凝固時間比などを精度よく求めることも可能かもしれませんが)であり,加えて任意の試験片で測定した凝固時間やひけ量では溶湯間の相対的な比較しかできない,という問題が起こります.そこで,当該論文では凝固時間比でなく,ひけが発生しなくなると考えられる臨界形状係数(断面の厚さ,縦横比)を求め,それによって溶湯間の比較を可能としています.厳密には凝固時間比と試験片の幅/厚さ(形状係数)の関係も溶湯のひけ傾向によって変化すると考えられるので,この場合代表的な溶湯において,という条件を付ける必要があり,さらに臨界形状係数として単純な試験片の縦横比では限界がある,などの問題はありますが,この方法でいわゆるひけ傾向を助長するとされている複数の元素間で順位の比較,ひけ発生がなくなる臨界量を推定できた,と報告されています.
MDE値…鋳物表面と中心部における共晶凝固開始時間のずれと,中心部の共晶凝固時間との比
マッシイ度…中心部の凝固開始から表面部の凝固終了までの時間と,中心部の凝固に要する時間の比
(回答者:ヒケサブロウ)
(『鋳造工学』95巻7号掲載)